終焉の教室

シロタカズキ

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エピローグ 〜真実の扉〜

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   静寂。

 死闘を終え、霧島 紫苑(きりしま しおん)はただ一人、真っ白な部屋に佇んでいた。

 「……終わったの?」

 彼女の声は、どこまでも響く。

 目の前には、一つの扉。

 今度こそ、本当の出口なのだろうか?

 彼女は静かに扉に手をかけた。

 扉の向こうに広がっていたのは、暗く広大なホール。

 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 「おめでとう、霧島紫苑。君がこの“ゲーム”の勝者だ。」

 無機質なアナウンスではなく、実際の人間の声だった。

 「……誰?」

 「名乗るほどの者じゃないよ。」

 男は静かに歩み寄る。

 「だが、君に一つだけ伝えておこう。このゲームは、すべて“仕組まれていた”ということを。」

 紫苑の目が細められる。

 「……どういう意味?」

 「もう気づいているんじゃないか?」

 男は、紫苑の背後のモニターを指差す。

 そこには――

 白石 美羽(しらいし みう)の映像が映っていた。

 「……!」

 映像の中の白石 美羽は、無機質な部屋の中で、何かをつぶやいていた。

 「私は知っていた……ずっと、知っていた……」

 「……どういうこと?」

 紫苑の脳裏に、過去の出来事が蘇る。

 なぜ、彼女は最初の課題で“裏切り者”として選ばれたのか。

 そして――なぜ彼女は死ぬ直前、“何かを言おうとしていた”のか?

 答えは一つ。

 白石 美羽は、デスゲームの「存在を知っていた」。

 だが、彼女はすべてを知っていたわけではない。

 彼女は、記憶の奥底に眠る断片的な情報を頼りに、このゲームの流れを読もうとしていた。

 しかし、それを見抜かれ、利用され、排除された。

 「……そういうことか」

 紫苑は、冷静に映像を見つめた。

 「このゲームには“主催者”がいる。そして、美羽はそれを知る“鍵”だった。」

 「ご名答。」

 男は、口元に薄い笑みを浮かべる。

 「彼女は、かつてこのゲームに参加し、最後の一人となった。そして、このゲームを作り上げた組織を探ろうとしていた。……だが、彼女は“完全な真実”には辿り着けなかった。」

 「……美羽は、そのことを私たちに伝えようとしたのね。」

 紫苑は、映像の中の美羽の顔をじっと見つめた。

 彼女の目は、何かを伝えたがっていた。

 だが、それは叶わなかった。

 「さて、紫苑。」

 男は、一枚のカードを差し出した。

 「君は、このゲームの勝者として、“新たな世界”へと行くことができる。」

 「……新たな世界?」

 「そう。すべてを忘れ、普通の人生をやり直すことができる。」

 「……」

 紫苑は、カードを見つめたまま動かない。

 「ここを出たら、私の記憶は?」

 「すべて消える。君が経験したことも、見たものも、知ったことも。白石 美羽の存在すら、君の中から消える。」

 静寂。

 紫苑は、ゆっくりと目を閉じた。

 美羽の声が、頭の奥に蘇る。

 「私は知っていた……ずっと、知っていた……」

 紫苑は、ゆっくりと目を開けた。

 そして――

 カードを破り捨てた。

 「……必要ないわ。」

 「……ほう?」

 男は、興味深げに紫苑を見つめた。

 「私は、美羽のことを忘れたくない。」

 紫苑は、静かに答えた。

 「このゲームが、どうやって作られたのか。誰が仕組んだのか。美羽が何を知っていたのか。私は、それを知るために生きる。」

 「……なるほど。」

 男は、薄く笑った。

 「君は、“真実を追う”という選択をしたわけだ。」

 紫苑は、男を一瞥し、無言のまま出口へと向かった。

 扉を開けた先には――

 光。

 霧島 紫苑は、出口の向こうへと消えていった。

 だが、彼女の中には忘れてはいけないものが残っていた。

 白石 美羽が伝えようとしたこと。

 それを、決して無駄にはしない。

 彼女は、新たな道を歩み始める。

 デスゲームは終わった。

 だが――

 真実の追求は、まだ終わらない。
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