丘の上の雑貨屋と魔王モール

toseki.yunomi

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ep.38 趣味を理解されない苦しみは田舎オタク共通~この異世界の設定~

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戦いが勝利に終わり、俺は強気に出ていた。

「さあさあ、俺の作ったハニワ人形を買ってもらいましょうか」

親指サイズのハニワ人形を背負っていたリュックから取り出す。
――その数、およそ100体。

「ぐっ……! どんな相手でもビジネスの取引は必ず守ります。それが魔王モールの掟……!」
俺は口の端を上げ高らかに言う。
「では、ハニワ人形100体お買い上げで、100万ゲルになります!」

「……て、てんちょー。さすがにそれはひどいっす」スコリィのいつものツッコミ。
「そうですよ。そんな不気味なものに100万ゲルはないですよ」イゴラくんのいつにないツッコミ。

「悪徳商人になるつもりか?」ペッカの批難。
「不潔です」誰だ不潔って言ったやつ。

「兄ちゃん、そりゃないぜ。ゴミ人形のほうがまだましってもんだぜ」
ピノキさんたちにも異世界人にハニワの良さが伝わらないらしい。

拳を掲げて叫ぶ。
「抽象芸術の極地、ハニワの良さがまだわかんないのか!」
……。

返事なし。

肩にポンと手を置くスコリィ。
「推しが周りに理解されない悲しみ、わかるっすよ。でも、押しつけはよくないっす。推しだけに」

「うまいこと言ってんじゃねー! あーもういいですよ、全部で1万ゲルでいいですよ。俺がコツコツ作り上げた百体のハニワたち1万ゲルでいいです!」

「……なんか、すみません」
魔王通販部門のシラトリに謝られ、サンドイッチとコーヒーの余りを美人オーガのメイドにもらった。

こうやって、俺たちの魔王通販部隊のゲリラバザー対決は無事に終わったのだった。

**
〈ガタタンゴトン、ガタタンゴトン〉
魔王通販部隊をやりすごし、馬車は森の中を進む。

御者にきいてきたガディが残り時間を皆に伝える。
「あと6時間くらいでひとまず宿泊所らしいです」

皆で買ったものを確認する。合計3万ゲル分を買っていた。高級小麦粉、高級はちみつ、一人暮らし本、ミネラルウォーターと『いい水百選』、小型のロクロと『世界の粘土図鑑』。

「完全な赤字だ……。これが試合に勝って勝負に負けたってやつか……。だけど、彼らはどうやって俺たちの好みを調べたのだろう?」

「そういうデータを集めるデータサイエンス魔法があるらしいっす」

「夢がないなあ。販売ってのは自分の好みを周りに広めるのが楽しいのに……。ああ、異世界にハニワブームを巻き起こしたい」

「夢見すぎっす」とスコリィ。
「やめたほうがいいですよ。不気味すぎます」イゴラくんも続く。
彼はハニワのことになると毒舌である。

ペッカもガディも勢いよく首を縦に振っている。
……もうこのメンバーでハニワの話をするのはやめよう。

「とにかく、馬車移動で時間があるんだから、魔王や一昔前の大戦のこと聞かせてくれ。それで、ルルドナ救出の戦略も考えよう」

「そういうことなら、俺様が話そう」ペッカが語り出した。

***(ペッカの語り)
「この世界はそもそも、いろんな大陸がそれぞれ平和に暮らしていた。交流はあったが、そこまで多くはなかった。しかし、大型の移動手段ができ、魔王が世界を支配しようとした。力での支配だ。

――だが、勇者に倒された。

宝も城も奪われた魔王は、命までは奪われなったが、ほぼすべてを奪われ、小さな島に流された。
しかし突然、魔王と生き残った奴らで小さな店を始めた。小さな店だ」

つい口を挟む。
「もしかして魔王は異世界人かと思っていたけど、違うのかな?」
「さあな。異世界人が変化の魔法で魔族っぽくなっているだけかもしれんな……。とにかく、魔王は力による支配をやめ、小さな店から、次第に店舗を拡大し、ショッピングモールをやりはじめた」

一見美しい成功物語のようだけど、魔王がやっているとシュールである。

「我々が気が付いたときは遅かった。いつの間にか魔王は世界中にショッピングモールを展開し、この世界の経済を握り誰も反抗できなくなっていった。もっとも、庶民は反抗する意味もないからな」

「安く、そこそこの品質のものが何でも手に入る。ただ人々はモノを大切にしないようになり、狂ったように物を買い始めた。ピノキさんたちの古いおもちゃや家具が修理されないで、山や海に捨てられるようになった」

「ドラゴンとの関係は?」
「知識で圧倒していたドラゴン族は伝統工芸で対抗しようとして、転生者からマーケティングなども学んでいたが、勢いを止めることはできなかった」

「ドラゴンはもしかして絶滅に向かっているのか?」
「そこまではいかない。だが随分と数は減った。世界は平和になりすぎた。俺達も経済の複雑なことはよくわからなくなったし、今は一見うまくいっているし、いいのではないかと思うようになってきた」

なんか本当に俺のいた元の世界と似ている。
「ともかく我々魔物は、この世界の残された森や自然の中で力を磨くことにした」
「転生者は魔王を倒そうとはしないの?」

転生者はチート能力を与えられる。それで倒そうとするやつがいるかもしれない。
「わからん。だが誰も立ち向かったという話はきかない。ショッピングモールが襲撃にあったという話もきかない」

「俺は倒しに行くわけじゃないんだけど、それはいい?」
「まあ、無理強いはしないさ。俺様だって今回は偵察という意味で向かうつもりだ。一匹の力でどうにかできる次元を超えている」

ガタンゴトンと馬車は揺れる。
「まあさっきの魔王通販の奴らだって、悪どいことしてたし、誘拐はするし、油断してはいけないのは確かだね」

俺の言葉にガディが頭を下げる。
「うちの父がご迷惑を……」
「いやいやとにかく様子を見てみようよ。実際にこの目で見てみないと何事もわからないよ」

「ああ、俺様も同意見だ。一人暮らしも慣れてきたし、都会に行ってみるのも悪くない」
ひとり暮らし始めた大学生のノリじゃん。……まあいいか。
午後の昼下がり。馬車は不気味なほど穏やかな道を進んでいった。
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