丘の上の雑貨屋と魔王モール

toseki.yunomi

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ep.42 長距離移動はやたらと疲れるからその日の宿ではよく眠れる

 ――大都市ファストライフシティ。
 馬車は丘の上で止まり、俺たちは街を見下ろしていた。

 夕焼けに染まる石造りの街並み。

 ――懐かしい。
 理由はわからないのに、胸の奥がじんと熱くなった。

「ああ……帰ってきたか、我が故郷よ」

「以前、住んでいたのですか?」
 隣のガディが首をかしげる。

「いや……住んでたわけじゃない。……ただの気分だ。心の故郷的な……」

 彼女は少し考えてから、やわらかく微笑った。
「そういう感覚、嫌いじゃありません」

 馬車が街に近づくにつれ、印象が変わった。
 城壁は分厚く、魔法灯が整然と並び、門兵は一切の隙を見せない。

 ……軍隊都市、か。

 特に門兵はロボットでは無いかと思えるほど精密な動きをし、淡々と城内へ入る人々をチェックしていた。

(あ、でも門兵ってコンビニバイトより簡単そうだなあ。時給いくらだろう)

「長旅ご苦労だが、顔を見させてもらう」

 門兵のひとりが馬車を覗き込み、淡く光る球体を取り出した。
 それをこちらへかざすと、空気がわずかに震える。

「……異常なし」

 球体の光が、ほんの一瞬だけ揺れた。
 門兵は一度だけ目を細めたが、すぐに視線を戻す。

「通れ」

 門をくぐる瞬間、背筋に冷たいものが走った。
 ……気のせいか。馬車酔い、なんて柄でもないのに。

 馬車はそのまま街の奥へ進み、やがて一軒の宿の前で止まった。

 ……でかい。

 視界を塞ぐほどの建物。
 入口ごとに魔法灯が灯り、受付には人のように動く魔法人形が立っている。

「何名様でご利用でしょうか?」

 可愛らしい声だった。

「……四人。全員、個室で」

(ペッカは……まあ、俺の部屋でいいよな)

 人形はぎょろりと眼球を動かし、俺たちを一巡する。

「四名様とペットですね。二万五千五十ゲルになります」

 きっちり数えられていた。
 まあ、この規模の宿なら安い方か。

 手渡した硬貨は、指先からふっと消えた。転移魔法か何かだろう。

「それでは皆様、この街一番の夜を、どうぞお楽しみくださいませ」

 どこか含みのある言い方だった。
 俺は小さく苦笑して、宿の中へ足を踏み入れる。

 ……中も、広い。

 等間隔に並ぶ机と椅子。
 まるで巨大なフードコートのような空間が、奥まで続いていた。

「まずはスコリィを部屋に運ぶか」

 ふらふらの彼女を先に送り届け、俺たちは食事を取ることにした。

「あとで……おこげ入りのおかゆと、ハチミツ入りリンゴジュース……お願いっす……」
 やたら細かい注文を残して、スコリィは部屋へ消えた。

 俺たちは顔を見合わせ、フードコートへ向かった。

 ***
 食事の注文は、机に備え付けられた小さな魔法人形に話しかけ、代金を渡すだけで済んだ。
 硬貨は指先から、ふっと消える。

(……便利すぎるだろ)
 そう愚痴をこぼそうとした瞬間、料理が次々と運ばれてくる。皿が飛ぶように目の前に置かれる。

「速い……!」

 思わず声が漏れ、俺は目の前の肉野菜煮込み定食をしげしげと見下ろした。

「しかも、美味しそうです……!」
 パンの盛り合わせを前に、イゴラくんが目を輝かせる。

「ドラゴンの好みを、よくわかっているな」
 ペッカはフルーツとハンバーグの皿を前に、すでにご満悦だ。

「……このお水、冷たいです」
 ガディはグラスを見つめていた。中には、小さな氷が浮かんでいる。

 ……氷か。
 この世界で当たり前のように出てくるのは、結構すごい。

「ドロドロまつりだ!」
 スラコロウは相変わらずで、器の中身を体ごと吸い取るように食べている。

「明日に備えて、たくさん食べて。全部、出張費だから遠慮はいらない」

 ……言うまでもなかった。
 俺が言い終える前から、全員もう食べ始めている。

 俺も箸を取る。
 味は、しっかりしている。少し塩が強い。
 ……異世界の味付けなのか、それとも、俺の舌の問題か。

***
 食後、俺は皆に作戦を話した。

「魔王モールへはサービス馬車で向かう。
 俺が正面から交渉する。ペッカとガディは別行動。戦闘になったら、合図を送る」

『魔王モール』――この世界最大級の商業施設。
 何でも揃うが、動物を酷使することで悪名高い、巨大な組織だ。

「父がご迷惑を……!」
 ガディが勢いよく頭を下げる。

「気にするな。……ただし、暴走はするなよ」

 そう言って、小型のハニワネックレスを配った。

「……何ですか、これ?」
 イゴラくんが、やや引いた目で見る。

「通信具。離れてても声がつながる」

「えっ、遠距離通信の魔法具なんて、かなり高度ですよ!?」

「試してみよう。少し離れて」

 イゴラくんはフードコートの奥へ歩いていく。

「もしもーし。聞こえますか。本日は晴天なり……」

 しばらくして、遠くから声が返ってきた。

「聞こえます! すごいです! ただ……何で天気の話をしているのかは、よくわからないです!」

 ……まあ、そうなるよな。

「俺様の声も聞こえるか?」
「ワタクシの声は?」
「オイラもだ!」

 次々と声が重なる。

「はい、全部聞こえます! 本当にすごいです! ……デザインは、ちょっと微妙ですけど!」

「……正直すぎるな」

 苦笑しつつ、俺はもう一度だけ作戦を念押しした。

 その後、スコリィにも通信ハニワと食事を届け、俺たちは部屋へ戻る。

 長旅の疲れもあったのだろう。
 意識は、ベッドに沈むように静かに落ちていった。

 ……きっと、うまくいく。
 誰もが、そう信じて眠りについた。

 ――作戦も、通信ハニワも、すべて無駄になることも知らずに。

 その夜、窓の外に、月は出ていなかった。

 ***

 翌朝。
 冷たい石造りの部屋で、俺たちは――イモムシになっていた。

「起きたか、イモムシ達よ」
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