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第一章 Ride on Shooting Star
#9 ガイア理論
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数分後。
綺麗に完食された器が二つ、テーブルに仲良く並んでいた。
「改めまして。先程は危ないところを助けていただきありがとうございました、ですの」
ぺこりと、フォーチュンは一礼する。
「わたくし、名をフォーチュンと申しますですの」
「おれはセイギ。真神正義」
「正義――― 。ソークールっ!勇敢な貴方様にはピッタリなお名前なんですの」
「ありがとう。おれも気に入ってんだ、自分の名前。……… それにしても災難だったな。悪質なナンパに引っ掛かってよォ」
どうやらさっきの一悶着が、セイギにはそう見えていたらしい。
「フォーチュンきれいだかんな。しゃーない」
「はわわ…… 綺麗だなんて…… そ、そんな……… むきゅぅ~~っ」
容姿を褒められたのは、本日二度目。
フォーチュンは両手をほっぺにつけ、嬉しそうに頬を染める。
「日本語流暢だけどフォーチュン、外国の人だよな。何星人?」
「う、宇宙人になっちゃってるじゃないですかぁ~っ」
憤慨する彼女の様子に、セイギは面目なさそうに「スマン」と一言添える。
だが田舎者にとって、居住地外からの来訪者は誰であろうと別段大きな差異はない。
都会人だろうが外国人だろうが宇宙人だろうが、その差異は彼等にとっては些細な事であり、そのすべてが娯楽だからだ。
「コホン。えっと、わたくしはヨーロッパの宗教国家・ヴァチカン市国よりやって参りました」
「ばちかん四国?」
四国って外国にもあんだなぁ。
などとセイギは間違った認識を深めていく。
そんな勘違いも露知らず、フォーチュンは話を進行していく。
「ヴァチカン市国。
世界最小の宗教国家でイタリア共和国の首都・ローマの北西部に位置します。
元々ヴァティカヌスの丘と呼ばれていた聖地に教会を建てたことが始まりで、宗教組織【聖十字教】の宗派がひとつ、【中枢派】の総本山として発展を遂げてきました。
国家全体が世界遺産として登録されており、観光客でいつも賑わっているのです。
そしてなんと、国民のほとんどが聖職者なんですのっ」
「そりゃスゲー。四国とはえらい違いだ。そんじゃあフォーチュンもセーショクシャ?」
「はいな。わたくしは【星詠みの巫女】と呼ばれる聖職位階を仰せつかっておりますですの」
フォーチュンは、えっへんと胸を張る。
「ほしよみ?」
「一般の方々が連想するのは占星術や天文学でしょうか?
そういった学問も修めてはおりますが、わたくしが司る星は『ガイア』。
すなわち、わたくし達が住むこの地球を指しています」
「つまり、地球を詠むってのか?」
肯定。フォーチュンはコクリと頷く。
「1960年代、NASAに勤務されていた科学者ジェームズ・ラブロック氏はある科学的考察を立てました。
その名は、『ガイア理論』。
生物と環境の間には相互作用が存在し、地球の内部環境を一定に保とうとする明らかな『恒常性』が見られます。
それは血液や細胞が人体を構成するように、多数の個体群から形成された『超個体』。
つまるところ、地球があたかも『ひとつの生命体』であるかのような自己調整システムを備えていると提唱したのです。
これらは現在、地球生理学や地球システム科学と呼ばれ、生態学の一つとして論議されています。
星詠みの巫女は古来より、この地球総体の意思・地球の化身と対話することで自然との調和を司り、人々を正しき方向へ導くお手伝いをさせていただいているんですのっ」
「――― ってことはフォーチュン、地球と喋れんのか?」
「有り体に云えば。ただ、まだまだ未熟で…… 。地球の化身からの呼び出しがないと交信が出来ないんですけど……… 」
「なるほど、そりゃあたまげた。『すぴりちゅある』っちゅーやつだな」
然もありなんと云った様子で、セイギは感慨深そうにウンウンと何度も頷く。
常識的に考えればかなり眉唾な話だが、信心深い四国という風土のせいか。将又セイギのお頭が残念なせいなのか。
とにかく、会話は議論の余地なく進んでいく。
良い子は絶対に真似をしちゃあダメだぞ!
「『すぴりちゅある』っていやぁ、さっきの……… 」
先刻。チンピラ達との喧嘩の際に、フォーチュンが放った光の玉・妖精彗星をセイギは想起する。
「――― ビーム」
突拍子のない台詞に、彼女はキョトンとする。
「フォーチュンが撃ったあの妖精彗星。……… あれも『すぴりちゅある』なんか?」
フォーチュンは、
セイギの発した『言葉の文意』を咀嚼して、それに応じた解説を始める。
綺麗に完食された器が二つ、テーブルに仲良く並んでいた。
「改めまして。先程は危ないところを助けていただきありがとうございました、ですの」
ぺこりと、フォーチュンは一礼する。
「わたくし、名をフォーチュンと申しますですの」
「おれはセイギ。真神正義」
「正義――― 。ソークールっ!勇敢な貴方様にはピッタリなお名前なんですの」
「ありがとう。おれも気に入ってんだ、自分の名前。……… それにしても災難だったな。悪質なナンパに引っ掛かってよォ」
どうやらさっきの一悶着が、セイギにはそう見えていたらしい。
「フォーチュンきれいだかんな。しゃーない」
「はわわ…… 綺麗だなんて…… そ、そんな……… むきゅぅ~~っ」
容姿を褒められたのは、本日二度目。
フォーチュンは両手をほっぺにつけ、嬉しそうに頬を染める。
「日本語流暢だけどフォーチュン、外国の人だよな。何星人?」
「う、宇宙人になっちゃってるじゃないですかぁ~っ」
憤慨する彼女の様子に、セイギは面目なさそうに「スマン」と一言添える。
だが田舎者にとって、居住地外からの来訪者は誰であろうと別段大きな差異はない。
都会人だろうが外国人だろうが宇宙人だろうが、その差異は彼等にとっては些細な事であり、そのすべてが娯楽だからだ。
「コホン。えっと、わたくしはヨーロッパの宗教国家・ヴァチカン市国よりやって参りました」
「ばちかん四国?」
四国って外国にもあんだなぁ。
などとセイギは間違った認識を深めていく。
そんな勘違いも露知らず、フォーチュンは話を進行していく。
「ヴァチカン市国。
世界最小の宗教国家でイタリア共和国の首都・ローマの北西部に位置します。
元々ヴァティカヌスの丘と呼ばれていた聖地に教会を建てたことが始まりで、宗教組織【聖十字教】の宗派がひとつ、【中枢派】の総本山として発展を遂げてきました。
国家全体が世界遺産として登録されており、観光客でいつも賑わっているのです。
そしてなんと、国民のほとんどが聖職者なんですのっ」
「そりゃスゲー。四国とはえらい違いだ。そんじゃあフォーチュンもセーショクシャ?」
「はいな。わたくしは【星詠みの巫女】と呼ばれる聖職位階を仰せつかっておりますですの」
フォーチュンは、えっへんと胸を張る。
「ほしよみ?」
「一般の方々が連想するのは占星術や天文学でしょうか?
そういった学問も修めてはおりますが、わたくしが司る星は『ガイア』。
すなわち、わたくし達が住むこの地球を指しています」
「つまり、地球を詠むってのか?」
肯定。フォーチュンはコクリと頷く。
「1960年代、NASAに勤務されていた科学者ジェームズ・ラブロック氏はある科学的考察を立てました。
その名は、『ガイア理論』。
生物と環境の間には相互作用が存在し、地球の内部環境を一定に保とうとする明らかな『恒常性』が見られます。
それは血液や細胞が人体を構成するように、多数の個体群から形成された『超個体』。
つまるところ、地球があたかも『ひとつの生命体』であるかのような自己調整システムを備えていると提唱したのです。
これらは現在、地球生理学や地球システム科学と呼ばれ、生態学の一つとして論議されています。
星詠みの巫女は古来より、この地球総体の意思・地球の化身と対話することで自然との調和を司り、人々を正しき方向へ導くお手伝いをさせていただいているんですのっ」
「――― ってことはフォーチュン、地球と喋れんのか?」
「有り体に云えば。ただ、まだまだ未熟で…… 。地球の化身からの呼び出しがないと交信が出来ないんですけど……… 」
「なるほど、そりゃあたまげた。『すぴりちゅある』っちゅーやつだな」
然もありなんと云った様子で、セイギは感慨深そうにウンウンと何度も頷く。
常識的に考えればかなり眉唾な話だが、信心深い四国という風土のせいか。将又セイギのお頭が残念なせいなのか。
とにかく、会話は議論の余地なく進んでいく。
良い子は絶対に真似をしちゃあダメだぞ!
「『すぴりちゅある』っていやぁ、さっきの……… 」
先刻。チンピラ達との喧嘩の際に、フォーチュンが放った光の玉・妖精彗星をセイギは想起する。
「――― ビーム」
突拍子のない台詞に、彼女はキョトンとする。
「フォーチュンが撃ったあの妖精彗星。……… あれも『すぴりちゅある』なんか?」
フォーチュンは、
セイギの発した『言葉の文意』を咀嚼して、それに応じた解説を始める。
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