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本編
72.白豚王子は極悪非道な悪者
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包みの中にあったのは、見るも無残な状態に成り果てたクッキーの残骸だった。
クッキーの原形など留めていない、粉々に砕けた穀物とナッツ類がそこにある。
僕は無意識的に砂糖菓子を貪り食べている間に、クッキーを潰してしまっていたのだ。
そうとは気付かず、僕は獣人の子供に粉々の残骸を差し出してしまった。
「ぶっ! あっはっはっはっはっはっ!!」
僕達のやり取りを見物していた貴族が突然噴き出し大声で笑いだす。
「これは傑作です! 『魔法の使えない獣』になど、家畜の飼料で十分だと、獣には餌がお似合いだとそういう事なのですね!! 白豚王子が家畜の餌を獣に恵んでやるとは、これはまた大傑作です! あっはっはっはっはっ、流石は悪名高い白豚王子のなさる事は私などには到底真似できません!! あっはっはっはっはっ」
貴族が捲し立てて大笑いしていると、見物していた住民達も釣られて獣人達を嘲笑し声を上げて笑いだす。
獣人の子供は笑い者にされている状況下で、それでも差し出された物を食べなければいけないと思ったのだろう、粉々の残骸を手に取り口に含む。
「……はぐ……むぐ……ぅぐ……ひぅ……お……おい、しい……ひっ、く……ひっく……おい……美味しいぃぃぃぃ……ふぇぇ……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん……」
獣人の子供は残骸をなんとか呑み込んで『美味しい』と無理矢理にでも言うと、堪えられなくなったのだろう、とうとう泣き出してしまった。
獣人の子供の目から大粒の涙が溢れ出てポロポロと零れ落ちて行く。
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)
僕は内心絶叫した。
獣人の子供の零す涙を見て、僕の胸はめった刺しの四散五裂して血涙を流している心境だ。
意図せずとも獣人達を貶めてしまったのだ、僕は絶望するしかない。
(……もう、駄目だ……僕は完全に悪者だ……ケモケモ・モフモフの獣人達を貶め、こんな可愛い子を虐めて泣かせるなんて……僕はとんでもない大悪党だ、悪逆非道の極悪人だ、巨悪の根源にして悪の大魔王だ。……ああ、逃れようのない悪行、完膚なきまでに有罪、極刑ものの大罪、破滅の未来も確定……)
僕は絶望し諦観して放心しそうになるが、怯える獣人達の姿が目に留まり思い直す。
(……でも、このまま終わるなんて嫌だ。どうにかしてこの罪を償いたい。獣人達をこのままにはしておけないし、どうにかしてあげたい。お腹を減らしてひもじい思いなんて誰にもして欲しくない。しょんぼりと震えてるケモケモ・モフモフなんて可哀想過ぎて泣けてくる。獣人達にはやっぱり元気になって笑ってもらいたい!)
僕は罪滅ぼしをする為に、全身全霊で以て獣人達を支援しようと決心する。
そして、衆目を集めながら僕は思い切って大声で伝えた。
「……獣人達の世話役は僕がする……家屋も食料も全部用意するから! 僕にできる事なら何でもするから! だから、お願い貧民街に行こう!!」
僕の言葉を聞いて、貴族がまた違う解釈をして大笑いしながら言う。
「白豚王子が世話役になるとは! それも貧民街で!? これはまた、あっはっはっはっはっ。やはり『魔法の使えない獣』は『人でなし』と同等、出来損ない同士で貧民街で暮らせばいいとそういう事なのですね!! ひっはっはっはっはっ。富有る貴族の務めとして私が厄介者を引き取ろうと思いましたが、王族である王子のご希望とあらば致し方ありません。私は辞退する事に致しましょう。ふっはっはっはっはっ」
獣人達を蔑む貴族に便乗して、住民達も獣人達を追い出そうと辛辣な言葉を吐く。
「ああ、確かに獣臭いのが貧民街に移ってくれればこの城下町は獣臭くならずに済んで助かるな。そいつはいい案だ、はははは」
「『獣』も『人でなし』も出来損ないの似た者同士でお似合いじゃないか。ふふふふ、きっと仲良くできるよ。だから、さっさと出て行って貧民街に移っておくれよ」
「元々野垂れ死にかけてたんだ、死にぞこない同士でも力を合わせれば、何とか生きていけるさきっと。くくくく、ほらほらさっさと貧民街に行った行った」
追い打ちをかけるように捲し立てる住民達の言葉に、獣人達は更に怯えて萎縮してしまう。
僕は獣人達にこれ以上辛辣な言葉を聞かせたくなくて、早く貧民街に連れて行こうと、手を差し出して言う。
「行こう」
けれど、一連の流れから獣人達は僕を信用できる筈もなく、差し出した手を取り付いて来ようとする者はいない。
年老いた獣人達は子供達を庇うように抱えて身体を小さく竦ませ、身を寄せ合って怯えている。
きっと、僕にどんな目に合わせられるか分からず、不安で怖くて仕方ないのだろう。
「…………」
そんな獣人達の痛ましい姿を見て、僕の胸は切なく痛む。
(僕が酷い事をしてしまったからだ……意図してした事じゃないけど、結果的に獣人達を貶めるような事をしてしまったから、もう僕は何を言っても信じてもらえないだろう……このまま待っていても、きっと獣人達は僕には付いて来てくれない……)
そう思った僕は向き直り、その場から走り出す。
「おやおや、難民の『獣』すら思い通りにできないものだから、白豚王子はお恥ずかしくなって逃げ出してしまわれた。あっはっはっはっはっ」
逃げるように走り去って行く僕を見て、嘲り笑う貴族の声が遠く聞こえる。
僕は走る速度を上げていき、一秒でも早くと直走り考えていた。
(大丈夫、なんとかするから! 直ぐ迎えに来るから、待ってて!!)
貧民街へと向かい、僕は急いでその場を後にしたのだ。
その場から走り去って行く白豚王子と黒狼王子はすれ違う。
人込みに紛れる物影から、一部始終を見ていた金色の目があった。
黒狼王子の金色の目は、白豚王子の走り去って行く後ろ姿を見つめていたのだ。
◆
クッキーの原形など留めていない、粉々に砕けた穀物とナッツ類がそこにある。
僕は無意識的に砂糖菓子を貪り食べている間に、クッキーを潰してしまっていたのだ。
そうとは気付かず、僕は獣人の子供に粉々の残骸を差し出してしまった。
「ぶっ! あっはっはっはっはっはっ!!」
僕達のやり取りを見物していた貴族が突然噴き出し大声で笑いだす。
「これは傑作です! 『魔法の使えない獣』になど、家畜の飼料で十分だと、獣には餌がお似合いだとそういう事なのですね!! 白豚王子が家畜の餌を獣に恵んでやるとは、これはまた大傑作です! あっはっはっはっはっ、流石は悪名高い白豚王子のなさる事は私などには到底真似できません!! あっはっはっはっはっ」
貴族が捲し立てて大笑いしていると、見物していた住民達も釣られて獣人達を嘲笑し声を上げて笑いだす。
獣人の子供は笑い者にされている状況下で、それでも差し出された物を食べなければいけないと思ったのだろう、粉々の残骸を手に取り口に含む。
「……はぐ……むぐ……ぅぐ……ひぅ……お……おい、しい……ひっ、く……ひっく……おい……美味しいぃぃぃぃ……ふぇぇ……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん……」
獣人の子供は残骸をなんとか呑み込んで『美味しい』と無理矢理にでも言うと、堪えられなくなったのだろう、とうとう泣き出してしまった。
獣人の子供の目から大粒の涙が溢れ出てポロポロと零れ落ちて行く。
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)
僕は内心絶叫した。
獣人の子供の零す涙を見て、僕の胸はめった刺しの四散五裂して血涙を流している心境だ。
意図せずとも獣人達を貶めてしまったのだ、僕は絶望するしかない。
(……もう、駄目だ……僕は完全に悪者だ……ケモケモ・モフモフの獣人達を貶め、こんな可愛い子を虐めて泣かせるなんて……僕はとんでもない大悪党だ、悪逆非道の極悪人だ、巨悪の根源にして悪の大魔王だ。……ああ、逃れようのない悪行、完膚なきまでに有罪、極刑ものの大罪、破滅の未来も確定……)
僕は絶望し諦観して放心しそうになるが、怯える獣人達の姿が目に留まり思い直す。
(……でも、このまま終わるなんて嫌だ。どうにかしてこの罪を償いたい。獣人達をこのままにはしておけないし、どうにかしてあげたい。お腹を減らしてひもじい思いなんて誰にもして欲しくない。しょんぼりと震えてるケモケモ・モフモフなんて可哀想過ぎて泣けてくる。獣人達にはやっぱり元気になって笑ってもらいたい!)
僕は罪滅ぼしをする為に、全身全霊で以て獣人達を支援しようと決心する。
そして、衆目を集めながら僕は思い切って大声で伝えた。
「……獣人達の世話役は僕がする……家屋も食料も全部用意するから! 僕にできる事なら何でもするから! だから、お願い貧民街に行こう!!」
僕の言葉を聞いて、貴族がまた違う解釈をして大笑いしながら言う。
「白豚王子が世話役になるとは! それも貧民街で!? これはまた、あっはっはっはっはっ。やはり『魔法の使えない獣』は『人でなし』と同等、出来損ない同士で貧民街で暮らせばいいとそういう事なのですね!! ひっはっはっはっはっ。富有る貴族の務めとして私が厄介者を引き取ろうと思いましたが、王族である王子のご希望とあらば致し方ありません。私は辞退する事に致しましょう。ふっはっはっはっはっ」
獣人達を蔑む貴族に便乗して、住民達も獣人達を追い出そうと辛辣な言葉を吐く。
「ああ、確かに獣臭いのが貧民街に移ってくれればこの城下町は獣臭くならずに済んで助かるな。そいつはいい案だ、はははは」
「『獣』も『人でなし』も出来損ないの似た者同士でお似合いじゃないか。ふふふふ、きっと仲良くできるよ。だから、さっさと出て行って貧民街に移っておくれよ」
「元々野垂れ死にかけてたんだ、死にぞこない同士でも力を合わせれば、何とか生きていけるさきっと。くくくく、ほらほらさっさと貧民街に行った行った」
追い打ちをかけるように捲し立てる住民達の言葉に、獣人達は更に怯えて萎縮してしまう。
僕は獣人達にこれ以上辛辣な言葉を聞かせたくなくて、早く貧民街に連れて行こうと、手を差し出して言う。
「行こう」
けれど、一連の流れから獣人達は僕を信用できる筈もなく、差し出した手を取り付いて来ようとする者はいない。
年老いた獣人達は子供達を庇うように抱えて身体を小さく竦ませ、身を寄せ合って怯えている。
きっと、僕にどんな目に合わせられるか分からず、不安で怖くて仕方ないのだろう。
「…………」
そんな獣人達の痛ましい姿を見て、僕の胸は切なく痛む。
(僕が酷い事をしてしまったからだ……意図してした事じゃないけど、結果的に獣人達を貶めるような事をしてしまったから、もう僕は何を言っても信じてもらえないだろう……このまま待っていても、きっと獣人達は僕には付いて来てくれない……)
そう思った僕は向き直り、その場から走り出す。
「おやおや、難民の『獣』すら思い通りにできないものだから、白豚王子はお恥ずかしくなって逃げ出してしまわれた。あっはっはっはっはっ」
逃げるように走り去って行く僕を見て、嘲り笑う貴族の声が遠く聞こえる。
僕は走る速度を上げていき、一秒でも早くと直走り考えていた。
(大丈夫、なんとかするから! 直ぐ迎えに来るから、待ってて!!)
貧民街へと向かい、僕は急いでその場を後にしたのだ。
その場から走り去って行く白豚王子と黒狼王子はすれ違う。
人込みに紛れる物影から、一部始終を見ていた金色の目があった。
黒狼王子の金色の目は、白豚王子の走り去って行く後ろ姿を見つめていたのだ。
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