魔王の腹心だけど、実は王国のスパイです。

シロタカズキ

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統率者なき夜

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轟音と共に崩れ落ちた給水塔の下――
そこにあったのは、ぐしゃりと潰れた鋼鉄の棍棒と、潰れた肉塊。
もはや《鋼喰いの統率者》ゴルド・ナハシュの姿はなく、残されたのは沈黙だけだった。

「……やった、のか」

ジークが息を吐き、神剣を杖代わりにして膝をつく。
その隣で、ルシアンが銀の髪を揺らしながら一言だけ呟く。

「……終わったのは“頭”だけだ」

次の瞬間――

「ギャアアアァァ!!」
「ゴルド様が! ゴルド様がァァ!!」

村の各地に散っていたダークゴブリンたちが、狂乱したように吠え始めた。
群れの支配者を失った今、彼らは理性をなくし、殺戮の本能に支配されていく。

「クソッ、数が減ったとはいえ、まだこんなに……!」

ガイル・ストラウスが歯噛みし、双剣を構え直す。
その背に、フィオナとエドワード、そして傷を負ったジークが立ち並んだ。

「この村は――これ以上、好きにはさせないッ!」



「フィオナ、後衛を頼む!」
「了解、《聖域の加護(セイクリッド・ウォール)》展開!」

フィオナの聖印が光り、前線を守る結界が張られる。
次の瞬間、突撃してきたダークゴブリンが弾かれ、地面を転げ回った。

「っらああああっ!!」

そこへ、ガイルが飛び込み、双剣が旋風のように踊る。
鋼の爪を弾き、黒い皮膚を斬り裂き、怒りに狂う敵の首を次々と跳ね飛ばしていく。

「一人で十体は無茶だよ、ガイルッ!」

リリアが影から飛び出し、ゴブリンの背後に短剣を突き立てる。
鋭い悲鳴を上げ、敵が崩れ落ちた。



エドワードは詠唱を開始していた。
「《魔力連結式:四重結印陣(クワッド・シール)》!」

大地に描かれた陣が爆ぜ、複数のゴブリンが足元を拘束される。

「今だ、ガイル!」

「任せとけッ!」

ガイルが跳躍し、封じられたゴブリンの群れに一閃を加える。
双剣が闇を裂き、敵が断末魔と共に地に伏した。

「残り……三体!」

「やるぞ――!」



フィオナの術が再び輝き、《聖なる鎖》が最後のゴブリンたちの手足を拘束する。
その隙に、リリアが踊るように背後から飛び込み、喉元に鋭く刃を滑らせた。

「二体……あと一体!」

その最後の一体は、狂気に満ちた目で吠え、フィオナに飛びかかる。

「きゃ――!」

その瞬間――

「させるかよッ!!」

ジークが身を挺して割り込み、神剣で敵を地面に叩き伏せた。

――静寂。

吹き抜ける風が、血と鉄の匂いを運ぶ。



夜明けが近づいていた。

満月の光が静かに村を照らし、戦火に包まれていた《エルダレスト》が、ようやく静寂を取り戻す。

「……終わった、のか……?」

ガイルが汗を拭い、膝をついた。

「ええ。……私たち、守りきったわ」
フィオナの声が震えていたが、その眼差しは誇りに満ちていた。

リリアが短剣を収め、夜空を見上げる。

「……この村の人たちが、ちゃんと帰ってこれるようにしなきゃね」

エドワードは静かに頷きながら、魔力探知の術式を維持していた。

「残存の魔力反応はない。……これで、本当に掃討完了だ」

そして。

静かに背を向けるルシアンの姿に、ジークは小さく問いかけた。

「ルシアン。……助かった」

「……礼を言うのは、まだ早いぞ。次の敵は、こんなものじゃ済まん」

銀の影は、夜の闇へと消えていく。
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