【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

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13.世話の焼ける使い魔(ノヴァ視点)

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 決闘に無事勝利し、部屋へと戻ってくるなり、使い魔はそそくさと手帳を取り出し、鼻歌交じりに日記を書きはじめた。
 なんでそんなにご機嫌なのかと覗き込めば、オーガ・ブラッドの獣姿について、毛並みがどうだの肉球がどうだの、つらつらと綴っている。

「ブレないな、お前……」
「忘れないうちに、記しておかないとね。ふんふ~ん♪」

 もちろん、使い魔の目を通して見た、愛嬌たっぷりのクマの挿絵付きでだ。
 実物はこんなに愛らしくなどない、ただのクマだと言うのに、俺の使い魔の目はどうかしている。
 そんな使い魔の様子を眺めていれば、何故かモヤモヤムカムカとしてきた。

「よし、完成。我ながら良い出来栄え~♪」

 挿絵を描き終えると、今度は俺をじっと見つめて、首をかしげながら上目遣いで伺ってくる。

「ねぇねぇ、ノヴァ」
「……なんだよ?」
「僕さ、決闘に勝ったご褒美が欲しいんだけど」
「だから、なんだよ?」
「ノヴァの獣化した猫姿を見せて欲しいな♡」
「は? 嫌だが」

 むしゃくしゃした気分だったこともあって、そっけなく断った。
 それでも、使い魔は食い下がってきて、手を合わせて頼み込んでくる。

「そこをなんとか! 僕、すご~く頑張ったんだよ! だから、ご褒美に見せて! このと~りだから!」

 あげく、俺に抱きついてきて、体を揺らしながら喚く。

「ちょっとでいいから猫姿を見せて~! ノヴァの可愛い猫姿が見たいよ~! ねぇ、お願いお願い、ノヴァ~!!」
「あぁ~、うっとおしい~、獣姿なら誰でもいいくせに……そんなに獣姿が見たいなら、他の奴に――」

 ――他の奴に頼んで見せてもらえばいいんじゃないか? そんなことを言いかけて、口ごもった。
 考えてみれば、それはそれで嫌だなと思ってしまったのだ。
 使い魔と他の奴がイチャイチャしてる姿を想像しただけで、腹立たしくてたまらなくなってくる。

「ねぇねぇ、ノヴァ聞いてる? かくなる上は、僕のマッサージテクニックで猫心をくすぐって獣化させてやろうではないか! 食らえ、アニマル・マッサージ!!」
「うわっ!?」

 使い魔が俺にじゃれついて押し倒してくる。
 俺の上に乗っかってきて、脇腹や腹に首や喉などをマッサージ――もとい、撫でまわしてこちょがしてきた。

「ちょっ、やめろ! くすぐったい!! あっ、は、あははははっ、ははははは、バカッ、やめろって!」

 こそばゆさに我慢ならず、使い魔をひっくり返し、顔の横に腕を押さえつける。
 形勢逆転して、今度は俺が馬乗りになる形となり、乱れた息を整えながら見下ろす。

「はー、はー……もう、お前は何をやってんだ!」
「だって~、ノヴァの猫姿すごく可愛かったから、どうしてもまた見たかったんだよ~……バカなことして、ごめん……」

 使い魔は俺に叱られ、しょんぼりと落ち込んだ姿を見せた。
 少しは反省したかと窺えば、じんわりと目元を濡らして、うるうると潤んだ瞳で俺を見上げてくる。

「ノヴァ……どうしても、ダメ?」

 何故か俺の心臓は跳ね、ドキドキと鼓動が早くなっていく。
 ふと気付けば、もみくちゃになっていたせいで、使い魔の衣服がはだけ、普段よりも首筋や胸元の白い肌が露になっていた。
 いつもより良い匂いを強く感じ、妙に意識してしまって、体が熱くなってくる気さえする。

「ノヴァ、お願い……」

 そんなに必死に懇願されると、案外悪い気はしないもので、少しくらいなら見せてやってもいいか、なんて思えてくる。使い魔と家族以外の魔族に晒すのは、死んでもごめんではあるが。

「そ、そこまで言うならしかたないな。少しだけだぞ」
「ほんと?! やったー、ノヴァ大好きー!」

 表情をパァッと明るくした使い魔は、期待の眼差しで俺を見つめてくる。
 妙に熱くなって顔が赤くなっているかもしれない俺は、誤魔化し半分にそそくさと獣化した。

 ボフンッ!

 三角耳に長い尻尾。紅い猫目(キャッツアイ)に黒い爪と肉球。全体的に黒い毛並みで、胸元の白い星印だけが特徴的な、ごく平均的な黒猫だ。
 それなのに、そんな俺の猫姿を見て、使い魔は瞳をキラキラと輝かせ、飛び上がる勢いで大喜びする。

「ふわぁ~~~~♡ やっぱり、ノヴァは最っ高にカワイイ~~~~♡♡♡」

 猫姿の俺を抱え上げて、その場でクルクルと回り、使い魔は狂喜乱舞した。

「うわっ、目が回る! おい、やめろって!」
「あはっ、嬉しくてつい♡ ふわぁ~ん、フワフワしていて滑らかで温かい、この手触りたまらん~♡ ピルピル震えるお耳にピンと立ってモッコモコに膨れた尻尾、可愛すぎか~♡ ビックリした真ん丸お目々も、ベリ~ベリ~・キュ~ト~♡」

 頬ずりされ、撫でまわされ、匂いを嗅がれ、腹に顔を埋められてスーハースーハーと吸われる。

「ハァハァ、カワイイ、カワイイ~♡ もはや可愛すぎて罪、その魅惑のボディーで僕を誘惑するなんて、なんて罪作りな悪い猫ちゃん♡ このまま腕の中に閉じ込めて、逮捕しちゃうぞ♡ でも、僕もうメロメロで完全降伏しちゃうんだけどね♡ もうもう、カワイイが限界突破してるよ~~~~♡♡♡」
「限界突破してるのは、お前の言動の気色悪さだ……触りすぎ嗅ぎすぎなんだよ、お前」

 さすがにこれは好き勝手しすぎだろ、俺の使い魔。
 腹に埋めた頭を押さえ込んで、蹴りを食らわしてやる。

 ガブッ、ゲシゲシゲシゲシ。

「あだっ、あだだだだだ……うふふ、可愛いあんよから繰り出される、ラブリーな猫キックいただきました♡ ありがとうございます♡」
「うわぁ……ちょっと後悔してるぞ、俺」

 腕の中からスルリと抜け出し、目に留まった手帳をくわえて戻り、使い魔の前に落としてトントンと指し示して言う。

「ほら、そうそう人に晒さない貴重な獣姿なんだから、ちゃんと記しておけ」
「はわわわわ♡ お手々でテシテシしてるのカワヨ♡ カワヨすぎてたまら~ん♡」

 俺が絵を描くことを促せば、手を合わせて拝んでいた使い魔は、はたと不思議そうな顔をして首をかしげる。

「って、あれ? 子供の頃からずっと隠してたって聞いたから、形に残さない方がいいのかと思ってたんだけど、ノヴァの猫姿、描いてもいいの?」
「それは……今回だけ特別にだ。決闘で勝利した褒美に、特別に描くことを許してやる」
「ほんと?! すごく嬉しい」

 使い魔は手帳を手にし、本当に嬉しそうに笑う。
 日記に俺の猫姿が無かったのは、俺を気遣って意図的に描いていなかったからなのだとわかり、それまであったモヤモヤが消えてなくなる。
 そして、ひどくホッとしたような、安心した心地になるのだ。

「こ、こんなことはそうそうないんだから、今の内にたくさん描いておけ。他の奴には絶対に見せるなよ」
「うん、わかった。約束する」

 それから、使い魔は嬉々として、俺の猫姿をたくさん描いていく。

 可愛いポーズをしてと、変なリクエストが多く、なかなか大変だった――のだが、それよりも大変だったのが、感極まった使い魔に抱きつかれ、吸われたり舐められたり食まれたりと、ちょっかいを出されるのを躱し続けることだった。
 だいたい描き終わったかなというところで、俺はとうとう体力バカな使い魔に捕まり、モフられてキス攻めにあっていた。
 しつこくチュッチュしてくる唇を、肉球でムニッと押しのけて威嚇する。

「フシャーーーー!」

 だけど、そんな威嚇姿も可愛いなんてのたまうので、まるで手に負えない。

「ああ、もうやめろ!」

 ボフンッ!

 猫姿でいると延々と構い倒されそうなので、さっさと人化してやる。
 自分よりも大きな男の顔面を間近にすれば、さすがに気が引けるだろう。

「ふん、この姿ならキスできまい」

 勝ち誇った顔で言ってやれば、使い魔は少し考えてから、呟くようにして言う。

「……いや、いけるな。どんな姿でも可愛いノヴァが相手だったら、いくらでもキスできるよ、僕……んん~♡」

 そう言って、使い魔はキスの追撃をしようとしてきたので、顔面を鷲掴みにして止める。

「おい、やめろ。しつこいぞ」
「ありゃ、残念」

 ようやく、諦めたようだ。
 俺の使い魔は体力はあるが、体の大きな俺に力では押し負けるからな。

 使い魔の手帳を拾い上げて、ペラペラと捲りながら、俺の猫姿の絵を確かめる。

「まぁ、よく描けているんじゃないか」

 だいぶ愛嬌マシマシな気もするが、使い魔の目を通して見た姿が愛らしいというのは、嫌な気分ではない。
 機嫌を良くして日記を眺めていると、そんな俺を使い魔が覗き込んできて訊く。

「あれ? もしかして、なんとなく不機嫌だったのって、焼き餅妬いてたからなのかな?」

 俺はドキッとしつつ、慌ててしどろもどろにならないよう冷静を装い、言葉を返す。

「なっ……なんでそんなもの妬かないといけないんだ? お前は俺の使い魔なんだぞ、そんなもの妬く必要なんてないだろう」
「ふーん、そっかそっか。そうだよねー」

 納得してかしないでか、使い魔はニコニコしながら、含みのある言い方をする。

「……なんだよ?」
「んーん、可愛いなーと思って、やっぱりノヴァが一番可愛いよ」
「!」

 日記にたくさん描かれた俺の猫姿を、使い魔の指が愛しそうに撫でている。
 それから、使い魔は俺の方を向いて、満面の笑みで言うのだ。

「特別なノヴァの絵、僕の宝物にするね。ありがとう」
「っ!!」

 また、どうしようもなく胸が高鳴って、変な感じになってしまう。
 そっぽを向いて、赤面する顔をなんとか隠し、小さく呟く。

「特別だからな……まったく、世話の焼ける使い魔だ……」

 こいつは俺の使い魔で、それ以上でもそれ以下でもない。なのに、些細なことで心がかき乱されて振り回される。この気持ちは、この感情は、いったいなんなのだろうな。

 いずれ、このままではいられなくなるような、どうにかなってしまいそうな、そんな予感めいたものを感じていた。


 ◆
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