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ep.7 最初の客に値切られたらその後はそれが定価になるから絶対にやめたがいい
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***(時間は少し戻る)
日は暮れて、家の中には魔法灯の淡い光が漂っていた。
裏山の森は真っ暗になり、空には星が輝いていた。
一命をとりとめた俺は、突き落とした犯人探しをしようとした。
モンスターだとしたら、当分は森に入るのは危険だ。
夜の森は、何かが潜んでいるようにざわめいていた。
「……落として食べようとしてたんじゃないか?」
「その線もあるわね。きっと縄張りに入った敵を排除しようとしたのよ」
「ともかく当分は、森に入らないほうがいいな」
「誰か雇えばいいんじゃない?」
「うーん、金銭的に難しそうだな。考えとくよ。ところで、俺が作ったハニワは、ルルドナのように動くのか?」
「そんなのわからないわよ。月の光が重要な気はするけど……」
「俺のチート能力って一体何なんだろう。土器を瞬間的に焼き上げる? 粘土人形に命を与える?」
「私にはそこまでの鑑定はできないわ。この異世界のごく基本的なことを知ってるだけ」
「なるほど。……ところで、その服はどうなっているんだ?」
疑問だったが、服は土でできているのだろうか?
「土よ」
「じゃあ、肌と服は一緒の材質?」
「まあそうね」
「ていうことは実質裸?」
「……はあ?」
ルルドナが、にっこり笑った。
〈クルンッ! ドン!〉
体が地面に転がる。背中から草の上にたたきつけられ、肺から空気が押し出される。
ルルドナの魔法のようだ。
冷徹な目で見下ろされる。
「私のような創造された存在に、裸も何もないの。服のようになっているのはあなたの頭のイメージを再現したからじゃないの? わかった?」
「なにも転がさなくても……」
地面に転がったままルルドナを改めてよく観察すると和洋折衷人形というか現代の和風カフェの店員というか、悪くないデザインの姿だ。
……もちろん、ハニワのほうが曲線美が素晴らしいが。
しかしそれを口にするとまた殴られそうだから黙って立ち上がる。
「この小さな人形を月明かりに当てて明日動くか観察してみよう」
喋りながら作った人形を月明かりの当たる場所に置く。小さなハニワだ。
「うん、そうね。実験しないと」
「動く人形なんて高値で売れるだろうなあ」
「ゴーレムとかいるから、そんなに希少価値はないと思うわよ。まあ、形によるかもしれないけど。猫型とかいいかもね」
「ネコ耳! おお、創作意欲が湧いてきたぞ!」
都合よく聞き間違え、土いじりの準備を始める。
「……ま、当分はそれでいきましょう。……で、土で創ってもらいたいものがあるんだけど」
――と頼まれ、創作をしていたら、客が来たのだ。
***(ここから前回の続き)
さて、どうするか。
フードの少女が値引きをしている。
月見草は推定適正価格は80万。前払いとしても30万は支払ってもらいたい。だけど彼女が持ってきているのは数万ほど。
こういう状況では、いつもの俺は甘い顔をしてしまう。
だけど今回は流石に金額が低すぎる。
これを許してしまうと後からずっとこの対応をしなければならなくなる。
経営において、なめられるのは崩壊の第一歩だ。
だからこそ、ここは引けない。
――覚悟を決め、口を開こうとしたとき。
「だめよ。こっちだって商売なんだから」
ルルドナが仁王立ちで拒否する。
それに対し、客は手をわなわな震わせる。
(……怒ったか?)
だけどフードの下から返ってきたのは予想外の答。
「え、この子、ゴーレムっすか? か、かわいい……!」
フードの少女がルルドナに手を伸ばす。
「は?」
口を開けて固まるルルドナ。頭や肩をなでられる。
俺は何度も頷いて肯定する。
「そうだろう。俺が作ったんだ」
「え? 創造魔法が使えるんすか?」
フードの女の子の口調が砕ける。だけどそういうのは気にしないで続ける。
「転生者のチートスキルさ。粘土細工士だよ」
思いついた職業名を口にする。
「すごい! 人は見かけによらないって本当なんすね!」
「そうそう。見かけによらないわよね」
(……ん?)
「でも、こんなに意識まではっきりとして、自律的に動くなんて。噂に聞いていたっすけど、異世界人ってすごいんすね! しかも可愛いっす! 美しいっす! 神々しいっす!」
天然なのか、彼女はルルドナを褒めちぎる。
ルルドナは動かない。赤土残る彼女の頬が、更に赤くなる。
よく見ると頭の後ろまで赤くなっている。
「クタニ、この子に月見草売ってあげなさい」
姿形を褒められたルルドナは、あっさりと意見を変えた。
その表情は、……めちゃくちゃうれしそうだった。
……ちょろい奴だったんだ。
「……仕方ない。今回は特別ですよ。残りはツケってことにしておきます。ただし、誰にも言わないでください」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げた彼女は、月見草をまるでプレゼントのように大切そうに抱えて、丘を下っていった。
***
「あれで良かったの?」
「大丈夫だろ。ただ……ツケとか値下げとかすぐにしてくれるって、他の客に広まらないといいけど」
「SNSがないから大丈夫でしょ」
妙にリアルな説得力だ。
「だけど満月の夜限定とはいえ、万能薬をあんなに安く売って良かったのか」
「いいんじゃないかしら。後からの客には開店セール中だった、とか言えばいいのよ」
「ともかくツケ、75万だから、記録しておくな」
「あの子はきっと返しにくるわ。いい子だもの」
すっかり信じ切っているルルドナ。
(もしあの子が詐欺師だったら、すごくキレるだろうな……)
「月見草って今晩しか効果ないんなら、明日になったらいくらだ?」
「加工して保存しておけば多少は効果あるみたいだから、乾燥させて袋入りで20万くらいかしら」
「なるほどねえ。じゃあ、夜が更けるに連れ、値下げしていくのはどうだ? 夜8時には50万、夜9時には45万、みたいな感じで値下げを……」
「まあ満月の日だけ特別にしてそれでもいいけど、クタニ、一晩中お店を開いているつもり?」
「まあ、そのつもりだが。コンビニだって、1日中やっているし」
「いつ、寝るの?」
「……夜の店番、頼める? ちょうど夜行性っぽいし」
「いいけど、私が頼んでおいた部品はできたの?」
「あと少しで全部できる」
「それができたら、頼まれるわ」
結局、頼まれていた量をすべて作ったときには深夜になっていて、ようやく寝床にありつけた。
***
次の日、まだ薄暗い時間帯。ルルドナの書き置きを見つけた。
『ゴミ山のみんなにお礼をしにいきます。月見草と、雑貨もそれなりに売れたので、売上を店の奥の棚に入れておきます』
奥に向かい棚の引き出しを開けて覗き込んでみると、確かにあった。札と硬貨を数えてみると100万以上。
「一晩で100万以上の売上かあ」
これなら借金返済も楽勝だな、と楽観する。
「……でも待てよ。俺、借金100億だぞ。満月の日が100回来ても……ダメじゃん」
だけど、悪いスタートじゃないはずだ。
大金を前につい、ほくそ笑んでしまう。
「ただいま」
ルルドナが帰ってきた。
「あ、おかえり、どうだった?」
「野暮用よ」
「お礼はできたのか?」
「それなりにね。ま、あれでいいんじゃないかしら」
その表情は朝日に照らされ、どこか穏やかな光をまとっていた。
***
「で、今日は何を売るのよ?」
腕組みをしてルルドナが尋ねる。
「無いんだよねえ。ひとまず粘土の塊を置こうかな……」
ほとんど空になってしまった棚を見つめる。
「そういえば、小さいハニワはどうなったの?」
「……それを忘れていた!」
俺らはかけるようにハニワの置かれた窓際へ走っていった。
日は暮れて、家の中には魔法灯の淡い光が漂っていた。
裏山の森は真っ暗になり、空には星が輝いていた。
一命をとりとめた俺は、突き落とした犯人探しをしようとした。
モンスターだとしたら、当分は森に入るのは危険だ。
夜の森は、何かが潜んでいるようにざわめいていた。
「……落として食べようとしてたんじゃないか?」
「その線もあるわね。きっと縄張りに入った敵を排除しようとしたのよ」
「ともかく当分は、森に入らないほうがいいな」
「誰か雇えばいいんじゃない?」
「うーん、金銭的に難しそうだな。考えとくよ。ところで、俺が作ったハニワは、ルルドナのように動くのか?」
「そんなのわからないわよ。月の光が重要な気はするけど……」
「俺のチート能力って一体何なんだろう。土器を瞬間的に焼き上げる? 粘土人形に命を与える?」
「私にはそこまでの鑑定はできないわ。この異世界のごく基本的なことを知ってるだけ」
「なるほど。……ところで、その服はどうなっているんだ?」
疑問だったが、服は土でできているのだろうか?
「土よ」
「じゃあ、肌と服は一緒の材質?」
「まあそうね」
「ていうことは実質裸?」
「……はあ?」
ルルドナが、にっこり笑った。
〈クルンッ! ドン!〉
体が地面に転がる。背中から草の上にたたきつけられ、肺から空気が押し出される。
ルルドナの魔法のようだ。
冷徹な目で見下ろされる。
「私のような創造された存在に、裸も何もないの。服のようになっているのはあなたの頭のイメージを再現したからじゃないの? わかった?」
「なにも転がさなくても……」
地面に転がったままルルドナを改めてよく観察すると和洋折衷人形というか現代の和風カフェの店員というか、悪くないデザインの姿だ。
……もちろん、ハニワのほうが曲線美が素晴らしいが。
しかしそれを口にするとまた殴られそうだから黙って立ち上がる。
「この小さな人形を月明かりに当てて明日動くか観察してみよう」
喋りながら作った人形を月明かりの当たる場所に置く。小さなハニワだ。
「うん、そうね。実験しないと」
「動く人形なんて高値で売れるだろうなあ」
「ゴーレムとかいるから、そんなに希少価値はないと思うわよ。まあ、形によるかもしれないけど。猫型とかいいかもね」
「ネコ耳! おお、創作意欲が湧いてきたぞ!」
都合よく聞き間違え、土いじりの準備を始める。
「……ま、当分はそれでいきましょう。……で、土で創ってもらいたいものがあるんだけど」
――と頼まれ、創作をしていたら、客が来たのだ。
***(ここから前回の続き)
さて、どうするか。
フードの少女が値引きをしている。
月見草は推定適正価格は80万。前払いとしても30万は支払ってもらいたい。だけど彼女が持ってきているのは数万ほど。
こういう状況では、いつもの俺は甘い顔をしてしまう。
だけど今回は流石に金額が低すぎる。
これを許してしまうと後からずっとこの対応をしなければならなくなる。
経営において、なめられるのは崩壊の第一歩だ。
だからこそ、ここは引けない。
――覚悟を決め、口を開こうとしたとき。
「だめよ。こっちだって商売なんだから」
ルルドナが仁王立ちで拒否する。
それに対し、客は手をわなわな震わせる。
(……怒ったか?)
だけどフードの下から返ってきたのは予想外の答。
「え、この子、ゴーレムっすか? か、かわいい……!」
フードの少女がルルドナに手を伸ばす。
「は?」
口を開けて固まるルルドナ。頭や肩をなでられる。
俺は何度も頷いて肯定する。
「そうだろう。俺が作ったんだ」
「え? 創造魔法が使えるんすか?」
フードの女の子の口調が砕ける。だけどそういうのは気にしないで続ける。
「転生者のチートスキルさ。粘土細工士だよ」
思いついた職業名を口にする。
「すごい! 人は見かけによらないって本当なんすね!」
「そうそう。見かけによらないわよね」
(……ん?)
「でも、こんなに意識まではっきりとして、自律的に動くなんて。噂に聞いていたっすけど、異世界人ってすごいんすね! しかも可愛いっす! 美しいっす! 神々しいっす!」
天然なのか、彼女はルルドナを褒めちぎる。
ルルドナは動かない。赤土残る彼女の頬が、更に赤くなる。
よく見ると頭の後ろまで赤くなっている。
「クタニ、この子に月見草売ってあげなさい」
姿形を褒められたルルドナは、あっさりと意見を変えた。
その表情は、……めちゃくちゃうれしそうだった。
……ちょろい奴だったんだ。
「……仕方ない。今回は特別ですよ。残りはツケってことにしておきます。ただし、誰にも言わないでください」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げた彼女は、月見草をまるでプレゼントのように大切そうに抱えて、丘を下っていった。
***
「あれで良かったの?」
「大丈夫だろ。ただ……ツケとか値下げとかすぐにしてくれるって、他の客に広まらないといいけど」
「SNSがないから大丈夫でしょ」
妙にリアルな説得力だ。
「だけど満月の夜限定とはいえ、万能薬をあんなに安く売って良かったのか」
「いいんじゃないかしら。後からの客には開店セール中だった、とか言えばいいのよ」
「ともかくツケ、75万だから、記録しておくな」
「あの子はきっと返しにくるわ。いい子だもの」
すっかり信じ切っているルルドナ。
(もしあの子が詐欺師だったら、すごくキレるだろうな……)
「月見草って今晩しか効果ないんなら、明日になったらいくらだ?」
「加工して保存しておけば多少は効果あるみたいだから、乾燥させて袋入りで20万くらいかしら」
「なるほどねえ。じゃあ、夜が更けるに連れ、値下げしていくのはどうだ? 夜8時には50万、夜9時には45万、みたいな感じで値下げを……」
「まあ満月の日だけ特別にしてそれでもいいけど、クタニ、一晩中お店を開いているつもり?」
「まあ、そのつもりだが。コンビニだって、1日中やっているし」
「いつ、寝るの?」
「……夜の店番、頼める? ちょうど夜行性っぽいし」
「いいけど、私が頼んでおいた部品はできたの?」
「あと少しで全部できる」
「それができたら、頼まれるわ」
結局、頼まれていた量をすべて作ったときには深夜になっていて、ようやく寝床にありつけた。
***
次の日、まだ薄暗い時間帯。ルルドナの書き置きを見つけた。
『ゴミ山のみんなにお礼をしにいきます。月見草と、雑貨もそれなりに売れたので、売上を店の奥の棚に入れておきます』
奥に向かい棚の引き出しを開けて覗き込んでみると、確かにあった。札と硬貨を数えてみると100万以上。
「一晩で100万以上の売上かあ」
これなら借金返済も楽勝だな、と楽観する。
「……でも待てよ。俺、借金100億だぞ。満月の日が100回来ても……ダメじゃん」
だけど、悪いスタートじゃないはずだ。
大金を前につい、ほくそ笑んでしまう。
「ただいま」
ルルドナが帰ってきた。
「あ、おかえり、どうだった?」
「野暮用よ」
「お礼はできたのか?」
「それなりにね。ま、あれでいいんじゃないかしら」
その表情は朝日に照らされ、どこか穏やかな光をまとっていた。
***
「で、今日は何を売るのよ?」
腕組みをしてルルドナが尋ねる。
「無いんだよねえ。ひとまず粘土の塊を置こうかな……」
ほとんど空になってしまった棚を見つめる。
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