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春
しおりを挟む恋人の浮気現場に遭遇した俺は
逃げるようにその場から去った。
今思えば、怒鳴りちらすぐらいしても罰は当たらなかっただろうに。
信じたくなかっただけかもしれない。そんな素振りなかったから、微塵も感じなかった。自分の鈍さが恥ずかしいのか浮気された自分が惨めだったからか、その両方か。
実際は10分弱車を運転し姉夫婦の家に行ったが、その間の記憶などはどこかへ飛んでいった。家族には一切説明しないまま一ヶ月居候したのちに他県へ引っ越すことにした。言えやしない、かさぶたにもならない生新しい傷を自ら発表し、えぐらなくてはならないから。
引っ越した先は前いた町に似たのどかさがあったし住みかも似たり寄ったりだ。あまり親しくはなかったが友達もいた。
あれから一度も事件現場に近寄ることが出来なかった俺は家具ひとつない部屋で寝ることに。
独り暮らしの辛さを徐々に思い出す毎日。たまに遊びに来る友達と飲み明かしたり、別れた妻との娘に会うことしか笑顔になれなかった。
朝起きることさえ意味がなかった。
SNSや出会い系に精を出そうがどうせ、寝るときは孤独に包まれる。飲んだ勢いで家に呼んだって酔いと共に気も失せる。そんな朝は鏡のむこうが見れなかった。
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