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第四章 全ての想いの行く末
28話 想い、溢れる
しおりを挟む「ハァハァ…この先が…」
街に着き、急いでイノチたちがいる宿屋を目指すエレナの耳に、遠くでガラスが割れる音が小さく聞こえた。
(今のは…!?)
異変を嗅ぎ取ったエレナは、すぐさま屋根に飛び上がり、そのまま屋根伝いに宿屋を目指す、
すると、視界の先に窓ガラスが割れて中の明かりが漏れ出した一つの部屋が映し出された。
エレナは背中にゾワゾワするものを感じる。
もしかすると、すでにアルスはイノチたちの下へ到着して…
その先は考えたくなかったが、未だ自分が存在していることだけがイノチの無事を確認できる唯一の方法だった。
(急げ急げ急げ!)
心の中でそう唱え続け、屋根の上を必死に駆け抜けていく。
目指している窓が近づいてきた。
頃合いを見計らい、足に力を込めてエレナは大きく跳躍する。
そして、そのままイノチたちの部屋の窓のサッシに足をかけ、急いで中を覗き込んだ。
「BOSS…!!!」
そう叫んだエレナの目に飛び込んできたのは、部屋の中でアルスと向かい合うイノチの姿だった。
「…へぇ。なかなか早かったじゃないか。」
エレナの方に視線を向けて、感心したように笑うアルス。
対して、イノチはエレナの登場に驚いて問いかけた。
「エレナ!?フレデリカは…他のみんなはどうしたんだ!」
「大丈夫…!生きてるわ。みんな、そいつにやられちゃったけど…」
そう告げてアルスへと視線向けるエレナ。
それを追うように、イノチもセイドも再びアルスへと顔を向ける。
「はぁ~妹が到着する前に終わらせたかったのに…まったく君のそれは何なんだい?なぜそんな防御障壁を展開できるんだ。」
珍しく怪訝な顔を浮かべてイノチを見るアルスの様子に、エレナは何が起きたのかすぐに理解できた。
(BOSSに絶対防御を備えさせといてよかったわ。フレデリカ…ほんとにナイス助言ね。認めたくないけど…)
顔には出さず胸の内でホッとするエレナは、珍しくフレデリカに感謝する。
実はリシア帝国中央都市ザインからサザナミへ戻る道中、エレナたちはイノチのスキルをいろいろと試していたのだ。
~
『BOSSって神獣たちが持ってる絶対防御を解除できましたですわよね?』
『え?あ…あぁ、できるよ。あれは時間はかかるけど…』
フレデリカの突然の問いかけにイノチは返答しつつ、疑問を浮かべた。
『それがどうかしたのか?』
『いえ、少し考えていたんですが…解除できるなら逆に誰かにそれを構築することも可能なのでは?と思いまして…』
『おぉ…それは思いつかなかったな。今まで解除することばかりだったから…確かに一理ある。』
『試してみませんか?ですわ。』
『そうだな!やってみよう!』
~
その後、予想通り神獣同様の『絶対防御』が構築できることがわかったが、複数人に同時に構築はできなかったため、エレナたちはイノチ自身に構築させ、万が一に備えさせていたのだ。
もちろん、その効果も確認済みだ。
エレナ、セイド、アレックスの攻撃はもちろんのこと、『竜化』したフレデリカの本気の拳でも、一度なら防ぐことができることが検証済みである。
ちなみにフレデリカに本気で殴りかかられた時、イノチはあまりの恐怖に失神してしまったことはまた別の話だが…
とにかく、イノチには今、『ユニークボス』と呼ばれる神獣と同様の防御障壁が備わっており、さすがのアルスでもそれを簡単に突破することはできなかったのだった。
「兄さん…諦めさない!それはいくら兄さんでも突破は不可能よ!」
「ふ~む、お前のその自信…あながち嘘でもなさそうだね。だけど、君は本当に何者なんだ。それは神獣たちが使うものとよく似ているし…」
「だから、お前に答える義理はないって言っただろ?」
イノチがそう告げると、アルスは笑みをこぼす。
しかし、イノチはその笑顔に違和感を覚えた。
(なんだ…こいつ、本気で笑っていない…?気持ち悪い…)
笑顔の裏に何かドス黒い感情が蠢いているような…彼の笑いはただの笑いでなく、何かを抑えるために取り繕っているような…
イノチがそう感じていると、アルスが構えを解きながら再びエレナヘと告げる。
「お前の召喚士は今は殺せない…か。仕方ない…お前が帰りたくなる別の方法を考え直さなくちゃならないかなぁ。」
「あたしは帰らないわ!ここがあたしの居場所なのよ!」
「何を言ってる。お前の気持ちなど関係ないんだよ。」
「……っ!?」
突然、無表情となり暗く沈み込むようなアルスの視線に、エレナは言葉を失った。
「さっきも言ったが、お前には利用価値ができたんだ。だから連れて帰る…それだけのことだよ。ランドール家に生まれたのだから、ランドール家のために尽くす。何もおかしいことなんてないだろう。お前の価値なんて、その程度なんだから…」
「そ…そんなこと…う…うぅ…」
その言葉を聞いてエレナは涙していた。
そこには悲しみよりも恐怖が…そして、悔しさが滲み出していることがわかる。
自分ではもうどうすることもできないことを理解している…そんな表情だ。
そして、そんなエレナを見たイノチは驚きを隠せなかった。
今までエレナのこんな顔は見たことがない。
いつでも強くたくましく、高飛車で自信満々なエレナ。
時に厳しくも、常にみんなを引っ張っていってくれるエレナが、兄を前にしてこんな表情を浮かべている。
その事に驚きつつ、アルスの言動に対する一つの感情がイノチの中で沸々と湧き上がり、次第に心を支配していった。
「お前はランドールの当主にはなれない。ならば、できることをすべきだろ?今度、ノルデンで最大の権力を持つジーマン公爵家の長男が見合いをするんだが、父さんがお前の写真を見せたところ、彼はたいそう気に入ったそうでね…お前を妻に迎え入れたいと所望してきたのさ。」
「いやよ…そんなの…」
エレナは声を振り絞ってそれを否定するが、アルスは言葉を止めることはない。
「ジーマン公爵家とのパイプができれば、我がランドール家は当分安泰さ。だから、お前はジーマン公爵家に嫁ぎ、ランドール家の繁栄のために役に立たねばならない。」
「いや…いや…」
泣きながら否定を続けるエレナの様子にアルスは呆れ返り、大きくため息をついて肩をすくめた。
「いつまでも子供みたいなわがままを言うなよ。ランドール家に生まれたということはそういうことなんだ。さぁ、エレナ…僕と一緒に帰るんだ。」
そう告げて、ニッコリと優しい笑みを浮かべて手を差し伸べるアルスに対し、エレナの顔はさらに絶望に染まる。
しかし、その横でイノチは心の中に湧き上がった怒りをグツグツと煮えたぎらせていた。
エレナの家のことなんか自分にはわからない。
だが、何と理不尽なことだろうか。
たかが、一族の繁栄のために望まない結婚をしなければならないなんて…
確かに、今まで読んできたたくさんの物語にはそんな一幕もたくさんあったが、さほど気にしたことはなかった。物語の中での話…その態度にしか考えたことはなかったのだ。
だが、いざ自分の仲間がその立場に置かれた時、人の感情とはこうも変わるものなのか。
イノチは怒りの中で冷静にそう感じていた。
そして、気づいた時には想いが口から溢れ出していたのだ。
「言わせておけば…兄だか何だか知らんが、お前にエレナを妹と呼ぶ資格はない!本人が結婚したくないのに、それを無理強いするなんて!」
その言葉を聞いたアルスはキョトンとしていたが、表情にすぐに笑みを戻す。
「何を言うかと思えば…君は僕らランドール家とは関係ない部外者だろ?我が一族のことに口出ししないでくれるかな?」
しかし、未だに笑っているアルスに対して、イノチは想いの丈を叫び上げた。
「うるせぇ!一族がどうとか、そんなの関係ないね!人の価値なんて他人が決めるものじゃないからな!兄貴だからってエレナの価値を勝手に決めつけんな!バカやろう!!」
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