【完結】悪役を脱却したい白豚王子ですが、黒狼王子が見逃してくれません ~何故かめちゃくちゃ溺愛されてる!?~

胡蝶乃夢

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本編

61.闇夜に吠える暗黒の狼

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 貧民街の者達に案内され、ガトー王子一行は貧民街の奥地へと辿り着いた。
 案内をしに付いて来た者達が目を見開いて驚きの声を上げる。

「……こ、これは? 廃屋が無くなってる!?」

 辺りは見渡す限りが瓦礫の山となり、廃屋どころか建物など跡形もなく崩壊し無くなっていた。
 その場にはまだ粉塵が舞い、砂埃と焼け焦げた異臭が漂っている。

「臭うな」

 確信したようにガトー王子は呟き、一行の表情が一際険しくなる。
 ガトー王子一行は、腐敗したように朽ち落ちた瓦礫と不自然に焼け焦げた異臭に覚えがあった。
 それは逃亡している残党が残した痕跡と一致するものだったのだ。

「マカダミアは騎士団への連絡と応援要請の手引を。アーモンドは獣人兵を集め周辺住民の保護と護衛を。俺は臭いを辿り残党を見つけしだい合図をする」
「「御意(はい)」」

 指示の返事と同時に御供達は素早く動き出す。
 ガトー王子は暗黒を纏い獣化すると、目にも止まらぬ速さで駆けだした。

 焼け焦げる異臭と微かに漂う残党の残り香瘴気を辿り、ガトー王子は不気味な暗い森の中へと飛び込んだ。


 ◆


 ガトー王子が森の中を駆けて行くと、奥に進むほどに残党の残した異臭と瘴気はどんどん濃くなっていく。

(酷い臭いがそこら中からする。そろそろ鼻が馬鹿になりそうだ)

 酷い悪臭に臭覚が利かなくなりそうだと思った頃、遠く離れた前方で大きな火の手が上がる。
 見れば燃え上がる火炎の中から巨大な赤鬼が姿を現した。

(……あれは、同族食いか。まずいな……)

 ガトー王子は赤鬼の頭上に生える無数の禍々しい角を見て『同族食い』だと断定した。
 鬼人族でも『同族食い』は禁忌とされるが、強大な力を得るために禁忌を侵す者もいる。
 そして、禁忌を侵した鬼人族の特徴が無数に生えた角なのだ。
 『同族食い』をすれば、能力は飛躍的に向上し強大な力を得る事ができる。
 無数の角 禁忌の証に加え頑強な巨体に火炎の能力、『同族食い』をした事で魔力を補充したのであれば恐ろしい脅威だ。
 騎士団や獣人兵を集めても苦戦する事は間違いないだろう。

(今、合図を……否、なんだ? あれは何かを追っているのか?)

 遠くに見える巨体が何かを追い回してるような挙動をしている。
 そして、その先を見るとちょこまかと走り回る丸い人影が見えた。

(人が追われているのか!? 魔法使いか、食われる前に助けなければ)

 燃え広がっていく森の中をガトー王子は駆け走る。
 だが、赤鬼に近付くにつれて炎は激しさを増し、炎を避けながらの進行は思うような速度が出せず、赤鬼達の素早い前進も相まってなかなか追い付く事ができない。
 それでも徐々に距離が縮まって行けば、赤鬼から逃げている者の姿が見えてくる。

(あれは……まさか、第一王子か?)

 ガトー王子は第一王子の姿を目にして驚き困惑する。

(第一王子が何故、そこにいる? 何故、鬼人族に追われているんだ?)

 第一王子が逃げ進む方角に月明かりに照らされる泉が見えてくる。
 泉の周辺には数多くの人影が集まっているのが見て分かった。

(あそこに集まっているのは……貧民街の者達か?)

 襤褸を纏ったその人々は貧民街の者達なのだろう、赤鬼の出現に恐怖し怯えている。
 そして、第一王子はその者達に向かって大声で叫んだ。

「みんな逃げて! 奥の方に逃げて!! できるだけ早く逃げてぇぇぇぇ!!!」

 貧民街の者達は慌てふためきながら泉の奥の方へと逃げて行く。
 しかし、何人かの者達が逃げ遅れてしまっている。

(まずい、逃げ遅れている者がいる。……早く逃げろ! このままでは残党に捕まる、どうにか間に合え!!)

 ガトー王子がそう思った瞬間、第一王子は突然立ち止まった。

(何故、足を止める!? そのまま逃げろ! あと少し、もう少しで俺も追い付ける!!)

 第一王子は振り返り、怖ろしく巨大な赤鬼を見上げた。
 そして、第一王子は赤鬼に向かって魔法を放つ。

(な、何をしているんだ!? 並の魔法などで敵う相手ではないと分かるだろう? まして、第一王子はほとんど魔力が無いのではなかったか?)

 第一王子の魔法は極めて微弱なもので、赤鬼に打撃を与える事など到底できていない。
 それでも、第一王子は何度も何度も赤鬼に向かって魔法を放ち続ける。
 その間に赤鬼はどんどんと第一王子に近付き、脅威が間近まで迫っていた。
 しかし、第一王子はその場から動こうとはせず、恐怖に身体を震わせながらも赤鬼に対峙し続けている。

(震えながらもそこに立ち続けるのは何故だ?)

 第一王子を見れば、逃げ遅れた者達に視線を向け気にかけている様子が見て取れた。

(守ろうとしているのか? 貧民街の『人でなし』と呼ばれる者達を、見捨てられた者達を、抗う術のない弱者を……第一王子は敵わないと分かっていながらも、その身を挺して立ち向かい、守ろうとしているのか)

 そんな様子を見てガトー王子は衝撃を受け、胸を強く打たれたように感じた。

(第一王子は対抗する術など持ち合わせていない。力無い弱者であると自分が一番よく分かっているだろうに……それでも、分かっていて尚も、誰よりも先に出て、誰よりも前に出て、見捨てられた民を、王国の民を必死に守ろうとしているのか……)

 ガトー王子の心臓がドクリと脈打ち熱を帯びる。

 脅威を前に震えるその姿は余りにも弱々しい、だがその姿は何者にも勝る強い輝きを放っていた。
 ガトー王子の瞳には第一王子の姿が光輝いて映る。

(なんて、眩しい。失ってはいけない、失いたくない。この光を――)

 気付けば考えるよりも感じるよりも先にガトー王子の身体は動いていた。
 燃え盛る火炎の中に飛び込み、身体が燃える事も厭わず、全速力で直走ひたはしっていた。



 赤鬼の口が大きく開き大量の瘴気が吐き出され、火炎流が第一王子を襲う。

「うわあぁぁぁぁ!?」

 第一王子が火炎流に呑み込まれる間際、燃え盛る森の中を漆黒の疾風が駆け抜け、第一王子の身体を暗黒の闇がさらった。



 ガトー王子は片腕で胸に抱き寄せるように第一王子をかかえ、闇にまぎれて赤鬼から距離を取った。
 獣化した暗黒色の長い胸毛に埋もれて、第一王子の姿はほとんどが隠れている。
 第一王子の恐怖に震えていた身体もしだいに落ち着いていく。

「…………ん?」

 状況が把握できていない第一王子はもぞもぞと身じろぎしはじめる。
 暗黒色の毛に覆われて第一王子の視界は完全に真っ暗闇だろう。
 
『無事か?』

 ガトー王子が覗き込み声をかけると、第一王子は顔を上げてガトー王子を見上げた。
 巨大な暗黒の狼の姿を見て第一王子は暫し放心したように固まったが、少し遅れてブンブンと首を縦に振って頷いている。
 無事だという返事なのだろう、その様子にガトー王子は安堵してフッと笑う。

「……! ……!? ……!!? ……」

 第一王子は口をパクパクとさせて、またプルプルと震え出してしまった。
 巨大な暗黒の狼の姿に恐怖したのだろうとガトー王子は思い、第一王子をゆっくりと地面に下ろす。

『少し耳を塞いでいろ』

 そう言うとガトー王子は夜空を見上げて咆哮ほうこうした。


 ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーン……


 暗黒の狼が上げる大きな遠吠えは遠く広く夜空に響き渡っていった。
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