丘の上の雑貨屋と魔王モール

toseki.yunomi

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ep.26 捕らぬ狸の皮算用は崩壊の始まり

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群青の美しい髪にしずくのような肌。深い新緑の瞳はまるで深海の水を凝縮したようだ。

水と闇のデビルウンディーネ、ガディ。
その瞳が俺をぽかんと見つめている。

ガディは昨日仲間になったばかりだ。

「この子は現在、臨時で手伝ってもらっているだけでして……。売るような真似は……」

俺はどうにか震えないように頭を下げる。しかし返事は意外なものだった。

「わしらを見くびっているんかい」

「オレらが欲しいのは、これよ、これ」

その先にあるのは、ガディの胸元にある、陶器の看板だった。
「これは、どこで作ってもらった?」

あ、そっち。
――看板娘じゃなくて看板がほしいってか。

まるで人身販売か何かだと勘違いした俺は、肩の力を抜いて答える。
「それなら……、作ったのは俺ですが」

「おお! やるもんじゃのう」「ほう」「すげぇなあ」

「はっはっは。転生時にちょっと特殊なスキルを得てしまいまして。これくらいならすぐに作成できますよ」

「そりゃいいのう。このデザインで、いっちょ頼むわ。時間はどのくらいでできる?」

俺はデザインされた紙を渡される。

「1つにつき、……30分ほどあれば」
本当は10分くらいでできるが、余裕をもって時間をいう。

「そいじゃあ、頼むわ! 値段はお前らが決めてくれ! がっはっはっは」
気をよくしたオヤジたちは豪快に笑いながら帰っていった。

***
「これはチャンスよ」
快諾した看板作りをしていたら、ハニワ人形(以降、小ルルドナ)から興奮気味の声が出てきた。

「え? 何が?」
「意外な需要は、チャンスなのよ」
「はあ……」

ちなみに看板は2万ゲルを提案してみたら、あっさりオーケーしてくれた。

「この看板作りをして、一気に売上を伸ばすのよ」
「なるほど……!」

「この都市の規模なら10枚はいけるわ。出張費はどのくらい必要なの?」
「……えっと、全員で30万あれば馬車で移動して宿代も十分なんだよね。看板を10枚売って20万ゲル、パンを300斤で33000ゲル、お皿とのセットを100セットで18000ゲル。合わせて……251000ゲルかぁ。ちょっと足りないなあ」
(新しい街だから、小麦などを安くで仕入れることができないので、原価率が上がっているのも痛い……)

「花屋に、花瓶も売るのよ」

さすが、……発想が抜け目ない。
「サイズの違う花瓶を1セット1000ゲルで50セット売って、5万ゲル」

「合わせて、30万ゲル超えるわね」
「……これで足りる!」

俺は販売を仲間たちに任せて、看板作りにいそしんだ。俺は目標が見えると強い。あまり作りたくないようなものでもどんどん作れる。

これも使命感だろうか。どちらにしろ、きちんとした形で注文を受けたのは初めてだ。

この世界では陶器はちょっと珍しい程度だろうけど、看板に使うという発想はまだないみたいだ。
「日本だと表札として使っているところは珍しくないけど、そうか、これが需要か……」

もちろん、メインの看板ではない。表札をちょっと上等にしたようなものである。だが、それでも店のワンポイントにはちょうどいいのかもしれない。

――需要のにおいを感じ取る。
少し成長した気がした。
だがそれは……商売の初心者が陥る落とし穴でもあった。

このあと……捕らぬ狸の皮算用とは、まさに今回のことだと実感することになった。
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