3 / 127
本編
01.美味しいスイーツ
しおりを挟む
ずっと、ずっと、食べたくて堪らなかった。美味しそうなスイーツ。
気が狂いそうなほどに身体が求めていた。甘く芳しいそのスイーツに、僕はようやく唇を付ける。
「……ん……」
芳醇な香りと濃厚な口どけが堪らない。甘くとろけるチョコレートの味。
味覚は歓喜を訴えて、身も心も蕩けてしまいそうな快感にしびれ、身体が打ち震える。
「……んっ……んん……」
美味しい、美味しい、極上のスイーツ。
今までこんなに美味しいものを口にしたことがあっただろうかと思うほど、甘美な味わいの虜となり、僕は必死にチョコレートを味わう。
「……ん、はぁ……ふぁ……」
舌を這わせて舐め、品のない水音を立ててしまうけどかまわない。
この極上の味わいに、今は只々酔いしれていたいから。
溶けたチョコレートがあふれて滴ってしまうのが勿体なくて、舌を伸ばしてすする。
「……ちゅっ……はぁ、ん……ふぅ……んっ……」
どこからか荒い息遣いが聞こえる気がする。
そう思えば、僕まで息が上がってしまっていることに気付く。
それでも、口を離したくなくて、もっとずっと味わっていたくて、苦しくなる息にもかまわず、舌を滑らせて味わう。
「……ちゅう……ん、はぁ……ちゅっ、ん……ふぅ……」
鼻から抜ける息と一緒に、甘ったるい声音が漏れてしまう。
けれど、僕はかまわずに味わい続ける。
夢中で舐めていれば、とうとう食べ尽くしてしまったのか、チョコレートの味がしなくなってしまった。
もっとずっと味わっていたかったのにと残念に思いながら、乱れてしまった呼吸を整える。
「……はぁ、んっ……はぁ……はぁ……ん………………はぁ」
極上の味わいが名残り惜しくて、余韻に浸る僕の口からは感嘆の溜息が零れた。
熱っぽく息を吐いてうっとりとしていると、何者かに僕の顎は掬われ、そのまま頬を掴まれる。
「はぅ…………ぶ、ひっ!?」
「やっと捕まえた」
僕が我に返ると、ギラリと光る鋭い眼光が僕を見据えていた。
獲物を狙う獣の如き眼差しで射竦められてしまえば、被食動物の心境になり反射的に竦み上がってしまう。
びくびくと怯えながら、僕はその人物の通称名を口にする。
「……黒狼王子?」
「探したぞ。白豚王子」
彼は獣人の国である隣国の王子で、絶望的だった戦況を打開し、隣国を勝利に導いた英雄だ。
狼の獣人であり、その美しい漆黒の毛色から、通称・黒狼王子と呼ばれている。
僕はと言えば、魔法使いの国の王子――とは名ばかりの出来損ないで、嫌われ者の悪役だ。
豚の獣人ではなく、醜く肥え太った豚みたいな容姿から、通称・白豚王子と呼ばれている。
彼の国と僕の国は同盟国なので敵対してはいないのだけど、僕が色々とやらかしてしまったせいで、彼からもひどく嫌われてしまい、目を付けられている。
ある出来事をきっかけに執着され、追い回されるようになってしまったのだ。
また、何かやらかしてしまったのだろうかと、僕は恐る恐る彼の様子を窺う。
肉食獣を思わせる切れ長な金色の目、艶やかな黒髪と同系色の狼の耳と尻尾、異国情緒溢れる褐色の肌、野性的でいて知的でもある端正な顔立ち、屈強で強靭な体躯の美丈夫、それが黒狼王子だ。
そんな彼がどこか気怠るげに見えることに気付いて、僕の心臓はドキッと跳ねた。
「!!?」
彼の胸元は衣服が乱されてはだけ、惜し気もなくその鍛え上げられた胸板が晒されていたのだ。
滑らかな褐色の肌はしっとりと上気していて、口元から胸元の辺りが何故か濡れているような艶めかしい色艶を放っている。
彼の濃艶な色香に当てられて、僕はくらりと眩暈を起こし、プルプルと震え慄いてしまう。
彼の呼吸に合わせて上下する胸の動きが見て分かるほどの、至極、至近距離に僕はいたのだ。
微細な動きすら分かってしまうほどの――否、むしろ触感で感じ取れてしまっていることに気付いて、僕は自分の手元に視線を向ける。
彼の開けた胸や腹に這わせるように添えられた自分の手を見て、僕は硬直した。
停止しかける思考を叱咤して、僕は彼と自分の体勢を確認する。
床に仰向けで倒れる彼の脚の上に僕は跨り乗り上げていて、上体を起こした彼に僕の頬が掴まれている状態だったのだ。
僕はまたしてもやらかしてしまったのだと確信し、スンと遠い目をしてしまう。
ああマズいぞ、これはヤバい、と脳内で小さな白豚達――もとい、本能が身の危険を訴えて騒いでいる。
「えぇーと、これはー、そのー………………ごめんなさいっ!!」
内心慌てふためきながら、僕は脱兎のごとく逃走を図った――
「逃がさん」
「ぶひっ!?」
――が、瞬時にガシッと掴まれてしまい、まったく身動きが取れない。
白豚は脱兎にはなれず、容易く黒狼に捕獲されてしまった。
「うわああああ! ごめんなさい! 放して! 見逃してぇ!!」
「やっと捕まえたのに、逃がすわけがないだろう」
僕がジタバタと足掻いて抵抗してみても、彼の屈強な身体はびくともしない。
彼に軽々と持ち上げられて、荷物みたいに肩に担がれ、僕はどこかに連れて行かれる。
「うえええええ! お願い! 許して! 見逃してぇ!!」
「逃げられたはずなのに、逃げなかったのはお前だ。諦めろ」
どこかの部屋に入って行くと、目的地に到着したのか、僕は肩から振り下ろされる。
「わぁっ…………ん?」
落下の衝撃に身構えていると、予想外に柔らかい弾力が背中を包み、僕はベッドに下ろされたのだと分かった。
予想した衝撃が無かったことに安堵する――のも束の間、ベッドへ乗り上げた彼に僕は囲い込まれ、先程とは逆に僕が押し倒される体勢になる。
彼の猛獣を思わせる金色の目に、ギラギラとした鋭い眼光で見下ろされて、僕は捕らわれた獲物の心境で竦み上る。
「ひぇ! …………お、お願い! 助けて! 見逃してぇ~!!」
「もう逃がさない」
白豚が命乞いをしても、黒狼には聞き入れてもらえないようだ。
腹をすかせた狼の彼は、僕を見下ろして舌舐めずりをする。
薄く開いた彼の口から、赤い肉厚な舌が覗き、乾いた唇を撫でて濡れた色艶へと変えていく。
そんな野性的で艶めかしい仕草をまざまざと見せつけられて、僕の喉はひゅっと鳴り生唾を飲み込んでしまう。
「……ひぅ…………ごくり……」
肉食獣の獣人である彼に本当に食い殺されてしまうのだと戦慄し、僕は青褪めた。
「ぼ、僕なんか食べても美味しくないよ!?」
「ふふ、美味いかどうか確かめてみよう」
口角を上げて笑う彼の口から、白い牙が覗き、濡れた赤い口が近付いてくる。
「……食らいつくしてやる……」
吐息交じりに囁く、少し擦れた彼の声音に、背筋がぞくぞくと震えてしまう。
絶体絶命の危機に追い込まれ、どうしてこうなってしまったのだろうかと、僕は現実逃避して過去を回想した。――――……
◆
気が狂いそうなほどに身体が求めていた。甘く芳しいそのスイーツに、僕はようやく唇を付ける。
「……ん……」
芳醇な香りと濃厚な口どけが堪らない。甘くとろけるチョコレートの味。
味覚は歓喜を訴えて、身も心も蕩けてしまいそうな快感にしびれ、身体が打ち震える。
「……んっ……んん……」
美味しい、美味しい、極上のスイーツ。
今までこんなに美味しいものを口にしたことがあっただろうかと思うほど、甘美な味わいの虜となり、僕は必死にチョコレートを味わう。
「……ん、はぁ……ふぁ……」
舌を這わせて舐め、品のない水音を立ててしまうけどかまわない。
この極上の味わいに、今は只々酔いしれていたいから。
溶けたチョコレートがあふれて滴ってしまうのが勿体なくて、舌を伸ばしてすする。
「……ちゅっ……はぁ、ん……ふぅ……んっ……」
どこからか荒い息遣いが聞こえる気がする。
そう思えば、僕まで息が上がってしまっていることに気付く。
それでも、口を離したくなくて、もっとずっと味わっていたくて、苦しくなる息にもかまわず、舌を滑らせて味わう。
「……ちゅう……ん、はぁ……ちゅっ、ん……ふぅ……」
鼻から抜ける息と一緒に、甘ったるい声音が漏れてしまう。
けれど、僕はかまわずに味わい続ける。
夢中で舐めていれば、とうとう食べ尽くしてしまったのか、チョコレートの味がしなくなってしまった。
もっとずっと味わっていたかったのにと残念に思いながら、乱れてしまった呼吸を整える。
「……はぁ、んっ……はぁ……はぁ……ん………………はぁ」
極上の味わいが名残り惜しくて、余韻に浸る僕の口からは感嘆の溜息が零れた。
熱っぽく息を吐いてうっとりとしていると、何者かに僕の顎は掬われ、そのまま頬を掴まれる。
「はぅ…………ぶ、ひっ!?」
「やっと捕まえた」
僕が我に返ると、ギラリと光る鋭い眼光が僕を見据えていた。
獲物を狙う獣の如き眼差しで射竦められてしまえば、被食動物の心境になり反射的に竦み上がってしまう。
びくびくと怯えながら、僕はその人物の通称名を口にする。
「……黒狼王子?」
「探したぞ。白豚王子」
彼は獣人の国である隣国の王子で、絶望的だった戦況を打開し、隣国を勝利に導いた英雄だ。
狼の獣人であり、その美しい漆黒の毛色から、通称・黒狼王子と呼ばれている。
僕はと言えば、魔法使いの国の王子――とは名ばかりの出来損ないで、嫌われ者の悪役だ。
豚の獣人ではなく、醜く肥え太った豚みたいな容姿から、通称・白豚王子と呼ばれている。
彼の国と僕の国は同盟国なので敵対してはいないのだけど、僕が色々とやらかしてしまったせいで、彼からもひどく嫌われてしまい、目を付けられている。
ある出来事をきっかけに執着され、追い回されるようになってしまったのだ。
また、何かやらかしてしまったのだろうかと、僕は恐る恐る彼の様子を窺う。
肉食獣を思わせる切れ長な金色の目、艶やかな黒髪と同系色の狼の耳と尻尾、異国情緒溢れる褐色の肌、野性的でいて知的でもある端正な顔立ち、屈強で強靭な体躯の美丈夫、それが黒狼王子だ。
そんな彼がどこか気怠るげに見えることに気付いて、僕の心臓はドキッと跳ねた。
「!!?」
彼の胸元は衣服が乱されてはだけ、惜し気もなくその鍛え上げられた胸板が晒されていたのだ。
滑らかな褐色の肌はしっとりと上気していて、口元から胸元の辺りが何故か濡れているような艶めかしい色艶を放っている。
彼の濃艶な色香に当てられて、僕はくらりと眩暈を起こし、プルプルと震え慄いてしまう。
彼の呼吸に合わせて上下する胸の動きが見て分かるほどの、至極、至近距離に僕はいたのだ。
微細な動きすら分かってしまうほどの――否、むしろ触感で感じ取れてしまっていることに気付いて、僕は自分の手元に視線を向ける。
彼の開けた胸や腹に這わせるように添えられた自分の手を見て、僕は硬直した。
停止しかける思考を叱咤して、僕は彼と自分の体勢を確認する。
床に仰向けで倒れる彼の脚の上に僕は跨り乗り上げていて、上体を起こした彼に僕の頬が掴まれている状態だったのだ。
僕はまたしてもやらかしてしまったのだと確信し、スンと遠い目をしてしまう。
ああマズいぞ、これはヤバい、と脳内で小さな白豚達――もとい、本能が身の危険を訴えて騒いでいる。
「えぇーと、これはー、そのー………………ごめんなさいっ!!」
内心慌てふためきながら、僕は脱兎のごとく逃走を図った――
「逃がさん」
「ぶひっ!?」
――が、瞬時にガシッと掴まれてしまい、まったく身動きが取れない。
白豚は脱兎にはなれず、容易く黒狼に捕獲されてしまった。
「うわああああ! ごめんなさい! 放して! 見逃してぇ!!」
「やっと捕まえたのに、逃がすわけがないだろう」
僕がジタバタと足掻いて抵抗してみても、彼の屈強な身体はびくともしない。
彼に軽々と持ち上げられて、荷物みたいに肩に担がれ、僕はどこかに連れて行かれる。
「うえええええ! お願い! 許して! 見逃してぇ!!」
「逃げられたはずなのに、逃げなかったのはお前だ。諦めろ」
どこかの部屋に入って行くと、目的地に到着したのか、僕は肩から振り下ろされる。
「わぁっ…………ん?」
落下の衝撃に身構えていると、予想外に柔らかい弾力が背中を包み、僕はベッドに下ろされたのだと分かった。
予想した衝撃が無かったことに安堵する――のも束の間、ベッドへ乗り上げた彼に僕は囲い込まれ、先程とは逆に僕が押し倒される体勢になる。
彼の猛獣を思わせる金色の目に、ギラギラとした鋭い眼光で見下ろされて、僕は捕らわれた獲物の心境で竦み上る。
「ひぇ! …………お、お願い! 助けて! 見逃してぇ~!!」
「もう逃がさない」
白豚が命乞いをしても、黒狼には聞き入れてもらえないようだ。
腹をすかせた狼の彼は、僕を見下ろして舌舐めずりをする。
薄く開いた彼の口から、赤い肉厚な舌が覗き、乾いた唇を撫でて濡れた色艶へと変えていく。
そんな野性的で艶めかしい仕草をまざまざと見せつけられて、僕の喉はひゅっと鳴り生唾を飲み込んでしまう。
「……ひぅ…………ごくり……」
肉食獣の獣人である彼に本当に食い殺されてしまうのだと戦慄し、僕は青褪めた。
「ぼ、僕なんか食べても美味しくないよ!?」
「ふふ、美味いかどうか確かめてみよう」
口角を上げて笑う彼の口から、白い牙が覗き、濡れた赤い口が近付いてくる。
「……食らいつくしてやる……」
吐息交じりに囁く、少し擦れた彼の声音に、背筋がぞくぞくと震えてしまう。
絶体絶命の危機に追い込まれ、どうしてこうなってしまったのだろうかと、僕は現実逃避して過去を回想した。――――……
◆
47
あなたにおすすめの小説
オークとなった俺はスローライフを送りたい
モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ!
そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。
子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。
前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。
不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。
ムーンライトノベルズでも投稿しております。
王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜
きっせつ
BL
南国の国モアナから同盟国であるレーヴ帝国のミューズ学園に留学してきたラニ。
極々平凡に留学ライフを楽しみ、2年目の春を迎えていた。
留学してきたレーヴ帝国は何故かblゲームの世界線っぽい。だが、特に持って生まれた前世の記憶を生かす事もなく、物語に関わる訳でもなく、モブとして2年目を迎えた筈が…、何故か頭にロバ耳が生えて!?
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる