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冬の星
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外は土砂降りで今日は出かけるのには向かない。それだというのに女は道を歩いていた。田舎でも都会でもない中途半端なその街を歩く女の姿はとても惨めであった。この女はどこに行くというのだろうかこの土砂降りの日に。
私は、可もなく不可もない女だと自分では思う。それなりに生きてきた。本当はいい加減な人なのにどこか人前ではいい加減になれず真面目になってしまう。でも、それも今日で終わりだ。
こんな土砂降りの日に女が1人歩いていたら傍から見たら少しおかしいかもしれない。やはりおかしいと思われたみたいだ、通りがけの商店のオバサンが声をかけてきた。
「あんた、こんな雨の日にどこに行くんだい?」
「お気になさらず。友人に会いにいくだけですから。」
「そうかい、気をつけるんだよ。雨の日は連れていかれるからね。」
私は気をつけますと一言喋りオバサンの元を去った。オバサンの言う連れていかれるという言葉がどうにも気になるが脅し文句のようなものだろうこんな雨の日には出るべきではないという。
私は友人の元へ急ぐ。だが、私に友人なんていたかなとふと頭に疑問が浮かんだ。最近、記憶をどこかに落としたかのように記憶の一部が無くなることがある。上司に病院に行けと言われていたことを思い出した。ところで私は一体どこに向かっているのだろう。それすら忘れかけてしまってはこの土砂降りの中歩く意味が無い。
思い出した、そうだ。私は友人の所に行くところだった。ズボンのポケットに確か友人の元へ行くための方法が書かれたメモが入ってたはずだ。私はポケットに手をつっこみゴソゴソと中にある紙を取り出してみた。
「これだ」
無意識のうちに独り言が出る。
4つに折りたたまれた紙を広げ行き方を見る。
南山方面のバスに乗り4番目のバス停で降りると書いてあった。私はその指示に従い。まずはバス停に行きバスを待った。10分ほど待っていると緑色のバスがやってきた。それに乗り込む。
乗り込んですぐそのバスの乗客がおかしいことに気がついた。バスには私の他に4人乗客が乗っていた。
1人目は全身紫色でまとめられ、ギラギラ眩しいほど光る指輪を全部の指にはめている30代ぐらいの女。
2人目は学生服を着てヘッドホンをつけ何やら小声でブツブツ喋っている少年。
3人目はガリガリに痩せ細っていて貧相そうな見た目をしている50代ぐらいの男。
4人目は目を見開き天井を仰ぐように見ている80代ぐらいの老婆。
どの乗客も浮かない顔をしていた。
私はここにいるのが場違いではないかと思ったがそうでも無かったようだ。
私は1人がけの席に座った。そして出発して数分で1つ目のバス停に着いた。派手な指輪の女が停車ボタンを押した。そして、なぜか私の方をチラチラと見てきた。
「あなた、ここで降りなくていいの?」
突然、指輪ギラギラ女が喋りかけてきたのでへっ?と変な声が出てしまった。キョトンとしているとまた女が、
「あなた、ここで降りなくていいの?」
と聞いてくる。私は、ハッと我に帰り。
「あっ、大丈夫です。ここでは降りません。」
と言った。すると、女は目をカッと見開いて私の目をまっすぐ見て、
「後悔してももう戻れないからね…」
と一言だけ言いバスを降りていった。
一体なんだったんだろうと考えるが思い当たる節などない。頭がイカれてたんだろうと思うことにした。バスが出発し2つ目のバス停に向かう。バスが出発してすぐに少年が私の前の座席に移り私に話しかけてきた。
「ねぇ、あんたはなんでこのバスに乗ってるの?」
少年に話しかけられた時はちょっと驚いたが先程の女よりかは可愛く見えてスムーズに答えることができた。
「友人に会いにいくの。あなたは?」
「僕は、なんでこのバスに乗ってるのかわからないんだ。」
「わからない?」
「そう、わからない。どこのバス停から乗っているのかもわからない。でも、次で終わりだということはわかる。」
「終わりって降りるってこと?」
「そう、次で僕は降りるよ。あんたも次で降りてくれたらいいのに…」
「どうしてそう思うの?」
「1人は寂しいからかな…」
そういう少年の顔は寂しそうだった。少年は2つ目のバス停で降りた。別れ際に、もういらないからと音楽プレイヤーとヘッドホンをくれた。曲を再生してみる。私が学生時代に好きだったバンドの曲だった。3つ目のバス停では50代の男と老婆が降りるようだった。50代の男は俯いて何も喋らずずっと席に座っていたが、老婆は喋りかけてきた。
「お前さん、ここで降りないだろう?」
「はい、次で降ります。」
「お前さん、まだこのバスの意味をわかってないね。」
「えっ?」
老婆はゴニョゴニョと何か言っていたが聞き取れなかった。バスを降りる時老婆は私の腕を強く掴んできた。
「お前さんも一緒に来るんじゃ!お前はここで降りるんじゃ!」
と大声で叫んでいたが、運転手が老婆を私から引き剥がしバスから降ろした。男はもう既にバスにいなかった。
一体なぜ、このバスの乗客は私を一緒に降ろそうとしてくるんだろう…結局よくわからないまま4つ目のバス停に着いてしまった。そしてバスを降りた瞬間に他の乗客の言っていた意味がわかった。私が降りたその場所は私のよく知っている場所だった。
そう、それは冬の夜に車で山に向かい友人を埋める穴を掘り友人を埋めた。あの日のあの山だった。冬の夜空にキラキラと光る星たちを見る。私は鼻歌を歌う。そして、ナイフで腹を切る。
カッとなって殺してしまった5人の人。殺す度に埋めに来たこの山ともこれでお別れだ。
地獄に行く前に罪の重さを知れと彼らは言っていたのだろうか。なぜ殺してしまった人たちだとバスに乗った時点で気がつかなかったのだろう。
指輪の女と痩せた男と老婆、そして運転手として乗っていた友人はついカッとなって殺してしまったが、少年だけは違った。
彼は、高校時代私の恋人だった啓太だ。彼は自殺した。でも、私が殺したも同然だった。彼の死にたい理由も知っていて死ぬ日も知っていたのに止めなかったから。きっと、彼はあのバスに乗っていたんだろうな。
星の綺麗な冬の夜、私はとある山で自殺した。
土砂降りだった雨はすっかり止んだ。田舎でも都会でもない街に朝が来た。
朝刊を見た商店のオバサンは倒れたらしい。
「雨の日は連れていかれる!!」
と大きな声で叫んで倒れたと家族は語った。
私は、可もなく不可もない女だと自分では思う。それなりに生きてきた。本当はいい加減な人なのにどこか人前ではいい加減になれず真面目になってしまう。でも、それも今日で終わりだ。
こんな土砂降りの日に女が1人歩いていたら傍から見たら少しおかしいかもしれない。やはりおかしいと思われたみたいだ、通りがけの商店のオバサンが声をかけてきた。
「あんた、こんな雨の日にどこに行くんだい?」
「お気になさらず。友人に会いにいくだけですから。」
「そうかい、気をつけるんだよ。雨の日は連れていかれるからね。」
私は気をつけますと一言喋りオバサンの元を去った。オバサンの言う連れていかれるという言葉がどうにも気になるが脅し文句のようなものだろうこんな雨の日には出るべきではないという。
私は友人の元へ急ぐ。だが、私に友人なんていたかなとふと頭に疑問が浮かんだ。最近、記憶をどこかに落としたかのように記憶の一部が無くなることがある。上司に病院に行けと言われていたことを思い出した。ところで私は一体どこに向かっているのだろう。それすら忘れかけてしまってはこの土砂降りの中歩く意味が無い。
思い出した、そうだ。私は友人の所に行くところだった。ズボンのポケットに確か友人の元へ行くための方法が書かれたメモが入ってたはずだ。私はポケットに手をつっこみゴソゴソと中にある紙を取り出してみた。
「これだ」
無意識のうちに独り言が出る。
4つに折りたたまれた紙を広げ行き方を見る。
南山方面のバスに乗り4番目のバス停で降りると書いてあった。私はその指示に従い。まずはバス停に行きバスを待った。10分ほど待っていると緑色のバスがやってきた。それに乗り込む。
乗り込んですぐそのバスの乗客がおかしいことに気がついた。バスには私の他に4人乗客が乗っていた。
1人目は全身紫色でまとめられ、ギラギラ眩しいほど光る指輪を全部の指にはめている30代ぐらいの女。
2人目は学生服を着てヘッドホンをつけ何やら小声でブツブツ喋っている少年。
3人目はガリガリに痩せ細っていて貧相そうな見た目をしている50代ぐらいの男。
4人目は目を見開き天井を仰ぐように見ている80代ぐらいの老婆。
どの乗客も浮かない顔をしていた。
私はここにいるのが場違いではないかと思ったがそうでも無かったようだ。
私は1人がけの席に座った。そして出発して数分で1つ目のバス停に着いた。派手な指輪の女が停車ボタンを押した。そして、なぜか私の方をチラチラと見てきた。
「あなた、ここで降りなくていいの?」
突然、指輪ギラギラ女が喋りかけてきたのでへっ?と変な声が出てしまった。キョトンとしているとまた女が、
「あなた、ここで降りなくていいの?」
と聞いてくる。私は、ハッと我に帰り。
「あっ、大丈夫です。ここでは降りません。」
と言った。すると、女は目をカッと見開いて私の目をまっすぐ見て、
「後悔してももう戻れないからね…」
と一言だけ言いバスを降りていった。
一体なんだったんだろうと考えるが思い当たる節などない。頭がイカれてたんだろうと思うことにした。バスが出発し2つ目のバス停に向かう。バスが出発してすぐに少年が私の前の座席に移り私に話しかけてきた。
「ねぇ、あんたはなんでこのバスに乗ってるの?」
少年に話しかけられた時はちょっと驚いたが先程の女よりかは可愛く見えてスムーズに答えることができた。
「友人に会いにいくの。あなたは?」
「僕は、なんでこのバスに乗ってるのかわからないんだ。」
「わからない?」
「そう、わからない。どこのバス停から乗っているのかもわからない。でも、次で終わりだということはわかる。」
「終わりって降りるってこと?」
「そう、次で僕は降りるよ。あんたも次で降りてくれたらいいのに…」
「どうしてそう思うの?」
「1人は寂しいからかな…」
そういう少年の顔は寂しそうだった。少年は2つ目のバス停で降りた。別れ際に、もういらないからと音楽プレイヤーとヘッドホンをくれた。曲を再生してみる。私が学生時代に好きだったバンドの曲だった。3つ目のバス停では50代の男と老婆が降りるようだった。50代の男は俯いて何も喋らずずっと席に座っていたが、老婆は喋りかけてきた。
「お前さん、ここで降りないだろう?」
「はい、次で降ります。」
「お前さん、まだこのバスの意味をわかってないね。」
「えっ?」
老婆はゴニョゴニョと何か言っていたが聞き取れなかった。バスを降りる時老婆は私の腕を強く掴んできた。
「お前さんも一緒に来るんじゃ!お前はここで降りるんじゃ!」
と大声で叫んでいたが、運転手が老婆を私から引き剥がしバスから降ろした。男はもう既にバスにいなかった。
一体なぜ、このバスの乗客は私を一緒に降ろそうとしてくるんだろう…結局よくわからないまま4つ目のバス停に着いてしまった。そしてバスを降りた瞬間に他の乗客の言っていた意味がわかった。私が降りたその場所は私のよく知っている場所だった。
そう、それは冬の夜に車で山に向かい友人を埋める穴を掘り友人を埋めた。あの日のあの山だった。冬の夜空にキラキラと光る星たちを見る。私は鼻歌を歌う。そして、ナイフで腹を切る。
カッとなって殺してしまった5人の人。殺す度に埋めに来たこの山ともこれでお別れだ。
地獄に行く前に罪の重さを知れと彼らは言っていたのだろうか。なぜ殺してしまった人たちだとバスに乗った時点で気がつかなかったのだろう。
指輪の女と痩せた男と老婆、そして運転手として乗っていた友人はついカッとなって殺してしまったが、少年だけは違った。
彼は、高校時代私の恋人だった啓太だ。彼は自殺した。でも、私が殺したも同然だった。彼の死にたい理由も知っていて死ぬ日も知っていたのに止めなかったから。きっと、彼はあのバスに乗っていたんだろうな。
星の綺麗な冬の夜、私はとある山で自殺した。
土砂降りだった雨はすっかり止んだ。田舎でも都会でもない街に朝が来た。
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