かつて、魔女だった君へ~異形の怪人と殺戮の乙女~

RYU

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この炎に祝福を

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    翌朝、マコトは激しい頭痛と共に目が覚めた。


ー嫌な夢だー。ー


 寝巻が汗でぐっしょりである。額からも汗がぷつぷとと噴き出していた。カーテンを開け、換気をしようと窓を開けると、街の中心に巨大な樹木が、そびえ立っているのが見えた。

 そこには、人類滅亡後の様な世界がリアルに広がっていたのだった。人の姿が何処にもない。ここは、異世界なのだろうかー。外に出て歩いていると、人の様な姿形をした樹木が、あたりに点在して生えていた。
「何だ、これ!?」
妙にリアルである。人が携帯電話を持った様な姿の樹木やベンチに腰かけている様な樹木など、まるで人間そっくりであるのだ。
   すると、キーンという謎の音が頭の中をこだました。


ーあとは、ゆっくり思い出しましょうー。ー



夢の中での少女の一言がビンビン鳴り響いていた。


   マコトはフラフラしながら重たい足取りで、廃墟と化した街中を歩いていた。
「おう、マコト―。」
マコトは友人に声を掛けられ振り返った。
「お、森田、お前無事だったんだな。」
マコトは胸が急に軽くなり、深く溜息をついた。
「いたか?まだ、人間がー。」
    背後で、寒気を覚える位のハスキーボイスがきこえてきたー。
「貴様は、あの時のー」
マコトは安堵から再び寒気と恐怖に感情が移り変わった。
「全て喰らい尽くしたはずだがー、なんでまだ1匹残っているのだろうかー?」
そこには少女と影がおり、じっと森田を見ているー。
「ま、マコト、あの女、何なんだー!?」
森田は、ぶるぶる震えて、少女を指指した。
「違う、その子は器だ。身体を乗っ取られているんだ。本体はそこの影だ。」
マコトは影を指した。
「ま、いいか。蟻1匹仕留めたところで、どうって事、無いからな。」
少女の姿をしたダークネスは表情を微動だにせず、背を向けた。
「おい、俺を見ろ!」
しかし、ダークネスは、背を向けたままでたる。
マコトは、影を攻撃しようにも、地面にヒビが出来ただけてま、ダメージはないー。
「マコト、何馬鹿やってんだよ。」
森田は水鉄砲でも食らったかのような顔をしているー。
    しかし器である少女の身体には、攻撃する訳にはいかないー。本体は影なのだー。
「くそうー。どうすれば、どうすればいいんだよー。」
マコトは歯ぎしりをした。
ーそれなら、本体をやっちゃえばいいのよ。うふふー。ー
    何処からともなく再びねっとりした声がが頭をこだまするー。
    すると、影は魔法にかかったかのように浮き出て急に直立し、マコトの目の前に立ちはだかるー。
    そして、ドリルの様にグルグル渦を巻き、人型の姿を象った。



ーマコトー。ー


ー誰だー?ー   


ーさあ、目を覚ますのよ!今、覚醒したら楽に殺せるわ。ー 


影はみるみる不気味に肥大化していった。


ー醒ませ!醒ませ!醒ませ!醒ませ!ー

深くしわがれたささやき声が脳内を駆け巡った。

ー誰だ!?お前はー?


 マコト心臓の鼓動がが、太鼓のバチで叩かれるようにドクンと大きく脈打った。そして、マコトの周囲を朱色の炎が取り囲んだ。炎が延々と燃え広がり、そして爆発した。




 エリアム・キートンと、ベロニカ・デイビスは、教会の礼拝堂でシスターによる祝電の儀に参加していた。
    教卓では白装束のシスターが分厚い書物を手にとり、文を読み上げている。
「ダリィー。まだ昼前だぜ。」
    ベロニカは、あくびをしながら、首をポキポキ回した。
    二人共、歳は16,17位位だろうか。しかし、全体の雰囲気は見た目の年齢と不相応である。少女らしいあどけなさやフレッシュさが全く感じられない。妙に落ち着いており、逆に貫禄を感じるのだ。幾千練磨の人生経験を積んで、酸いも甘いも知り尽くしたかの様なそんなどっしりとした重厚感のある雰囲気を漂わせていた。子供なのに老けた感じのする二人は、そんな何とも言いようのない不思議なオーラを纏っていたのだ。
「シーツ!バレるぞ。」
    エリアムは口に指を当てて、軽くベロニカを制した。彼女は髪はブロンドで碧色の瞳をしていた。そして、パーマののったショートヘアーを軽くかきあげると、物思いにふけるかのように真剣に正面を見ていた。
「大体、信じる者は救われねーよ。救われてたら、とっくの昔にどうにかなってんだよ。それになんだ、こんな無駄にゴダゴダした装飾はー」
      ベロニカはげんなりした表情で周囲を見回した。
  確かに綺羅びやかな教会である。天井は8階建てのビルがすっぽり入るくらい異様に高く、そこに巨大な絵画が描かれており、所々にカラフルなステンドグラスが張り巡らされていた。
「まあ、よくある手口だよな。困窮している弱者を錯乱させ、統制を測り、意のままに操るというー。どうせ、裏で仲間がいるはずだから、気をつけた方がいいぞ。でも、ま、近くでローズとリリー、オクタビアが待機している筈だから、心強いがなー。」
     エリアムは、顎に手を当ててその光景を仰視している。何か策を考えているようである。
「天の神々は平等です。これから私が皆さんに、魂の救済を施しましょう。」
    すると本からうっすらと炎が浮き出てきた。炎はオレンジ色ではなく象牙色であり、幻想的であった。炎は次第に大きくなり、空間は歓喜の渦にのまれた。
「神秘だ、神秘の炎だ!」
聴衆の一人が指さしながら立ち上がった。

「この炎に祝福をー!」

「この炎に祝福を―!」

他の聴衆たちは同じことを口ずさんだ。空間全体が異様に調和が取れすぎていて、不気味すぎる。まるで、地獄の悪魔の集会の様である。
「やれやれ。なら、やられる前に、やってやるか。」
ベロニカは、椅子の下から巨大な鎌の様な形状の武器を取りだし、構えた。
「ああ、そうだな。」
エリアムも下から、長さ70センチ直径20センチ程のバズーカを取り出すと、細身な身体で楽々と右肩に担いだ。
「エリー、頼んだぞ。」
「了解。」
   すると、エリアムの瞳が一瞬明るく光った。彼女の髪はそよ風にふかれるかのようにふわっと浮き上がると、ホリゾンブルーの光が空間を覆った。すると、聴衆の動きはリモコンの停止ボタンを押したかのようにピタリと止まり、そこには異次元の光景が広がっていた。
「退屈でしたか?」
シスターは微笑むと、手を拡げた。本は炎を浮かべながら宙に浮いており、炎の勢いは徐々に大きくなっていく。
「ああ、退屈さ、十分くだらなさ過ぎて退屈だった、ぜ!」
すると、ベロニカの鎌の先端から紅色の炎を噴き出した。彼女は武器を振り上げると、電光石火の如くシスターに突進してきた。
「あらまあ、随分と穏やかではありませんね。」
    シスターは、悠長に首を傾げた。ベロニカは彼女を睨みつけると鎌の先端を彼女の額に命中させた。すると、シスターの額からひびが割れ、そこからぱっくり身体が割れた。そしてその中から異形の化け物が姿を現したのだ。ーダークネスであるー。彼女の肌は浅黒く、人型を模したの樹木の様な姿になった。そして体中に幾何学模様の紋様が浮き出でおり、赤く光っていたのだった。
「まずい、初めから仲間とはすでに遮断されていたんだー。」
   エリアムは、急いでバズーカの照準をダークネスの額に合わせると、引き金を引き、連射した。弾丸はホリゾンブルーのオーラを纏い、アストリアン命中した。続けて矢継ぎ早にオーラを纏った弾丸を大雨のごとく連射し続けた。
    しかし、ダークネスは微笑んだまま、びくりともしない。すると、弾丸はエリアムのオーラを纏ったまま跳ね返った。そしてとてつもなく強い突風が巻き起こり、二人は遥か後方に吹き飛んだのだった。
「私も、ここで貴女方のような哀れな娘達を何人も見てきました。」
ダークネスは悲しそうな顔表情をしている。
「うっせー。あんたが企んでいるのは、見え見えなんだよ。」

「あら、不届き者には、罰を与えないといけなくなりましたね。」

「それはテメーの方だろ。」

エリアムとベロニカは再び武器を構えた。

「あらあら、そんな、物騒な物は下ろしなさい。ここは聖なる場所ですよ。」

    二人は糸で操られているような重苦しい何かに引っ張られたな感覚になった。すると、武器ははたりと地面に落ちた。

「ー!?」

「だから、ここは聖なる場所なのですよ。」

ダークネスは、這いつくばる二人を見下ろした。

「ーどこが聖なる場所だ。まるで養豚場じゃねぇか。養分を与えて、うまく利用して頃合いに食い殺すんだろー」
 ベロニカは、ぜえぜえ、荒く呼吸をしている。
「ベロニカ、喋るな。奴はここで僕達が抗えば抗うほど、オーラを吸収しやがるんだ。」
「何だってー!?」
ベロニカはエリアムの方を向いた。エリアムは、じっとダークネスを睨みつけながら、唇を噛みしめていた。
「それは穏やかな言い方ではありませんね。私共のしている事は、弱者の救済です。憐れな魂の浄化をしているのですよ。ーそうですねー貴女達も自分達の憐れな運命を呪った事があるでしょうー。」
ダークネスは眼を赤く光らせ、二人に歩み寄る。両腕は蛇の様にくねくねうねり、二人の方に伸びていく。
「ふん、生憎、あたしは自分の事を憐れんだりしない主義でな。」
ベロニカは、ひたすら鎌を掴もうとしている。しかし、手が重く震えて思い通りにいかないー。
「貴女方の事は十分存じ上げてますよ。家族を化け物に喰い殺され、自分達も組織に人外の化け物に改造され、良いようにコキ使われているという、不老不死の少女ー、アルファ。死ぬ事なく永遠に戦い続けるなんて、私は、貴女方に憐れみを感じます。」
「ーその、僕らの身内を喰い殺した化け物は、お前の同胞なんだがなー。」
エリアムは、汗をかき這いつくばりながら、シスターを睨みつける。
「あら、とんでもない。私は何もしませんでしたよ。無関係です。ここで、貴女方に提案ですー。」
二人は、ダークネスから、禍々しい悪魔の様なオーラを感じ取った。
「ここで貴女方を永遠の苦しみから、開放して差し上げましょう。」
ーと、次の瞬間、二人はそれぞれ触手に巻き付かれ、天井高く突き上げられた。
「もう既にお気づきのようですが、ここは私の閉鎖空間です。貴女方がどんなに悲鳴を上げてもあの娘達には届きません。」
ダークネスは不気味に微笑んでいた。

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