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破章の壱 How to Stop Worrying and Start Living

17ターン目/新世界の片隅で

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 ◆◆◆

「…………よかったんかいな、グリフィン?」
 ベンチに座ったハッカイが、気を遣って問いかける。

 ワールドセントラルタワーの城下町。
 セントラルシティ。

 そこは最早西洋ファンタジーには似つかわしくない現代的高層ビル群が聳え立ち、行き交う人々もまた現代人のようなスーツや衣服を身に付けている。
 道路には自動車をはじめとする文明の利器が走る一方、乗り物代わりに使役される中型の魔物や土木工事用に運用される巨大な魔物の姿も散見される。

 この世界には、【魔導器まどうき】と呼ばれる超古代文明の遺産が存在する。
 いわば魔力を動力源とする機械装置。
 この世界の住人をはじめ、植物や海、大地などの自然物にも魔力は宿っている。
 それらを引き出し、運用するのが【魔導器まどうき】である。
 
 魔法の習得が、専門的あるいは学術的訓練、または修行が必要なのに対して、

魔導器まどうき】はそれらを一切省略し、誰でも魔法を使えるようにする代物だ。
 但し、【魔導器まどうき】は希少であり、一般大衆にあまり知られているものではなかった。

 これに着目したブラックCEOは、掌握した世界を総動員して【魔導器まどうき】の発掘と量産化、開発や応用を展開していき、瞬く間に文明の近代化に成功する。

 その様相は、
 まさに我々の知る現代日本/東京を彷彿とさせるものだ。

 ハッカイとグリフィンは、そんな都会のド真ん中にある自然豊かな公園のベンチにて、別れのときを過ごしていた。

「えぇ、私は別段皆さんみたいに使命や生きざまがあって冒険者をやっていたワケではありませんから」
 グリフィンは苦笑しながら、答える。
 彼は結局、ブラックCEOの申し出を断ったのだった。
「妻の病気を治療する一心で医療魔法を学び、彼女が失くなってからはその杵柄きねづかで今まで冒険者をやっていたんです。なんとなく、流れなんですよ」
 グリフィンは、すでに冒険者としての引退を決意していた。

「せやかて、時代は変わったんや。ホグワーツの爺さんはともかく、わいら三人にとって悪い話じゃなかったろう? 
 魔王討伐に就いてたんやって、大層な大義があったワケやない。
 ただ条件が良くて、わいらにそれに応えられるだけの実力が備わってた。それだけの話やんけ」

「ありがとうございます。
 でも、どのみち決めてたんですよ。
【勇者パーティー】に所属したとき、この旅が終わったら、故郷に帰って静かに暮らそうって。結果は想像以上の事態になりましたが、それでも私の決意は揺るぎません」

「………そうか」
 ハッカイはやれやれと肩をすくめる。
「おまえの医療魔法にはえらい助けられたからな。これからも一緒にやってけると心強かったんやけども、しゃーない。
 ――――おおきにな、グリフィン」
 そう言って、ハッカイは聳え立つ目の前の高層ビルを寂しそうに見上げる。
 まさに目の前の光景が、世界の変革を物語っていた。
 それは時代の変革。
 そして、個人の変革。
「これで、【勇者パーティー】も解散か………」
 ふと、ため息が溢れた。

 ◆◆◆

 かくして、グリフィンは故郷に帰っていった。
 かつての北極軍事大国/イヴァンは、エリア・イヴァンと名を変えていた。
 都市開発が進み、機械的かつ近代的な街並みに変容こそしていたものの、真っ白な雪景色は未だ色褪せることはなかった。

 彼は片田舎で小さな診療所をはじめ、慎ましくも穏やかな生活を送っていた。
 かつて【勇者パーティー】に所属していたという肩書きは、風の噂で流れているようで、度々遠方より患者が来訪し、診察を懇願されることも少なくはなかった。

 新しい時代。
 新しい世界。
 新しい固定観念ステレオタイプ

 時の経過の中で、自分らしい新たな生き方を見つけつつある。

 ―――

「………お久しぶりです、グリフィンさん。助けてくれませんか!」
 とある日の晩。閉院後の訪問者は、かつてのペンドラゴン王国【外交旅団】をはじめ、【連合軍】でも苦楽を共にしたペンドラゴン王国/元騎士団長。
 そして、その腕の中に血塗れで蹲っていたのは他でもない。

「―――――エルザ姫!?」
 グリフィンは、驚愕を露にする。


 


 
 
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