【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
60 / 127
本編

58.ハバネロ・ペッパー&ハラペーニョ・ペッパー ※R15グロ

しおりを挟む
※このページは、流血、人食、人死の表現が有ります。
 苦手な方はご注意下さい。


 ◆◆◆


 じりじりと間合いを詰める男から漂う黒い瘴気が、僕の構える棒の先を撫でる。
 すると、瘴気の触れた先が腐敗劣化したようにボロボロと零れ落ちた。

「うわぁ! 錆び落ちたぁ!?」
「ふくくくく」

 僕は慌てて後退して間合いを取る。
 ゲームでいう所の、ロングソードくらいの長さがあった鉄の棒が、ショートソードくらいの短さになってしまった。

「ぐぬぬぬ……不用意に近づけない……これでは攻撃ができない……」
「さー、近付くとどんどん棒切れが短くなっていくぞー? どうするー?」

 男がニヤニヤしながら近付いて来る。

「……それなら!」

 僕は作戦を変更する――そして、逃げる。

「なんだ、もうお終いかー? 今度は鬼ごっこにするのかー? まあ、いいか」

 逃げる僕を男が直ぐに追いかけて来る。
 僕はリアル鬼ごっこをする羽目になってしまった。
 僕と男は森の中を木々を掻い潜りながら駆け走る。

「うわー! もう追いつかれた!!」
「おーおー、子豚ちゃん見た目に似合わず足はえーなー、でも追いつい――」

 男が僕に追いつき瘴気を纏おうとした瞬間、僕は正面にあった木の幹を蹴り身体を翻して男に突進――その腹に重い一撃カウンターを食らわせる。


 ゴキンッ


「――ぐっ、くはぁっ!!?」

 やはり、鬼人族が力を使うには瘴気を纏わせるか直接触れる必要があるようだ。
 早い速度での移動中では瘴気を纏うまでには僅かに時間差タイム・ラグが有る。
 そして、その時間差よりも僕の動きの方が早い。

(これならいける! 毎日欠かさずに続けていた、騎士団長に教わった剣術と鍛錬の成果だ!! 僕は自分の信念を信じる。『必ずみんなを助ける』揺るがない信念こそが、何にも勝る力だって教わったから!!!)

「ぐほ、げほ……おー、いってぇーなー、あー、口ん中切ったわー、くっそ…………ぺっ」

 僕の重い一撃を受けても男は少しよろけて痛みに呻いただけで、着衣の下に防具を着けていた為、動けなくなる程の深手を負わせられてはいなかった。
 男は着衣を捲りベコリと凹んだ防具を見て苛立った様子で血の混ざる唾を吐き捨てると、僕を鋭い目で睨みつける。

「……よくもやりやがったなー、この豚野郎ー……」
「ぶひっ!」

 鬼人族に射竦められると僕はまた恐怖心で竦んで動けなくなりそうなので、そうなる前に逃げる。

 逃げる僕をまた男が追いかけて来て、僕はカウンター攻撃を仕掛けるのだが、狙いがバレている状態では攻撃が当たらず躱されてしまう。
 徐々に攻撃を打ち込んだ時に纏わりつく黒い瘴気に鉄の棒が腐食されていき、どんどんと短くなっていく。
 やがて、鉄の棒が短くなりすぎて僕の手から零れ落ちる。

「ははっ そう何度も同じ手は通じねーよなー? これでお終いだ!」

 もう僕は打撃を打ち込めないと思った男は黒い瘴気を辺りに放ち僕に迫ってくる。
 油断した男に向かって、僕はローブで全身を覆い隠して黒い瘴気の中へと突進する。

「は? なんで――」

 僕は瘴気の纏わりつくローブを回転しながら払い、勢い付いたまま隠し持っていた木剣を男の足に突き刺した。


 ザシュッ


「――ぎゃああああああああああ!!?」

 僕は普段から肌身離さず大事に持っていた騎士団長から手渡された木剣を、鬼人族との戦闘に備えて刃を鋭く変えて隠し持っていたのだ。

 鬼人族の男の右足はぐしゃりと曲がり、切り裂かれて骨や肉が露になり大量の血が溢れ出している。
 男は大声で叫び、右足を抱えて激痛にのたうち回る。

「……ぅ……うぅ……」

 いくら命を脅かす敵とは言え、人を傷付けてしまった感触とその血濡れた光景に罪悪感と恐怖感が込み上げてきて、僕は手足が、身体がぷるぷると震えてしまう。
 手にしていた木剣に伝う血が目に映り、僕は不意に木剣から手を放して落としてしまった。

 そうしていると、今度は森の中からガサガサと草が擦れる音がして誰かが近付いて来る。

「あーら、随分と賑やかだと思って来て見れば、子豚ちゃんじゃない、見ーつけたー♡ うふふふふ」

 そこに、現れたのは鬼人族の女だった。

「あ、兄貴! 助けてくれ!!」
「あ゛ぁ?」
「頼むよー、助けてくれよー!」

 女は僕の姿を見てニコニコと不気味に笑っていたが、男の呼ぶ声にドスの利いた低い声で返して、苛立たしげに男の方に視線を向ける。
 僕は二人のやり取りを見聞きして頭が混乱する。

(え? あにき? アニキって兄貴って事だよね? ……声凄い低かったし、男の人だったの!?)

「あらあら、どうしたのその足? まさか、こんなしょっぼい出来損ないにやられたなんて言わないわよね?」
「違っ……その豚野郎、毒がまったく効かないんだ! 普通なら薄い毒吸っただけでも直ぐにぶっ倒れる筈なのに……それに、異様に素早くて剣術まで使う! 見た目に騙されたんだよ!!」
「えー、そうなの? それじゃ、毒じゃなくて火で丸焼きにしちゃえばいいわね」

 女改め兄が僕の方へと向き直り、辺りに禍々しい黒い瘴気を発する。
 僕は落とした木剣を慌てて拾い上げて構える。
 瘴気に触れれば兄の力で発火するのだろうと、間合いを取っていたが兄は僕ではなく辺りの木に触れ火を放った。

「え!? ……」
「周りからじっくり焼いて、美味しい焼き豚ちゃんにしてあげるわ」

 慌てて僕は水魔法の呪文詠唱をして燃え上がる火を打ち消す。


『水の精霊よ、我が魔力を以てこの火を打ち消せ。【水球発射アクア・ボール】』


「うふふふふ、なけなしの魔力いつまで持つかしらね? ほらほら、早くしないと火に囲まれちゃうわよ?」

 僕は片っ端から水系の魔法呪文を唱えて火を必死に消していく。


『水の精霊よ、我が魔力を以てこの火に水を放て。【水弾連射ウォーター・スプラッシュ】』

『水の精霊よ、我が魔力を以てこの場に大雨を降らせよ。【集中豪雨ヘビー・レイン】』

『水の精霊よ、我が魔力を以てこの場に霧雨の壁を作れ。【霧雨防壁スチーム・ウォール】』


 少ない魔力で放つ小さな魔法でも沢山数を当てれば何とか火を消す事はできる。
 それでも、鬼人族の兄に次から次へと発火されてきりがない。

(兄の方は僕が近付こうとすると何故か離れて行く……もしかして、濡れるのを嫌がってる? ……火だから濡れると力が使えなくなるのかな?)

 僕は次第に魔力消費でくらくらと眩暈がしてくる。

「あらあら、子豚ちゃん出来損ないの割に案外頑張るのね。でも、そろそろ魔力切れに――」


 ヒュンッ


 咄嗟に身体を逸らして避けた兄の頬から、ツツーと血が垂れ滴る。
 このままでは埒が明かないと思った僕は、兄の頭に狙いを定めて木剣を投げ放ったのだ。

(駄目だ、近付けないなら上手く投げればと思ったけど避けられた……)

 先程まで笑みを浮かべていた兄の表情が強張り、頬の傷に触れて滴る血を手に取り見つめる。
 兄の身体から濃く黒い瘴気が溢れ出して、辺りにバチバチバチと火花が散り火炎が吹き上がる。
 濡れる事を嫌ってか僕から一定の距離を保ち続けていた兄が、僕に近付こうと歩み出す。
 その表情は鬼気迫るものがあり、それを見た弟は兄の足に必死にしがみ付き、火炎の上がる森の中で訴える。

「兄貴! 待ってくれ、置いて行かないでくれ!!」
「あ゛ぁ? そんな足でこれからどうするって言うの? んん?」
「そ、それは……こ、こんな所に置いて行かれたら俺、焼き死んじまうよー! 俺達、血を分けたたった二人の兄弟だよなー? 俺を置いていったりなんてしねーよなー? な? な?」

 必死に泣き付く弟を邪険そうに見下ろしていた兄は溜息を吐くと、表情を変え優しい微笑みを弟に向ける。

「ふぅ……ええ、もちろん。一人で置いて行ったりなんてしないわよ。可愛い、可愛い、アタシの大事な弟なんだから、ね? 可愛くて、可愛くて、本当に食べちゃいたいくらい……だから、これからもずっと、ずうっと一緒よ♡」
「ああ、良かった…………あ、兄貴?」

 弟が助かったと安堵していると、兄の顔貌は異様に変化していく。
 口がどんどんと裂けて広がっていき、奥まで無数に並ぶギザギザの歯が鋭く光り、弟に迫っていく。

「兄貴!? 兄貴、嘘だろ!! そんな――」


 バックン グジャアアア バキバキ ボキボキ メキメキ ジュルルル


 兄が弟の頭を呑み込むように食らいつき、異音を立てて咀嚼している。
 到底、人の身体から発せられているとは思えないような音が辺りに響く。

「……!!? ……」

 僕は余りにも残酷な光景に声も出せず、息を吐く事もできない程に恐怖して、只々立ち尽くしていた。

(……た、食べてる……人を食べてる……血を分けた弟まで……鬼だ……人を食べる鬼だ……これが、鬼人族なんだ……)

 兄は弟を食みながら頭をしゃくり、ズルズルと弟の身体を全て呑み込んでいく。


 グチュグチャ バキンボキン ゴリゴキュ ジュルジュル ゴックン


『んふふふふ……ああ、やっぱり美味しいわね。これで少しは力が回復するわ』

 不気味に笑う兄は僕の目の前で更なる変貌を遂げていく。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...