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破章の壱 How to Stop Worrying and Start Living

22ターン目/マンドラゴラ

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 エルザ姫たちとの再会から一週間が経過した頃、事態は急変する。

 グリフィンの診療所を監視していた【解放戦線レジスタンス】の諜報員たちが忽然と消息を絶つ。
 町には、【強制解決ソリューションズ】の市街警備員シティガードたちが明らかに増員し、物々しく自動小銃を手に警邏に回る。
 また、彼等に付き従う魔物の姿も見受けられた。
 
「囲まれています」
 元騎士団長が警告する。
 部下たちに警戒体制を通達し、すでに総員配置済み。

「ここは危険だ。すぐに移動の準備を」
 グリフィンは久方ぶりに杖を取る。
 戦闘の予兆。久しぶりの感覚に武者震い。

「【解放戦線レジスタンス】の各方面の人脈パイプラインは差し押さえられている可能性があります。私の大学時代の友人が外交官をやっていて、現政権に懐疑的な姿勢を持っています。彼に協力を仰ぎましょう」

 グリフィンの申し出を、エルザ姫たちは受け入れる。
 かくして、彼等は【強制解決ソリューションズ】が敷く包囲網からの脱出を決行する。

 ◆◆◆

 囮として、影武者を搭乗させた車を市街地に走らせる。
 その間に本物のエルザ姫一行は、森林地帯を馬に乗って駆け抜けていた。
 舗装道路をはじめとする人工的な手入れが施された陸路では、【強制解決ソリューションズ】が押さえている可能性があるため、獣道同然の閑道を使い、迂回する。
 急速な文明の発達により、現代的となった彼等の世界だが、まだまだその年月は浅く、未だに中世的な文化に触れると、存外身体がまだまだそのときの名残を覚えていることに彼等自身驚嘆した。
 慣れない雪の林道ということもあり、一抹の不安はあったものの、しかし彼等は外交旅団や連合軍に従事した謂わば皆、冒険者。
 これまでの経験則と培われた勘が、【解放戦線レジスタンス】一行に地元民顔負けの乗馬スキルを発現させる。

「見事な手綱裁きですね、エルザ姫!」
 グリフィンは、白く染まった針葉樹群を掛けながら賞賛する。

「昔、外交中に披露したことなかったかしら?お姫様はお城に籠るだけが仕事でなくってよ」
 エルザ姫は、逃亡中とはいえ乗馬を楽しんでいるようで、少し高揚した様子で返答する。

「懐かしいですね。幼き日の姫様は乗馬を覚えるなり、ペンドラゴン騎士団の軍馬に乗ってよく城下町に無断で飛び出していきました。
 ………国王陛下や大臣によくどやされたものです」
 元騎士団長がしみじみと語る。

「お転婆だったんですね」
 グリフィンが柔和に微笑む。

「ええ、とても」
「ちょっと!昔の話はよしてよ、団長っ!」
 エルザ姫の狼狽に、一行は和やかに笑った。

 ◆◆◆

 異変は、道中の休憩中に起こった。
 出立の時間になっても、11人中2名が馬と荷物を残して、忽然と姿を消したのだ。
 
「総員、警戒しろ。………尾行つけられている!」
 元騎士団長の一言で、現場に緊張感が張りつめる。
 
 刹那、彼等の陣形。
 その中心地点にが投下され、ボテッと音を立てる。
 
 それは、50cm弱の大きさをした人型の植物。
 釣鐘状の花弁と赤い果実で構成され、その容貌はさながら埴輪ハニワのよう。
 この奇怪な植物は、名を“マンドラゴラ”という。

「――――みんな耳を塞いでっ!?」
 グリフィンが叫ぶ。

 それを皮切りにマンドラゴラ、絶叫。
 消魂けたたましい殺人的な奇声をあげ、大気を震撼させる。
 移動に使っていた馬たちがその騒音に驚き、一斉に散り散りになって逃げ出す。
 針葉樹や足元の雪が振動し、小刻みに崩れていく。その波動は【解放戦線レジスタンス】の脳や三半規管、内臓にまで浸透していき、眩暈や吐き気、突発的難聴、方向感覚の喪失などの“見当識の混乱”を引き起こす。
 
 さしずめ、閃光発音筒スタングレネード
 すなわち、を意味していた。

 
 
 
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