【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

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5.人間らしさが尊ばれる世界

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 寄宿する部屋に到着すると、それはもうすごい有様だった。

「なんじゃこりゃ……腐海か?」
「スラムの方がよっぽどマシだな」

 寮邸宅の外れにあるその部屋は、カースト最下位の混ざり者に割り当てられたからなのか、長年使われた形跡のない個室だった。ようは、ガラクタだらけのゴミ溜め――もとい、物置と化している。
 かろうじて雨風はしのげるだろうかといった状態で、埃だらけでカビ臭いし、窓辺の日の当たる場所には草まで生えていた。

 一歩足を踏み入れただけで、モワッと色々な物が舞い上がって咳込む。

「ごふっ、ごほっ……とりあえず掃除しようか」
「そうだな。今日中に寝床くらいは確保しないと……」

 僕は手持ちの手ぬぐいでほっかむりをして鼻口を覆い、腕まくりして気合を入れる。

「よーし! 僕の本領発揮といきますか。ノヴァもマスクして、荷物を外に出すの手伝って」

 建てつけの悪い扉と窓を開け放って空気を入れ替え、ガラクタを一掃して部屋を綺麗に磨き上げていく。
 ガラクタの中に丁度良く大工道具があったので、壊れていた家具も継ぎ足しして直してしまう。
 僕にとっては日用大工もなんのその、DIYはお手の物なのだ。
 これは愛する動物達のため、小屋や遊び場などをたくさん作って培われてきた技術。

 扉と窓の建てつけも直して、使えそうなガラクタで細々した物も作ってみる。
 鉢植えを作って生えていた草花を寄せ植えし、窓辺に備えつけた棚へ置いて、満足した僕は一息ついて汗を拭う。

「ふう……こんなもんかな」

 迷いなくきびきびと作業していたので、思ったほど時間はかからなかった。
 ノヴァは寝床のスペースを確保するのが関の山と思っていたのだろう、予想を大きく外れて見違えるほど綺麗になった部屋を見回し、圧巻の表情で目を真ん丸にしている。
 僕はフフンと鼻を鳴らし、得意げにドヤ顔した。

(これなら、僕も役に立てるのだと証明できただろう。できる大人の男、頼もしいお兄さんだと見直されたのではなかろうか? 体はちょっとばかり小柄だけど、僕は懐の大きい漢なのだよ!)

 でもやっぱり感想は気になるもので、ソワソワしながら訊いてみる。

「どうどう? この部屋の仕上がり、気に入ってくれた?」
「……驚いた、器用なものだな。こんなことができるとは思わなかった。見たことない仕組みや物だ……」

 今回は兼ねる系の家具を作ってみた。デスク一体型のロフトベッドだ。
 ほら、猫ってやっぱり高い所が好きだから、お気に召していただけただろう。
 楽に上り下りできるよう備えつけた階段も、各段が収納としても使える優れものだ。

 折り畳めるテーブルや寝そべられるベンチも作ってみた。
 限られたスペースを有効活用する発想は、日本人ならではかもしれない。
 これでひとまずの寝床の心配はなくなり、快適な生活空間ができ上がったわけだ。

「これが万物を創造する力? 本当に人間なのか……いや、そんなまさかな……」
「どうどう? 僕が人間だって信じてくれた?」

 キラキラと期待の眼差しで見上げると、ノヴァは僕の顔をじっと見つめ、少し考えてから目を細めて言う。

「……いや、ないな」
「なんでっ?!」

 僕はまだまだ人間だと信じてもらえないようだ。頑張ったのに解せぬ。
 だけど、ノヴァは部屋の内装を気に入ってくれたようで、楽しげに見回している。
 新しいオモチャや遊び場を作ってあげた時の、楽しげな愛猫みたいで可愛くて和む。

「しかし、この短時間でここまでできるのは本当にすごいな」
「えへへへ、それほどでもないよ。でも気分良いからもっと褒めて」

 デレデレニヤニヤしている僕を見て、ノヴァは半目でおざなりに言う。

「あー、はいはい、すごいすごい」
「わーい、すごいてきとーだー」

 棒読みで褒められたので、棒読みで喜んでおく。
 ノヴァがおもむろに鉢植えを指差して問う。

「この部屋の所々にある草はなんだ?」
「観葉植物だよ。部屋に緑があるとオシャレだし、視覚的に疲労回復やリラックス効果があるんだ。植物によっては、空気清浄や湿度調整の効果もあったりするんだけどね」

 鉢植えを持って、ノヴァによく見えるように差し出して説明する。

「ここに生えてた草花。この植物の直接的な効能はわからないけど、可愛いかったから見てて癒されるかなって」
「そういうものか……?」

 ノヴァは物珍しそうに小さな花と僕とを交互に見たあと、柔らかく微笑んで呟く。

「たしかに、小さな花を愛でるのも悪くないかもしれないな」

 小さな白い花を咲かせる草花は、ほんのりカモミールのような香りがする。
 カモミールだったらハーブティーにも使えるんだけどなと考えていると――

 ぐぎゅるるるるるうぅ~。

 ――僕の腹の虫が盛大に鳴き、空腹を主張してくる。ちょっと恥ずかしい。
 
「ひと段落ついたら腹が減ったな」
「一日中動いてたから、もうお腹ぺこぺこだよ」
「食事は食堂で配給されているらしい、食べに行くか」
「食堂ってことは、学食! 行こ行こ、早く行こう!!」

 美味しい食事にありつけるかもしれないと喜び勇み、食堂へと向かう。


 ◆


 食べ物の乗ったトレイを持って席に着いた僕は、がっくりとうなだれていた。
 食堂で提供された食事は、スラムで配給されていたレーションとまったく同じメニューだったのだ。

「なんで学園の食堂でも同じ配給食が出てくるんだよー、騙された気分だー」

 他の魔族達も量は違えど、同じものを食べている様子だった。
 代わり映えのしない配給食をつついて、ため息がこぼれてしまう。

「はぁー……」

 不味いわけではないが、味気なくて飽きる。
 食感もいまいちで、味の薄い健康食といった感じだ。
 食文化に富む日本人からすると、なまじ耐え難いものがある。
 意気消沈してうなだれている僕を見て、ノヴァが不思議そうに訊く。

「食事なんてどこで食べても変わらんだろう。なんでそんなに落ち込むんだ?」
「ずっと同じものを食べてたら飽きるでしょうよー、普通はー」
「同じものを食べるのが普通だろう。何を言ってるんだ?」
「えっ! ずっとこれ食べ続けるの?!」
「そうだな」

 衝撃の事実に愕然としてしまい、テーブルに突っ伏してすすり泣く。

「ええー、食堂なんだから、料理くらい出そうよー……しくしくしくしく」
「料理か……カースト順位が上位の魔族は、もっと人間らしいものを食べると聞いたな。上位種になれば料理が食べられるかも――」
「よし! 早くカースト順位上げよう!!」

 ガバッと起き上って、ノヴァに詰め寄って訊く。

「それで、カースト順位ってどうやって上げるの?」

 ノヴァは僕の勢いにたじろぎつつも、説明してくれる。

「魔族カーストの根幹である聖人学園では、全知全能な人間に近ければ近いほど、上位種として敬われ尊ばれる。学園で人間らしさを学修していく中で、他の魔族達が認めざるを得ないほど完璧な人間に近い成績を修めれば、カースト順位を変動させることはできる」
「完璧な人間らしさが上位種になれる条件ってことか。人間らしさの学修ってどんなことするの?」
「人間の聖典、歴史考古学、古代言語学、天文数学、魔法化学、種族統制学、生存統計学、戦闘技能、あとは――」

 指折り数えて教えてくれるけど、未知な学科の数々に眩暈がしてくる。

「もしかして、上位種になるには、それ全部で高成績を修めないと駄目だったりする?」
「そうだな」

 想像するだけで途方もなくて、白目をむきそうだ。

(首尾よく高成績を修めて順位を上げられても、料理が食べられるほどの上位種になるには、どれだけかかることやら……僕が力になれそうな学科もないし、これは絶望的なのでは……)

 ノヴァは真っ白になって絶望する僕を見て、少し考え込んで告げる。

「カースト順位を変えるにはもう一つ方法がある。単純明快に一族の命運をかけて決闘する方法だ。だが、これは決闘を申し込まれた方が、勝負方法を決められるルールがある。決闘を申し込んだ方が圧倒的に不利なんだ」

 ノヴァは真剣な顔で続けて語る。

「負ければ、一族のカースト順位が下がるだけでなく、敗者は勝者に絶対服従しなければならない掟がある。……建設的ではないから、そうそう決闘する者はいないがな」
「そうなんだ。……そっか、勝っても得にならない相手からだと、決闘を申し込まれても受けない可能性があるのか。カースト最下位だと、なかなか難しいね。やっぱり、地道にコツコツいくしかないのか……」

 目の前の配給食を眺め、料理までの道のりは果てしなく遠そうだなと思いつつ、僕は味気ない食事を胃袋に流し込むのだった。


 ◆


 食事を終え、明日からの授業に備えて部屋に戻ろうとしていると、鼻を鳴らす音と誰かの呟く声が聞こえてくる。

「くんくん……なんか美味そうないい匂いがするな」

 配給食はいつもとなんら変わらないし、そんな匂いするかなと疑問に思っていれば――

「おい、そこのお前ら……待てよ」

 ――僕達は何者かに声をかけられ、呼び止められた。
 振り返って見上げると、そこにいたのは灰色の毛髪に獣耳を生やした大柄な男だった。
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