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第二章 始まる争い
59話 大胆な作戦
しおりを挟むお風呂を食事を済ませたイノチたち一同は、そのまま食堂に集まっていた。
『トウト』での一幕とその帰りに起きた出来事の一部始終を、フレデリカたちへと説明するためである。
「なるほど。『トウト』でそんなことがあったのですわね。しかし、その"神の使い"とやらは気になりますわ。いったい何者…」
「…確かにな。しかし、なかなか楽しい旅であったようだな。我も行きたかったが残念だ。思わぬ来客には驚いたが…な。」
ウォタの言葉に、ゲンサイは鼻を鳴らして顔を背ける。
「あたしは納得いってないけどね!」
「ゲンサイのお兄ちゃん、強いもんねぇ♪あんなに重い攻撃を受けたのは、僕も初めてだもん♪」
顔を背けているゲンサイの顔が、少し赤くなった気がした。
何者もアレックスには敵わないということかと、イノチは少し顔がほころぶ。
「わかるぞ」っとうなずいているイノチに、今度はトヌスが口を開いた。
「しかしよぉ…イノチの旦那、これからどうすんだ?あの二人の話によれば、ランク戦の開始と同時に、プレイヤーたちがこの国に一気に流れ込んでくるんだろ?開催時期は未定と言っても、それまでに何か対策しないといけねぇぜ。」
「確かに…この国のプレイヤーというやつは100人程度しかいないのだろう?それをみな仲間に加えたとしても、周辺諸国には到底及ばない…しかも、三方向から攻められれば、ひとたまりもないのではないか?」
「まぁ、俺が他国に行って、プレイヤー全員を皆殺しにするのは可能だが、短期間で3つの国、全部は無理だしな。」
ゼンもゲンサイも、冷静な分析をイノチへ投げかける。
それらの意見に対して、イノチは目をつむり、うなずきながら口を開いた。
「…確かにみんなの言うとおりだ。今の状況じゃ、他国のプレイヤーたちに一方的にやられて終わりだと思う。だけど、そんなことになれば、この国は戦争の第一線になってしまう。アキンドさんやお世話になってきた人たちが、殺されてしまう可能性だってあるんだ。そんなこと、俺は絶対に許さない。」
イノチの真剣な言葉に、皆がうなずいている中、ゲンサイが反論する。
「理想を掲げるのは簡単だぜ。だが、具体的にどうするか…それを考えなきゃ、結果は同じだ。」
「わかってる。その具体的にどうするかって話なんだけど、俺にひとつ考えがあるんだ。」
「考えだと…なんだ、言ってみろ。」
少し感心したように聞き返すゲンサイに、イノチは大きくうなずいた。
メイが紅茶のおかわりを注いでくれている。
彼女にお礼をすると、再び口を開くイノチ。
「まずは、みんなにやってもらいたいことがある。」
そう言ってミコトやトヌス、エレナたちをぐるりと見渡すと、イノチの視線は最初にゲンサイで止まった。
「ゲンサイ。あんたにはジプトに行ってもらいたい。行きたがってたろ?」
「ジプトだと?…行って、何すんだ。」
「やりたがっていたプレイヤーの相手だよ。」
「なんだ、殺してこいってことかよ。いいのか?」
再びイスに腰掛けながら、本当にいいのかと問いかけてくるゲンサイに、イノチは真剣な眼差しを向ける。
「今まではモンスターにやられないようにって、それだけを考えてた。だけど、あんたから前回のランク戦の話を聞いて思ったんだ。やられなきゃやられる…俺たちは今いる世界は、本当にそういう世界なんだと…そう改めて感じたんだ。」
「その通りだな…お前らは考えが甘い。これはただのゲームじゃねぇんだ。特にランク戦は、死んだら終わりのデスゲームって奴なんだよ。そこにいる竜種たちの方がよっぽどわかってるぜ。」
ウォタもゼンも、ヒヨッコが何を言いよるといった視線をゲンサイは向ける。
「うん…だから俺は考えた。相手がその気なら、こっちも手段は選ばなくていいってね。ジプトのプレイヤー数は約300だ。こいつらがジパンに来なくなれば、残りはリシアとノルデンだけになる。」
「でっ…でも、イノチくん!相手のプレイヤーを倒すってことは、その人の命を奪うってことなんだよ!私は…それは反対だよ。」
イノチの想いを察したミコトが声を上げた。
その眼には少しの涙が浮かんでいる。
「わかってる。だからゲンサイには、ジプトのプレイヤーを極力殺さずに無力化して欲しいんだ。手段は問わない。最強を名乗ってるんだ…それくらいできるだろ?」
「簡単に言いやがる。そういう中途半端なのが一番難しいんだぜ…が、まぁいい。やってやるけど、殺しちまっても文句は言うなよ。」
「その時は、その分の罪を俺も一緒に背負うよ。それと、ゲンサイにはウォタ!お前がついていってくれ。」
ミコトをなだめながら、イノチはウォタに視線を向けた。
クッキーを食べていた手が止まり、ウォタがイノチとゲンサイを交互に見る。
「なんで我なのだ?」
「最強プレイヤーが暴れた時に止められるのは、最強の中の最強である竜種だけだと、俺は思うからさ。」
「ほう…わかっておるではないか。」
まんざらでもない様子のウォタを見て、エレナもアレックスも「単純な竜(さん)だ」と頭の中で思っていた。
しかし、これは妥当な組み合わせだろう。
「ちっ…仕方ねぇか。」
不満げに悪態をつくゲンサイの横で、フレデリカが口を開く。
「それでBOSS…彼にジプトを抑えてもらっても、リシアとノルデンからプレイヤーは来るのでしょう?それはどうするのです?」
「もちろん、そうだね。だから、他のみんなにもしてもらいたいことを今から伝えるよ。」
イノチはそう言うと、自称"神の使い"である老人からもらっていた世界地図をテーブルに開き、皆に説明を始めた。
ジパン国は島国である。
そのため、プレイヤーたちが他国からジパンに来るには、どうしても船を使って港から入ることになる。
その港がある街は『トウト』と『タカハ』だ。
地理的に考えれば、リシアは『タカハ』、ノルデンは『トウト』の港から入り込んでくることが予想される。
イノチの作戦ではその二つの街を拠点に、各都市にいるプレイヤーをできる限り仲間に加え、他国のプレイヤーたちを迎え撃つと言うわけだ。
「ミコトとゼンさんは『イズモ』にいるタケルと合流したら、そのまま『タカハ』の街に向かってほしい。タケルにはメッセージを送ってて、すでに了承を得てるから。次に、トヌスたちは『トウト』担当ね。プレイヤーを仲間にするのに加えて、王さまやシャシイさんに事情を説明して、国の守りを固めるように伝えてもらいたいんだ。」
「うん、わかった。」
「いいぜ。」
二人ともそれを承諾する。
しかし、フレデリカは自分の役割が未だにわからず、不満そうにしている。
「あたしたちはどうするの?」
「そうですわ。ついでにBOSSも何をするのです?」
「ついでにって…はぁ…エレナ、フレデリカ、アレックスは俺と一緒に行動ね。一番重要で危険な任務…っていうと、聞こえはかっこいいな。」
「何よ!もったいぶらないで早く言いなさい。」
「ほうばよ(そうだよ)、ぼふ(BOSS)♪まにふるのは(何するのさ)♪」
ほっぺを膨らませ、まるでリスのように口をもぐもぐさせているアレックスを見て、イノチはキュンとしてしまう。
ハッとして頭を横に振り、仕切り直すイノチ。
皆が注目する中で、咳払いをひとつすると、イノチはこう告げたのだった。
「俺たちはリシア帝国に潜り込む!そして、奴らを内側からぶっ壊すんだ!」
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