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第六話
しおりを挟む都にはたくさんの人が溢れていました。
皆楽しそうに明るい顔をしています。
今日は、王様と王妃様の結婚式と王子様の御披露目の日です。
あの星降る夜。
ルドの父である王様は、自分の母である王母様を捕まえました。税金を不正に使ったり、自分の気に入らない人を虐げたり、たくさんの罪があったのです。
隣国との戦争になれば、犠牲になるのは国民です。それを避けるために、今まで王様は強く言えなかったのです。
それに、王母様の周りには、とても強い魔法使いが何人もいて、王母様を守っていました。
そう、ルドを拐ったのもその内の一人でした。
けれども、精霊から「力」をもらった王様は、魔法使いたちを抑え、もしも隣国と戦争になっても、その力で弾き返すことが出来るようになり、とうとう王母様を捕まえることを決断したのです。
王様と王妃様は、十五年も前に正式に結婚していました。
結婚を反対された王様は、密かに二人だけで精霊の名の下に結婚を誓っていたのでした。
精霊の名の下に。
これは魔法の契約で、誰にも覆すことは出来ません。
王様の結婚を無かったことに出来なくなった王母様は、王妃様の命を狙いました。
王母様はどうしても、自分の言うことを聞く隣国の姪を王妃にしたかったのです。
王様は王妃様を隠しました。
やがて、ルドが生まれると隠すのが難しくなり、信頼する護衛騎士のダーレスをつけて、王妃様とルドを逃がしたのです。
逃げる日々に王妃様の身体は悲鳴を上げ、仕方なく王様は王妃様だけを連れ戻しました。
ルドたちは逃げ、王妃様はひたすら隠れていましたが、王母様が捕まり、それももうお終いとなったのです。
お城のバルコニーから三人が手を振ると、歓声が一際上がりました。
ようやく式を挙げた王様と王妃様の間には、ルドがいました。
豆粒のようなルドを見ながら、世羅は心から安心しました。
村長が世羅を一緒に都に連れてきてくれたのです。
あの夜から満月を二回見ましたが、世羅はルドと一度も会っていません。
ルドは忙しい日々を送っているのでしょう。
世羅は少しだけ寂しく思いましたが、ルドの願いが叶った今、それで良いとも思っていました。
ルドを遠くから見守って、世羅は村長と一緒に帰りました。
世羅はそのまま山小屋で暮らしています。
おじいさんはけがをして動けませんでしたが、村の人が代わる代わる看てくれて、ついでに世羅の面倒も見てくれています。
おじいさんはけがが治ったら都へ帰り、ルドの側に行くことになっています。それももうすぐの話です。
世羅はずっと考えていました。
帰ることが出来なくなった自分は、生きる場所を見つけなければならない。このまま山小屋で暮らしても良いと村長も村の皆も言ってくれているけど。
帰りたい。
ここに来る時は精霊に願って来た訳じゃない。ということは精霊の力を使わなくても帰る方法があるということ。
世羅は、自分がルドの願いを叶えたんだから、ルドが自分の願いを叶えてくれればいいと、実は思っていました。
でも、ルドの願いを叶えたのは自分の責任で、自分自身の願いでもあったこと。
ルドの願いは、あくまでルドのものであること。
そう、思い直したのです。
世羅は決めました。
もう少し、もう少しちゃんと大人になって、お金を貯めて、その方法を求めて旅をしよう。
ルドのように、きちんと「自分」の役目を果たすことができる人間に、世羅はなりたいと思いました。
ひがむことなく、すねることなく、感謝を忘れることなく。
ルドへの「ごめんね」と「ありがとう」を忘れることなく。
そう思えたら、寂しいのを少しだけ忘れることが出来ました。
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