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第三章 立場大逆転
10話 余裕の幕開け
しおりを挟む高等部だけでも1500人以上いるこのプロピネス総合学校の、そのほとんどの生徒が退屈に感じるであろう式典が、始まった。
全員がすっぽりと収まる広い講堂の正面で、魔法学会の関係者が舞台に上がる。マイクに向かって学校の歴史や魔法学の今後の発展について意気揚々と話しているものの、すでに生徒たちは目を擦り、自然と出るあくびを隠そうともしていない。誰もが、その後に待ち構えているお祭り騒ぎを心待ちにしていた。
そんな中、後方の席で1人だけ目を輝かせて話に聞き入る女子生徒がいた。
オリビアは、着慣れない青いドレスがシワにならないように何度も座り直し、した事のないアップスタイルの髪型が崩れていないかソワソワと確認しつつも、目は学会のお偉方から離さない。集中出来ないからやっぱり制服で来れば良かったかも、と1人後悔する。
普段なかなか聞けない魔法学の最新情報に前のめりになるが、同時にこの次に舞台へ上がる者のことを思い浮かべていた。
(次は、ハヤトの挨拶ね……)
遅刻した朝以来、ハヤトには会っていない。この後のパーティーは一緒に過ごす時間があるのか、ダンスはするつもりなのか。色々と聞く予定が、彼女に自分から会いに行く勇気はなかった。実行委員長として忙しく走り回っているであろうハヤトに迷惑をかけたくないというのは建前で、本当はただ単に恥ずかしかっただけだ。
しかし、それでもオリビアにはどこか余裕があった───あのハヤトのことだ。時間が取れるのなら、必ず自分の元へ来るはずだ。
(ハヤトに会えたら、一緒に食事テーブルに行こう。端っこの、なるべく誰にも見られない場所で、終わるまでのんびりしていたいな…そうだ、学会の方のお話聞きに行くのもいいかも)
あ、でも、ハヤトは目立ちたがり屋だからダンスに誘ってくるかも…
私ダンスは苦手なんだけどな、と少し困った顔をして考え始めた時、横から肩を叩かれた。
「オリビア、そろそろ発表の準備に行かないと」
クラスメイトだ。オリビアも式典の出し物として、研究のグループ発表をすることになっている。
「えっ、でも、この次ハヤトの挨拶があるから、それだけでも……」
「時間が無いよ。ほら、行こう」
「あっ…」
グループのメンバーに手を引かれたオリビアは、横に座る生徒たちの前を頭を下げながら通り抜けていく。
控え室に行くために講堂を出る直前、後ろからアナウンスが聞こえた。
「続きまして、本校の生徒代表による挨拶。3年生、ハヤト・ヤーノルド」
大きな拍手が講堂いっぱいに広がる。オリビアは振り返ったが、舞台は見えなかった。
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