Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

文字の大きさ
28 / 50
第二章 秋人の場合

絶望編 1-5 地獄の始まり

しおりを挟む
館にきて、1週間ほどが過ぎただろうか。
この世界では、時間という概念が曖昧である。時計などないため、秋人は腹時計で大体の時間を把握していた。

この数日は、朝、目が覚めると、相変わらず無愛想な老婆が、朝食を運んできて、秋人が食べ終えると、食器を片付けにくる。これを昼も夜も繰り返すだけ。

呼び鈴を鳴らせば、小太りの禿げた執事がやってきて、お願いしたことにすぐ対応してくれた。しかし、無愛想な態度はこちらも同じだ。

何度かテトラに会いたいと伝えてみたが、全て彼女は忙しいと断られた。

何が言いたいのかと問われれば、一言だけ言わせてほしい。


「暇だ!」


秋人は、ベッドの上に背中から倒れ込む。大きくもないシャンデリアが、いつもと同じように、煌びやかに輝いている。
窓に目を向ければ、オレンジの太陽が山に顔を隠しつつある。

また、1日が終わろうとしている。


「異世界の生活も、想像していたのと全然違うなぁ。」


ため息を吐き出して、不満を口にする。
自分には特別な能力があるとか、魔王を倒すように王様にお願いされるとか、はたまた、可愛らしい女の子と、一つ屋根の下で暮らし始めるとか。

ラノベで読んできたものとは、おおよそ違う待遇に、秋人は少し嫌気が差しつつあった。


「テトラ…さん、だっけか。」


天井を見ながら、あの少女のことを思い出す。
天使のような微笑み、慈愛に包まれた声、可愛らしさの中に大人っぽさが同居していて、少し妖艶な雰囲気。黒いドレスの中からは、女性らしさを感じさせる線の細さと、それとは裏腹に強調されている膨らみ。
それらを一つ一つ思い浮かべながら、秋人はあり得もしない妄想に精を尽くす。

ある意味では、可憐な少女と一つ屋根の下か。そんな考えを浮かべていると、

バタンっ!

急に扉が開いて、秋人はベッドの上で飛び上がった。
何事かと入り口に目を向けると、小太りの執事が立っている。そして、中に入ってくるや否や、秋人の腕を掴んで、部屋から連れ出そうとする。いきなりのことで、秋人は訳がわからず抵抗するが、執事の力の強さは尋常ではなく、そのまま引き摺られるように、薄暗い廊下に連れ出されてしまった。

すると、部屋の前には、テトラと老婆の執事が立っている。


「テッ、テトラさん!これは一体!?」


そんな秋人を見下ろして、テトラはニコリと微笑み、小太りの執事に向かって、何かをつげる。
その言葉は、秋人が最初に出会った門番たちと同様で、理解できなかったが、何かを言われた執事は、秋人を掴んでいた手を離して、テトラの後ろへと回り込んだ。


「ごめんなさいね。執事たちは、あなたの言葉があまりわからないから、このような扱いになってしまったの。彼にはちゃんと言っておいたから安心して。」


自分を見つめる秋人に、そう優しく告げる。そして、話を続ける。


「秋人にお願いがあるの。秋人にしかできないお願いが…」


少し哀しげにも聞こえる声色で、秋人へと嘆願するテトラは、下を向いていて表情はよく見えなかった。
だが、助けてくれた人が、自分を頼ってくれることに悪い気はしない。自分にできることならばと思い、立ち上がってテトラに告げる。


「自分にできることなら、何でもしますよ!」


強い意志を持って、そう告げる秋人に、テトラは顔を上げて、再び微笑んだ。


「ありがとう。」


その笑顔はこれまでのものに比べても、秋人の心を奪うのに十分なものであった。秋人は顔を赤らめながら、


「で、俺は何をすればいいのかな?」


そう問いかける。

テトラは、後ろの2人の執事に視線を送ると、コクリと頷いて2人は廊下の暗闇に消えていく。

そして、


「私についてきていただけますか?」


秋人はそれに頷いた。


~~~~~~~~~


テトラとともに、秋人は地下へと続く長い螺旋階段を降りている。等間隔に備え付けられた蝋燭が、薄暗い階段を照らしており、テトラの持つ灯籠が揺れる度に、2人の影が大小に変化する。

石造りであるためか、所々隙間があり、そこから流れてくる風が、秋人の肌に突き刺さる。吐き出す言葉も白く凍りついていくようだ。


「テッ、テトラさん、寒くないんですか?」


少し歯を鳴らしながら、秋人が問いかけると、


「もう少し辛抱してくださいね。あと少しで着きますから。」


振り向かずにそう告げる。
秋人は体をさすりながら、テトラの後に続いていく。すると、階段の終わりが見え、扉が現れた。
扉は少しだけ開いていて、明かりが漏れ出している。

一体何の部屋なのだろうか。
ここにくるまでに、テトラからはお願いの内容を全く聞かされていない。ついて来ればわかるとだけ言われていた。

扉を開けて中に入るテトラに続いて、秋人が部屋に入ると、先ほどまで姿を見せなかった、2人の執事が部屋の中に立っている。しかも、真っ白なエプロンと帽子、マスクまでしている。

その2人が立つ場所から、少し奥に目を向けると、シーツがかけられた腰の高さほどある台が、天井から吊るされたランプの灯りに、煌々と照らされて、ポツンと佇んでいる。その光景に秋人は思わず、手術室を連想してしまった。


「テトラさん…この部屋って…」

「フフッ、わかります?貴方のために造らせたんです。喜んでいただけますか?」


相変わらず、可愛らしい笑顔で微笑むテトラだが、今回ばかりはそれが逆に不気味さを醸し出していて、秋人は顔を引き攣らせた。

背筋に、冷たいものが流れるのを感じる。
理由はわからないが、本能がやばいと告げていて、それはあながち、間違いではないだろう。


「テトラさん…お願いって、まさか…」


引き攣った表情のまま、秋人はテトラに向き直り、問いかける。


「はい。ここで貴方の体の中を、弄らせて欲しいのです。」

「え?!!!」


テトラの狂気は、秋人の想像の遥先をいっていた。体中から汗が吹き出てくるのがわかる。テトラが言っている意味が理解できず、どう答えていいのか、秋人は真剣に考える。


「でっ、でも、体の中を弄られたら、おっ、俺、死んじゃいますよ!ねっ!そうでしょ?」


なんとか言葉を捻り出して、秋人は引き攣った顔で笑顔を見せる。人は恐怖を感じると、心理的にそれを認識し、回避しようとするために笑ってしまうと、何かの本で読んだことがある。

そんな秋人に対して、テトラは笑顔のままこう答えた。


「心配しないで。ここにいる二人が、全力でサポートします。痛みは感じさせないし、輸血も行いながらやるので、死ぬことはありません。」

「いっ、いや。そういうことではなくて…」


狂ってるーーー

秋人はそう感じた。
笑顔で好奇心の視線を向けてくるテトラ。
まるで、カエルを見つけた子供のように、目をキラキラさせている。
後ろにいる執事たちも、マスクで口元は見えないが、明らかに笑っているのがわかる。

秋人は無意識に後ずさる。
逃げなければと、本能が告げている。
ジリジリと、地面に足の裏を這わせて、入ってきた入口へと背中の神経を集中させる。

そんな秋人に、3人は笑顔を向けたまま、動かない。そして、秋人がタイミングを見計らって、後ろを振り向こうとしたとき、テトラが笑顔のまま首を傾げるのを、視界に捉えた。

そして…


「ぐえっ!」


気づくと、うつ伏せに倒され、手は後ろで抑えられていた。顔を上げると小太りの執事が、目の前で開いていたドアをゆっくり閉めながら、秋人を見て笑っていた。


「嫌だ!はっ、離せって!やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」


地下室に秋人の声が響き渡る。
しかし、その声は他の誰の耳にも届くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...