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第三章 立場大逆転

13話 茶髪の男に連れられて

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「ワ…ワルフ?」

ワルフと呼ばれた男は、黄色いネームプレートを胸につけている。オリビアと同じ、普通科の男子生徒だ。茶色い髪を短く切り揃えている。
ワルフは、オリビアを取り囲む男たちを睨みつけた。

「…すみません。俺の連れなので、もう勘弁してもらえますかね」

「…ま、まぁ、そろそろドレスも乾いてきたことだし、大丈夫そうだね。君、これからも頑張るんだよ」

浅黒い肌と、スーツの上から分かる筋肉質な体つきが特徴的なワルフの視線に男たちの表情が変わり、オリビアに絡みつけていた手を離した。オリビアはどうしたら良いのか分からず、立ち上がると男たちに向かい律儀にお辞儀をして、ワルフと共にその場を離れた。

「ワルフ…ありがとう」

「大丈夫か?あのセクハラ親父共、酔ってたな……。災難だったな」

「えぇ…怖かった…」

男たちの手の感触が離れず、身震いするオリビアをワルフは心配そうに見つめた。

「ハヤトはどうしたんだよ」

「それがいないのよ。実行委員の仕事ももう終わったはずなのに」

オリビアはホールに目をやる。背の高いハヤトがもしいればすぐに見つかりそうなものの、やはりどこにもあの坊主頭は見えない。

「あぁ?せっかくのパーティーなのに?しかも彼女がピンチだったってのに?なんて奴だよ」

顔をしかめてハヤトを批判するワルフに、オリビアはうなずき、愚痴をこぼした。

「何してるのかしら…いつもうっとおしいぐらいくっついてくるくせに、肝心な時にいないなんて…。私、パーティー嫌いなのよ」

────ただでさえ、慣れない場で不安だというのに。こんな時こそ、そばにいてくれれば………

「お前パーティー嫌いなの?俺もだよ。じゃあさ、ハヤトが見つかるまで、一緒にいるか?」

「えっ?あなた、誰よりも大騒ぎするのが好きそうに見えるんだけど…」

オリビアは目を丸くした。いつも教室で誰よりも大きな声でふざけている彼の口から出る言葉とは思えない。

「いや、帰りたくて仕方ねーよ」

「へぇ、意外。でも、あなた、私に怒ってるんだとばっかり…」

ワルフとは、1度揉めた過去がある。授業中のドッジボールでハヤトを妨害し、ズルして勝とうとしたワルフをオリビアがとがめたのだった。

「いや、まぁあの時はイラついたけど…もう1年も前の話だろ。俺も悪かったと思ったんだよ。ちゃんと話すのに今日がいいタイミングだと思ってたら、お前が学会のジジイ共に絡まれてるのが見えちまってさ、こりゃチャ…危ねぇと思って」

「そうなの…本当に助かったわ。良かった、仕返しに見捨てられなくて」

ふふ、と笑うオリビアに、ワルフは苦笑した。

「ごめんな、助けに来たのがハヤトじゃなくて」

「そんな事ないわよ。ありがとう」

オリビアは、なんとなくワルフとそのまま話すことにした。時計を見ると、もう19時を過ぎていた。あと1時間もしないでパーティーも終わる。いつまで経っても視界に現れないハヤトに、もう今日は諦めようと思い始めていた。
2人でなるべく人がいないテーブルを探し、静かにジュースを飲みながらしばらく会話を続けた。

「そういや、オリビアはもう踊ってきた?」

「え…ううん。ハヤトもいないし、好きじゃないから…ダンス」

「そっか。せっかくだし、俺と踊らない?」

ワルフの突然の誘いに戸惑う。彼と視線を合わせる。冗談では無さそうだ。

「えっ?いや、いいわよ…さすがに誤解されちゃうと思うし」

「1曲くらい大丈夫だって。ほら、行こうぜ!」

ワルフは拒むオリビアの腕を掴み、強引に引っ張った。オリビアは慌てて飲みかけのグラスを置き、引きずられるようにダンスホールへと歩いて行った。

ダンスホールは、大音量のBGMと色とりどりのライトで彩られていた。生徒は男女ペアになって踊り、音楽に合わせて身体を揺らしている。
オリビアはそれだけでも圧倒されてしまい、足がすくんでしまった。ワルフは、そんな彼女にお構いなく腰に手を回し、体を引き寄せる。ぐいと密着させられ、オリビアの心臓が大きく跳ねた。

「ワ、ワルフ、ストップ!やっぱり、やめておくよ…!他の男の子と踊るなんてよくないから」

「大丈夫、誰も気にしねぇよ。ほら、さっきのお礼だと思って」

「それは感謝してるけど、ごめんなさい、出来ない」

「…しょうがねぇな。分かったよ。じゃあ、見学でもしてようぜ」

ワルフの足が止まる。オリビアが申し訳なさそうに、彼から離れようと振り返った時だった。

ダンスホールの中央で、一際美しい女が踊っているのが目に入る。少なくともオリビアには、そう見えた。 

あれは、学年でもかなり人気のある特別進学科の、美女だ。艶のある茶髪を綺麗に編み、豊満な胸を惜しげもなく披露しながら、その女性は優雅にステップを踏んでいる。ドレスも髪型も、オリビアのような急ごしらえのものではなく、完璧に計算された美しさを放っている。

オリビアはそんな彼女を見て、雷が打たれたように硬直してしまった。目を見開き、全身の血の気が引いたかのように、青ざめる。誰よりも輝き、誰よりも美しく舞う彼女に怖気付くことなく、優しく微笑んでリードするパートナーが、ハヤトだったからだ。











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