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第一章 Ride on Shooting Star

#7 真神正義

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 しかし、次の瞬間。
 セイギは右脚を大きく後方に開き、踏ん張りを効かしてその反動を堪えきる。
 そして、その瞳をカッと開き、パンチ頭の顔の位置を秒速で据えた。

 轟ッ。捻じ込むように撃ち放たれる渾身の右ストレート。

 パンチ頭は、大型トラックと衝突したかのような錯覚とともに、その意識を吹き飛ばす。ふわりと宙を舞い、よだれを散らしながら後方に回転。滑り込むよう地面にうつぶせになって、倒れ込む。
 一発KO。刹那の出来事に、周囲は理解が追い付かないまま戦慄する。
 あとには歩行者信号の『かっこう』だけが、シュールに鳴り響いている。

「おい、くそガキ」
 沸騰した鍋を蓋で押さえ込むように、兄貴分は感情を押し殺して、セイギの前に立ちはだかる。
「――― 本職の面子ツラァ汚しやがって。覚悟はできてんだろうな?」
 不意にセイギは囲まれる。
 それはパンチ頭や兄貴分と、

 極龍會の若衆たちだ。
 彼等は今にも噛みつきそうな勢いで、セイギひとりを威圧する。



 しかし、そんな状況に臆した様子もみせずに真神正義まがみせいぎが呟く。それは阿波踊りの一節。
 フォーチュンも極龍會も観衆もまた、彼の言葉の意図が読み取れず、一同に疑問符を浮かべる。
「おまえらこそカタギに手ェ出して……… ?」
 それは、挑発だった。

 瞬時にフォーチュンと観衆は血相を変える。
 一方チンピラ達は、みるみるうちに青筋をビキビキと立て、鬼気迫る表情で血眼を剥き出しにする。

「やっちまえぇーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
 怒り狂った兄貴分の号令。
 それを合図に、チンピラたちが一斉に襲い掛かる。

        ◆◆◆

「――― す、すごいですのっ」
 驚愕のあまりフォーチュンは言葉を失う。
 それは、凄まじい光景だった。

 容赦ないチンピラたちによる幾重の暴力。
 しかし、それらすべてをプロレスのように無防御ノーガードで受け止める真神正義まがみせいぎ
 しかも効かんと云わんばかりに驚異的な耐久力タフネスを見せつけ、終始チンピラ達を圧倒する。

 ラリアット。
 パイルドライバー。
 ジャーマンスープレックス。
 そして、ドロップキック。

 激闘の末、最後に立っていたのは真神正義まがみせいぎただひとり。その事実に周囲の観衆も一驚する。

「て、テメェ――― 」
 倒れたチンピラたちの中から、不意に立ち上がる影がひとつ。
 兄貴分だ。彼は全精神力を振り絞り、今にも飛んでしまいそうな意識をその身体に留めようと踏ん張りを見せつける。
 そして、兄貴分は懐に手を伸ばす。

「調子に乗んじゃ……… 」
 取り出されたのは、
 いわゆるオートマチックピストルだ。
「ねぇぇえええぇええぇぇーーーーーーッ」

 日本ではあまり馴染みのないその非現実な代物に対して、大衆の思考が追い付かない。

 そして、
 銃口は当然、真神正義まがみせいぎに向かって構えられている。

 しかし、セイギの瞳に恐怖や焦りといった感情は混濁せず、澄みきった覚悟だけが鋭利に輝いていた。

 刹那、銃を手にした兄貴分に向かって、セイギが疾駆する。

 真正面から、
 愚直なまでに、
 ただただまっすぐ、突き進む。

「――― あぶないっ」
 思わずフォーチュンは叫んだ。

 そして、行動に出る。
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