#ヤクザの女に手を出した大学生

シロタカズキ

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ライブ配信

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カウンターの向こうで、バー「Nocturne」のマスター岸本隆臣は黙ってグラスを拭いていた。
その視線の端で、異物の光を捉える。
カウンターの奥、ボックス席。
そこに座っていたインフルエンサーの早乙女紗希が、ハイボールのグラス越しにスマートフォンを構えていた。
レンズの先では、篠崎が血のついた拳をゆっくり拭っている。

画面にはコメントが流れていた。
「これ本物?」「やば」「映画の撮影?」
笑顔の絵文字が混じっている。

岸本の手が止まった。
一瞬、呼吸が静止する。
彼はグラスを置き、音を立てずにカウンターを出た。

紗希の肩越しに回り込み、低い声で言った。
「やめろ。」

紗希の体がびくりと跳ねた。
驚いて振り返ると、岸本の無表情な顔が目の前にあった。
その目は怒っていない。ただ、完全に“線を越えた”ことを告げている。

「な、なにが……私、撮って……」

言い訳は最後まで続かなかった。
岸本が手を伸ばし、スマホを取り上げる。
画面には“LIVE配信中”の文字。
視聴者数は五千を超えていた。

「消せ。」
「……え?」
「今すぐ、だ。」

岸本の声には感情がなかった。
だが、その無表情こそが最も恐ろしい圧を持っていた。

紗希は震える指で配信を停止した。
「ちょっと……ちょっと待ってください。これ、ニュースになるレベルでしょ? こんなの、黙ってたら——」

彼女の言葉は途中で切れた。
篠崎が、ゆっくりとこちらを振り向いたからだ。
その視線は、氷のように静かで、確実に命を測る目をしていた。

「……岸本。」
「ええ。」岸本は短く答える。
「お客様が、余計なもんを映してました。」

篠崎は一歩、二歩と歩み寄る。
靴底が床を叩く音が、やけに重い。
紗希は喉を詰まらせ、後ずさった。

篠崎は手を伸ばし、岸本の持つスマホを受け取った。
画面を見つめ、無言でコメント欄をスクロールする。
その指先が止まり、小さく笑う。

「“#リアル修羅場”。」
ひび割れた笑い声が、空気を冷たくした。
「センスあるじゃねぇか。」

次の瞬間、篠崎はスマホを手の中で握りしめた。
ピシ、と音を立てて液晶が砕ける。
破片が床に落ちた。

「……マスター。」
「はい。」
「この店にいた連中、全員“いなかった”ことにしとけ。」

「承知しました。」
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