21 / 50
第一章 春樹の場合
王都編 1-20 夢の中で会いましょうpart2
しおりを挟む「君、今死にかけてるよ。」
暗闇の中、スポットライトが当てられ、春樹はポツンと座っている。
目の前には、またも理解し難い発言をしている、ストライプのスーツを決め込んだ女性が立っている。
「…また、あんたか。」
侮蔑まじりに言ったはずだが、ミウルは「いやぁ、それほどでも」といったように照れ臭そうな仕草をしている。
「いちいち、仕草が癇に障るな。てか、"死にかけてる"ってどういう意味だよ。」
「言葉の通りだよ。君は今まさに、死のうとしている。」
春樹はその言葉に顔をしかめる。
「言っている意味がわからない。俺はここにいるじゃないか。」
「そうさぁ。ここは君の深層心理。まだ死んでないのだから、ここにいる君が無事なのは当たり前だよ。」
ーーーやはり、こいつの言っている意味がわからない。
春樹はミウルの言葉に苛立ちを感じる。
「はっきり言ってくれないか。今、俺はどういう状況なんだ。」
春樹のその問いかけに、ミウルは少し考える仕草をして、口を開いた。
「聞いたら、ショックを受けるかもよ?」
「いいから、早く教えてくれ。」
ミウルは、ウンウンと頷いて、指を鳴らすと、手元に鏡のようなパネルが一つ、現れる。それを春樹に渡して、
「絶望するなよ…」
そう耳元で呟くと、パネルにはある絵が映し出された。
「???こっ、これって…俺か…?」
パネルには、右目を潰され、右肘から先がなくなり、顔の至る所から血を流して、倒れている自分が映し出されている。
生きているのが不思議なくらい、凄惨な有り様で、そばに来たクラージュが、止血をしてくれているのが見える。
ウェルがきて、背中に載せられ、外に運ばれて行った。
そこまで映すと、パネルは消えてしまった。
ぼーっと立ち尽くす春樹に向かって、ミウルが声をかける。
「絶望したかい?これは事実だよ。君は刺客に襲われ、相当な深傷を負っている。どうやら、ルシファリスの元へ運んだようだけど、果たして…間に合うかなぁ。」
相変わらず他人行儀な振る舞いで、春樹へと話しかけるミウルに、放心していた心に火がついた。
「お前…なんでそんなに他人事のように言ってられる。俺が死ねば、お前もここにはいられないはずだ…」
ミウルはその言葉に、感心したように頷いて、
「なんだ。意外と冷静じゃないか。その調子なら、説明しても大丈夫そうだね。」
ミウルはそう言って、春樹の同意を得ることなく、現在の状況を説明し始めた。
「と、言ったところかな。」
法陣の訓練をしていたこと。
訓練で気を失い、館へ運ばれたこと。
目を覚ますと、使用人が殺されていたこと。
刺客に鉢合わせたこと。
春樹自身が、刺客を撃退したこと。
ミウルは、春樹が理解しやすいように、丁寧に説明していった。春樹はそれを全て聞いた後、大きくため息をつく。
「このまま、死ぬのか?俺は。」
自分でも、なぜここまで冷静なのかよくわからないが、率直にミウルに尋ねる。
「君は、死を受け入れつつあるんだね…」
急にミウルに言われて、春樹は少し驚いたように目を見開いた。
しかし、その言葉は当たっている。
この世界に来てから、いろいろなことがあったが、そもそも自分は"死"を受け入れていなかった。だから、命を狙われていると聞けば、理不尽だと憤慨した。
だが、それは現世界での認識であって、この世界は、別の世界だ。
全てが現世界とは違う。
全ての考え方が違う。
それがたとえ、命であってもだ。
「自分だけは死なないなんてのは、傲慢だってこと、理解したよ。」
春樹はミウルにそう告げる。
それを聞いたミウルは、ニヤリと笑って、
「良いね。その考え方。嫌いじゃないよ。しかしねぇ、君がこのまま死ぬのを、黙って見ている訳にも、いかないんだなぁ~。」
と言って、額に手を当てて天を仰ぐ。そんなミウルに春樹は訝しげな顔をして、
「どういう意味だ。まるでお前が俺を助けられるみたいな言い方だな…」
「んー、正確には"僕が"ではないんだけど。半分あたりかなぁ。」
チッチッチッと指を振って、ミウルはウインクをする。
「君は、自分で生き延びるのさ。僕の力でなく、自分の力でね。」
ビシッと春樹を指差し、ミウルは物申すといったような仕草をする。春樹は理解できないといった顔で、ミウルを見つめている。
「だ~か~ら、そんな目でみつめるなよぅ。恥ずかしいじゃないかぁ。」
再び話を濁そうとするミウルに、春樹は促すように、
「ふざけるのはもういいから、話を続けてくれ。」
そう冷静に告げる。
「…そうかい?残念だなぁ。でもまぁ、確かにふざけてる時間もあまりないか。」
「…どういう意味だ。」
「いやさぁ、君の肉体はこうしている間にも、"死"と向き合ってるわけだよ。ここは君の心、深層心理の中だよ?そろそろ影響が出てくるはず…」
ミウルはそう言うと、何かを見つけたように、春樹の後方へと視線を向け、帽子を被り直して、
「ほうら、来たよ。」
と告げる。
春樹は「何いってんだこいつ」と言うように、ミウルを一瞥し、後方へと向き直り、その目を疑った。
ここは元々、暗闇の空間である。
春樹とミウルには、何故かスポットライトが当てられているが、それ以外周りには深淵が広がっている。しかし、その深淵よりも、濃い、濃ゆい闇が、視線の先から、こちらに向かって伸びてきているのが見える。
「なっ、なんだあれ!」
「驚くことはないよ。"あれ"は君の中に訪れた"死"だよ。」
「しっ、死だって?」
春樹はじっとその闇を見据える。
轟々と静かに蠢めいている闇。
触れれば、命を吸い取らてしまいそうなくらい、悍ましい様子でこちらへと、ゆっくり手を伸ばしてくる。
「目を逸らすなよ。周りの闇よりも、中にいる奴の方が、厄介だから。」
春樹は、ミウルの言葉に耳を傾けつつ、闇から目を逸らせず、生唾を飲み込む。
闇との距離が徐々に縮まり、10m程のところまで来たところで、闇の歩みが止まった。
そして、中から1人の人間が姿を現す。
真っ黒な外套と同色の装束。
三つ編みの赤毛。
幼さを象徴するようなそばかす。
そして、忘れもしないその眼。
おっとりとした優しさの中に潜む、ドス黒い闇に染まった視線。
その女は、両手には小さな斧を待ち、静かに笑みを浮かべて立っている。
春樹の鼓動が、無意識に早くなる。
(あいつだ…何故ここにいる…)
額や背中、ありとあらゆる場所から汗が噴き出していく。息苦しさを感じる。まるで、喉が張りついたように、言葉を発することができない。
ミウルは、そんな春樹に後ろから近づいて、耳元に顔を近づけ、囁くように告げる。
「あれはね、君の"死"に対する恐怖が生んだ死の象徴さ。あれを克服できなければ、君は死ぬのさ。」
「…俺の中の…死の…象徴…」
「そうさ。"あれ"はここでも、君を殺しにくるよ。君はそれを防いで、あいつを倒さないといけない。とは言っても、君だけなら、ほとんど勝ち目はないと思うよぉ。」
「……。半分当たりってのは、そう言うことか。これから…どうすればいい?」
「君は本当に理解が早いなぁ。そういうところ、本当に気に入ってるんだよ。ハハ。」
ミウルはそう言って春樹の横に立ち、持っていた杖をカツンっと地面に打ちつける。
こちらを笑顔で見据えている、その女に視線を向け、
「僕の魔氣を分けてあげるから、"あれ"を自分で戦って、倒しなさい。」
今まで聞いたこともないような力強い声で
、春樹へと檄を飛ばした。
その瞬間、闇の中に佇んでいた女が、春樹に向かって突進してくる。
「ちょっ、そんな急に言われても!」
向かってくる女に対して、ワタワタなっている春樹に、ミウルは静かに告げる。
「想像するんだよ。得意だろ?」
その言葉を聞いて、春樹はグッと目を閉じて、相手の攻撃をどう耐えるのか想像する。
そんな春樹に対し、何の躊躇もなく、女は斧を振り下ろす。
斧が春樹に当たる寸前ーーー
ガキンっと大きな音が響き渡る。春樹が恐る恐る目を開けると、笑ったままの女の顔が目の前にあり、春樹の顔との間に、薄い緑色の障壁が存在していた。
女から繰り出された斧は、その障壁に防がれ、ギリギリと音を立てている。
女の顔に釘付けになっていた春樹は、自分の両手が何かを握っている感触に気づき、目を向ける。
「たっ、短剣?」
綺麗な刃文をもつ真っ黒な刃。
独特な黒い光沢からは、妖艶さを漂わせている。
どこかで見たことがある短剣が手には握られている。しかも二刀も。
「…どんな想像をしたんだい?」
ミウルは少し驚いたように、春樹は声をかける。
「…いや、こいつの攻撃を防ぐことと、あの斧に負けない武器って。」
「それだけ?」
「それだけ…」
その言葉を聞いて、ミウルは額に手を当てて天を仰いだ。
「君ってやつは、どこまで規格外。まぁ、僕の魔氣の影響もあるか。とはいえ、そんな単純な想像で、そこまで具現化できるなんて、普通はあり得ないんだよ。」
ミウルの言葉に、春樹は呆けた顔をしたままだ。
「…まぁそのことは、今は置いといて。目の前のこいつを、倒すことに専念しようか。」
ミウルに同意して、障壁のことなどお構いなしに、斧を何度も打ち付けている女に視線を向ける。
「今度はお前の好きにはさせない。」
春樹は勇気を振り絞って、女に声をかけると、女は振り上げる斧を止め、春樹に向かって、笑顔を向ける。
その笑顔が、徐々に醜悪な笑みに変わり、目の色も赤と黒に変わっていく。
人の皮を被った化け物のような様相に、春樹は一瞬怯むも、頭を振って気合を入れ直す。
女は後ろへと一旦退いて、体制を立て直すと、唇を一回り舌舐めずりする。
春樹はその様子を伺いつつ、二刀の短剣を構える。
「ハハハ、様になってるじゃないか。」
ミウルの野次も聞こえないほど、春樹は集中して思考を巡らせる。いつのまにか障壁は消えていた。
(斧はどこにくる。あいつの動きを思い出せ。)
女はニタニタ笑いつつ、1本の斧をクルクルと上に投げ、キャッチを繰り返し始めた。
(こいつとの出会い…一撃目は腹だった…。だが、死に1番近い場所は、そこじゃない…)
女はまだ斧を放ってはキャッチを繰り返している。
(…メイド、エマさんは首を切られていた…。首…一撃で殺せるところ…)
その考えが頭をよぎった瞬間だった。女は斧をキャッチするとともに、春樹に向かって一直線で、突進してきた。
「でぇぇぇい!どうにでもなれだぁぁぁ!」
そう言って、春樹は女を迎え撃つのであった。
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―
酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。
でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。
女神に導かれ、空の海を旅する青年。
特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。
絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。
それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。
彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。
――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。
その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。
これは、ただの俺の旅の物語。
『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる