121 / 202
リフレイン?編
番外編2/米粉クッキーと届かないDeep Sorrow
しおりを挟む
2026年7月15日 加賀もとスーパー 閉店後
誰もいなくなったバックヤード。
蛍光灯がチカチカしてるだけの薄暗い休憩室。
さとる(24歳)は、面接で渡した米粉クッキーの袋をそっとテーブルに置いたまま帰れずにいた。
「……ショウゴさん、おにぎりは重いかなって思って。
米粉なら、ジジイになっても食べやすいかなって……」
袋の中には、翠星高校ピュアマートで売ってる既製品だけど、裏の原材料欄に小さく「米粉(白山市産)」って書いてある。
さとるはそれを見つけたとき、胸がぎゅっと締めつけられた。
ショウゴ(33歳)は、画皮のように剥がれかけた顔で、休憩室の洗面台の前に突っ立っていた。
ショウゴ(独り言、小さく)
「……昔、母ちゃんが握ってくれた弁当、 梅干し一個と塩むすびだけだった。
友達の唐揚げ弁当と交換して、 『ばばくせえ』って笑われてたっけ……」
今となっては、あの味が恋しい。
でも、もう母ちゃんはいない。
実家の田んぼも、叔父に任せっぱなしで、自分はスーパーのバイトでジジイ化してる。
さとるは、ショウゴの背中を見つめながら、ポケットから折りたたんだメモを取り出す。
そこには、小さな字で――
『Deep Sorrowを子守唄に聴いて育ったから、 優しい人には優しくなりたいって思ってる。
ショウゴさんが昔、落とした財布を届けてくれたとき、すごく嬉しかった。
だから、米粉クッキー。
おにぎりより軽くて、年寄りでも食べやすいかなって。 ……届くといいな。』
でも、渡せなかった。
「うさんくさい」って思われるのが怖かった。
ショウゴは、洗面台の鏡に映る自分の老け顔を見て、ふと、テーブルのショウゴサンヘと書かれた米粉クッキーの袋に気づく。
「……誰だこれ置いたの」袋を開けて、一枚口に入れる。
……ほんのり甘くて、米の香りがふわっと広がる。
瞬間、ショウゴの目から涙がこぼれた。
「……母ちゃんの味、やさしさ似てる……」
さとるは、休憩室の外、暗い通路でそれを聞いて、唇を噛んで俯いた。
届いた。
でも、名前も言えなかった。
さとる(心の中で)「……よかった」
ショウゴ(涙を拭きながら、小さく)「……誰だかわかんねえけど……ありがとな」
遠くで、誰もいない店内に「Deep Sorrow」のイントロが、どこからともなく流れ始める。
米粉クッキーの袋だけが、静かに、優しく、二人の間に残った。
──届かない名前で、届いた想い。
これが、加賀もとスーパーで一番静かな奇跡。
誰もいなくなったバックヤード。
蛍光灯がチカチカしてるだけの薄暗い休憩室。
さとる(24歳)は、面接で渡した米粉クッキーの袋をそっとテーブルに置いたまま帰れずにいた。
「……ショウゴさん、おにぎりは重いかなって思って。
米粉なら、ジジイになっても食べやすいかなって……」
袋の中には、翠星高校ピュアマートで売ってる既製品だけど、裏の原材料欄に小さく「米粉(白山市産)」って書いてある。
さとるはそれを見つけたとき、胸がぎゅっと締めつけられた。
ショウゴ(33歳)は、画皮のように剥がれかけた顔で、休憩室の洗面台の前に突っ立っていた。
ショウゴ(独り言、小さく)
「……昔、母ちゃんが握ってくれた弁当、 梅干し一個と塩むすびだけだった。
友達の唐揚げ弁当と交換して、 『ばばくせえ』って笑われてたっけ……」
今となっては、あの味が恋しい。
でも、もう母ちゃんはいない。
実家の田んぼも、叔父に任せっぱなしで、自分はスーパーのバイトでジジイ化してる。
さとるは、ショウゴの背中を見つめながら、ポケットから折りたたんだメモを取り出す。
そこには、小さな字で――
『Deep Sorrowを子守唄に聴いて育ったから、 優しい人には優しくなりたいって思ってる。
ショウゴさんが昔、落とした財布を届けてくれたとき、すごく嬉しかった。
だから、米粉クッキー。
おにぎりより軽くて、年寄りでも食べやすいかなって。 ……届くといいな。』
でも、渡せなかった。
「うさんくさい」って思われるのが怖かった。
ショウゴは、洗面台の鏡に映る自分の老け顔を見て、ふと、テーブルのショウゴサンヘと書かれた米粉クッキーの袋に気づく。
「……誰だこれ置いたの」袋を開けて、一枚口に入れる。
……ほんのり甘くて、米の香りがふわっと広がる。
瞬間、ショウゴの目から涙がこぼれた。
「……母ちゃんの味、やさしさ似てる……」
さとるは、休憩室の外、暗い通路でそれを聞いて、唇を噛んで俯いた。
届いた。
でも、名前も言えなかった。
さとる(心の中で)「……よかった」
ショウゴ(涙を拭きながら、小さく)「……誰だかわかんねえけど……ありがとな」
遠くで、誰もいない店内に「Deep Sorrow」のイントロが、どこからともなく流れ始める。
米粉クッキーの袋だけが、静かに、優しく、二人の間に残った。
──届かない名前で、届いた想い。
これが、加賀もとスーパーで一番静かな奇跡。
0
あなたにおすすめの小説
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される
水凪しおん
BL
勇者パーティーに尽くしながらも、生贄として裏切られた支援職の少年ユキ。
絶望の底で出会ったのは、孤独な魔王アシュトだった。
帰る場所を失ったユキが見つけたのは、規格外の生産スキル【慈愛の手】と、魔王からの想定外な溺愛!?
「私の至宝に、指一本触れるな」
荒れた魔王領を豊かな楽園へと変えていく、心優しい青年の成り上がりと、永い孤独を生きた魔王の凍てついた心を溶かす純愛の物語。
裏切り者たちへの華麗なる復讐劇が、今、始まる。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
冷酷なミューズ
キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。
誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。
しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる