35 / 38
ep.35 世の中は一難が去る前に一難がやってくる、四角いスライム登場
しおりを挟む
珍しくペッカが慌てた感じになり声を上げる。
「な、なんだ!?」
「しまった! いまのなし!」
かわいらしい声が響く。子どものようだ。
サイコロの形をしたイスは、壁にぶつかった衝撃で変形していたが、またもとの立方体の形に戻る。
「……いや、もう遅いよ」
そういって、無害そうな足元に転がった立方体を撫でまわす。青緑色の石のようだが、触ると餅の表面のように微妙なざらつきがある。
「うーん、この質感、スコリィのそれと似ているな。肌を硬質にする魔法か?」
抗議するように四角いスライムが叫ぶ。
「違う! そういう体質だ! 硬くなってしまうんだ! ていうか撫でるな! つつくな!」
声がどこから出ているかわからないけど、良いツッコミだ。
「えっと、君はどういう種族なの? どうしてこの馬車に?」
「……」
返事はない。
周りのメンバーを見渡すが、首をかしげるばかり。誰も知らないようだ。
「馬車のタダ乗り、御者さんに言おうかな」
俺が立ち上がると、サイコロから声が上がる。
「ちょっとまった! オイラはスライム族! ファストライフシティまで移動したい!」
「スライム!? こんなに硬いのに? 体質って言ってたけど自在に硬度を変えられるの?」
俺は興味津々でなでたりつついたりする。四角いスライムは転がって離れる。
「なでるなつつくな! オイラは緊張するとかなり固くなるんだ」スライムが叫ぶ。
「緊張すると固く? 本来は柔らかいの? こねたりしたら柔らかくなるの? それとも温めるとやわらかくなるとか?」
俺は離れたスライムを捕まえて足で挟み、改めてなでたりノックして音を確かめたりする。水まんじゅうの表面5センチくらいが餅のように固くなった感じか。
さらに顔を近づけてにおいをかぐ。スコリィが思わず非難してくる。
「変態っす!」
「物質に対する愛情が深いと言ってくれ」
「やめろー! 物質っていうな! とにかく、黙っていてくれ。オイラは長い距離の移動が苦手なんだ。金もない!」
「ほう、では何が得意なんだ?」
「ふふん、オイラは熱いのも冷たいのも全然平気だ。それに切られても平気だ」
ペッカは珍しそうに立方体のスライムをつつく。
「耐性のあるスライムか。しかしこんな硬いスライムは初めて見るな」
「やめろチビドラゴン! オイラはもう50年も生きているんだぞ! お前はいくつだ!?」
さすが異世界。みんな年齢感覚が違う。
「60だ。ドラゴンとしてはかなり若いがな」
「……う、ちょっと上か。オイラだってスライムとしてはかなり若いほうだけど」
「歳が近いし、森に住む者同士、仲良くなろうじゃないか」
いじわるそうな顔になるペッカ。
「仲良くなるか! ファストライフシティに行くまでの間だ」
「ファストライフシティにはどうして?」
「オイラは、病気の治療に行くんだ」
「なんの?」
「この、カチコチになる体質を治すんだ! プニプニになりたいんだ!」
「治るようなものなの?」
「わからない! だけど名医がいるらしいから、その可能性に賭ける!」
スライムの目がようやく表れる。カッと見開いて、ちょっと怖い。
その様子を見たイゴラが感激して立ち上がる。
「男らしいです!」
しかしペッカは不思議そうだ。
「そうだろうか。医者に診てもらおうとしているだけではないか」
イゴラくんが珍しく反撃する。
「男はコンプレックスを医者にすら相談したくないんですよ!」
「まあまあ、落ち着いてイゴラくん。わかるわかるよぉ。俺もそういう時期があった」
俺がなだめると、イゴラくんは息を整えながら座った。
「おい、チビゴーレム、お前は見どころがあるな。ファストライフシティまで弟子にしてやろう」
そういうと、そのブロックのような体から、にゅ~っと手らしきものを伸ばす。握手を求めているようだ。
「え」
イゴラくんはなされるがままに握手をする。
俺が視線を上げるとスコリィが口元をひくつかせ複雑な表情をしていた。
――イゴラくん、モテモテでちょっとうらやましい。
ガディはやたらとおとなしいと思ったら、スヤスヤと寝ていた。一番の大物はガディということが明らかになった。
***
「いつの間にか乗ってていいことになっているけど、俺はまだ許してないんだけど」
「ダメなのか?」
「……」
ここで簡単に許すと威厳が損なわれる。しかし次の瞬間、俺はあっさりと許してしまう。だってそういう性分なんだから。
「いいよ。ただし、何かファストライフシティまでに何かアクシデントがあったら、協力すること」
馬車は何事もなく進んでいたが、俺は知っている。アクシデントが起こらないわけがない、と。
――予想通り、馬車が大きく揺れて止まる。
「て、敵襲ーー!」
御者の大声は、恐れているという感じではなく、珍しいものを見たという変な声だった。
外を見てみると、前方に大量の馬車が見えた。
「ま、魔王通販部隊アマゾネスワンっす……!」
「……なにそれ」
よく見ると馬車の荷台が白鳥の形をしている。
「あいつら、データサイエンス魔法で物欲を先読みして、注文する前にブツを送りつけてくるっすよ!」
(データサイエンス、あらゆるデータから対象を観察・分析しモノを売りまくるとかに使う科学的手法か……)
珍しくスコリィが震えている。
――あの、天真爛漫、傍若無人のスコリィが。
だけど俺は冷静にツッコミをする。
「それ、ただの押し売りじゃないの……?」
大げさに首を振って否定するスコリィ。
「いやいやいや、彼らの読みはめったに外れないっす! アタシは前の推しにはまっていたとき、信じられないほど使わされたっす!」
……物欲に負けただけじゃねぇか。
ともかく、御者が敵襲と言うほどだから、本当にやばいくらい売り方がうまいのかもしれない。しかし俺は勉強ついでに相手をしてやるとかえって意気込んだ。
「な、なんだ!?」
「しまった! いまのなし!」
かわいらしい声が響く。子どものようだ。
サイコロの形をしたイスは、壁にぶつかった衝撃で変形していたが、またもとの立方体の形に戻る。
「……いや、もう遅いよ」
そういって、無害そうな足元に転がった立方体を撫でまわす。青緑色の石のようだが、触ると餅の表面のように微妙なざらつきがある。
「うーん、この質感、スコリィのそれと似ているな。肌を硬質にする魔法か?」
抗議するように四角いスライムが叫ぶ。
「違う! そういう体質だ! 硬くなってしまうんだ! ていうか撫でるな! つつくな!」
声がどこから出ているかわからないけど、良いツッコミだ。
「えっと、君はどういう種族なの? どうしてこの馬車に?」
「……」
返事はない。
周りのメンバーを見渡すが、首をかしげるばかり。誰も知らないようだ。
「馬車のタダ乗り、御者さんに言おうかな」
俺が立ち上がると、サイコロから声が上がる。
「ちょっとまった! オイラはスライム族! ファストライフシティまで移動したい!」
「スライム!? こんなに硬いのに? 体質って言ってたけど自在に硬度を変えられるの?」
俺は興味津々でなでたりつついたりする。四角いスライムは転がって離れる。
「なでるなつつくな! オイラは緊張するとかなり固くなるんだ」スライムが叫ぶ。
「緊張すると固く? 本来は柔らかいの? こねたりしたら柔らかくなるの? それとも温めるとやわらかくなるとか?」
俺は離れたスライムを捕まえて足で挟み、改めてなでたりノックして音を確かめたりする。水まんじゅうの表面5センチくらいが餅のように固くなった感じか。
さらに顔を近づけてにおいをかぐ。スコリィが思わず非難してくる。
「変態っす!」
「物質に対する愛情が深いと言ってくれ」
「やめろー! 物質っていうな! とにかく、黙っていてくれ。オイラは長い距離の移動が苦手なんだ。金もない!」
「ほう、では何が得意なんだ?」
「ふふん、オイラは熱いのも冷たいのも全然平気だ。それに切られても平気だ」
ペッカは珍しそうに立方体のスライムをつつく。
「耐性のあるスライムか。しかしこんな硬いスライムは初めて見るな」
「やめろチビドラゴン! オイラはもう50年も生きているんだぞ! お前はいくつだ!?」
さすが異世界。みんな年齢感覚が違う。
「60だ。ドラゴンとしてはかなり若いがな」
「……う、ちょっと上か。オイラだってスライムとしてはかなり若いほうだけど」
「歳が近いし、森に住む者同士、仲良くなろうじゃないか」
いじわるそうな顔になるペッカ。
「仲良くなるか! ファストライフシティに行くまでの間だ」
「ファストライフシティにはどうして?」
「オイラは、病気の治療に行くんだ」
「なんの?」
「この、カチコチになる体質を治すんだ! プニプニになりたいんだ!」
「治るようなものなの?」
「わからない! だけど名医がいるらしいから、その可能性に賭ける!」
スライムの目がようやく表れる。カッと見開いて、ちょっと怖い。
その様子を見たイゴラが感激して立ち上がる。
「男らしいです!」
しかしペッカは不思議そうだ。
「そうだろうか。医者に診てもらおうとしているだけではないか」
イゴラくんが珍しく反撃する。
「男はコンプレックスを医者にすら相談したくないんですよ!」
「まあまあ、落ち着いてイゴラくん。わかるわかるよぉ。俺もそういう時期があった」
俺がなだめると、イゴラくんは息を整えながら座った。
「おい、チビゴーレム、お前は見どころがあるな。ファストライフシティまで弟子にしてやろう」
そういうと、そのブロックのような体から、にゅ~っと手らしきものを伸ばす。握手を求めているようだ。
「え」
イゴラくんはなされるがままに握手をする。
俺が視線を上げるとスコリィが口元をひくつかせ複雑な表情をしていた。
――イゴラくん、モテモテでちょっとうらやましい。
ガディはやたらとおとなしいと思ったら、スヤスヤと寝ていた。一番の大物はガディということが明らかになった。
***
「いつの間にか乗ってていいことになっているけど、俺はまだ許してないんだけど」
「ダメなのか?」
「……」
ここで簡単に許すと威厳が損なわれる。しかし次の瞬間、俺はあっさりと許してしまう。だってそういう性分なんだから。
「いいよ。ただし、何かファストライフシティまでに何かアクシデントがあったら、協力すること」
馬車は何事もなく進んでいたが、俺は知っている。アクシデントが起こらないわけがない、と。
――予想通り、馬車が大きく揺れて止まる。
「て、敵襲ーー!」
御者の大声は、恐れているという感じではなく、珍しいものを見たという変な声だった。
外を見てみると、前方に大量の馬車が見えた。
「ま、魔王通販部隊アマゾネスワンっす……!」
「……なにそれ」
よく見ると馬車の荷台が白鳥の形をしている。
「あいつら、データサイエンス魔法で物欲を先読みして、注文する前にブツを送りつけてくるっすよ!」
(データサイエンス、あらゆるデータから対象を観察・分析しモノを売りまくるとかに使う科学的手法か……)
珍しくスコリィが震えている。
――あの、天真爛漫、傍若無人のスコリィが。
だけど俺は冷静にツッコミをする。
「それ、ただの押し売りじゃないの……?」
大げさに首を振って否定するスコリィ。
「いやいやいや、彼らの読みはめったに外れないっす! アタシは前の推しにはまっていたとき、信じられないほど使わされたっす!」
……物欲に負けただけじゃねぇか。
ともかく、御者が敵襲と言うほどだから、本当にやばいくらい売り方がうまいのかもしれない。しかし俺は勉強ついでに相手をしてやるとかえって意気込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる