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第一章 Ride on Shooting Star
#11 黒十字
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「救世者。世界を救う者。
旧世界末期に勃発した神々の大戦・【終焉神戰】を生き延び、唯一神として君臨した契約を司る神・テスタメント。
かの存在が聖十字教の前身・旧十字教の始祖エイブラハブに神託を下した未だ不明瞭な存在。
世界の終わり・【最期の審判】に出現し、人々を千年王国に導くという。
僕は存在の否定派でしたけど、星詠みの巫女が動いたってことは存在するんですね、救世者」
徳島市内のシティホテル。その一室。
リヒト=モルゲンシュテルンはお風呂上がり。
剥き出しの白い肉体はバッキバキに鍛えあげられており、滑らかな肌質に相反した岩のような凹凸を、その肢体に内包させていた。
そして、彼の背には大きなタトゥー。
刻まれるは、黄金のケルト十字だ。
「てゆーか、
そもそも救世者って唯一神が作った概念なのに、
別の神格である地球の化身がその名を謡い出すって、
聖十字教の世界観設定大丈夫ですか?」
スマホを手に、リヒト=モルゲンシュテルンは苦笑する。
ただいま電話中。宛先は非通知だ。
『フン、伝説は伝説だからこそ価値が有る。
偶像崇拝。有象無象を一つに統合するならば、これほど便利なツールは存在しない。
己の内に見出だした八百万神が皆同一の者と錯覚させることで、愚かな民衆は初めて足並みを揃えることができるのだ。
肉塊を得た伝説なぞ、乱世を呼ぶ俗世の王となんら変わりはしない』
老獪な声。リヒトの嘲りを一蹴し、その持論を展開する。
「嬉しくないのですか?
あなた方、聖十字教にとって救世者は信仰対象そのもの。
かつて世界を席巻した神聖ローマ帝国。
歴代の王の中でも最も悪名高い人類史上最悪の暴君にして、聖十字教の天敵。
【ルキウス=ネロ=クラウディウス】。
またの名を、神殺し。その由来は、唯一神を殺害したことに起因する。
かの王に反旗を翻し、激闘の末に処刑された旧十字教の最終英雄・救世者。
その恋仲だった当時別宗教の導き手・星詠みの巫女が、救世者の仇を討つために多数の勢力を率いて蜂起したことが、聖十字教誕生のキッカケとなりました。
神仏習合。唯一神の座には、地球の化身がすげ替わり、救世者は現人神へと神格化。
救世者再来は聖十字教最大の宿願であり、あなた方の信仰が今、報われようとしているのに。
それこそ、聖十字教の教えに背く行為なのでは?」
『神はすべてを見通し、すべてを赦される』
「?」
『すなわち、神とは空虚なのだ。
だがそれでは愚かな民衆は理解できまい。
導きには形容が必要だ。
そのための偶像崇拝。
私は信仰の担い手として今、試されている。その在り方を問われているのだ』
「だから星詠みの巫女を殺す?」
『世界とは正しくあらねばならない。
正しさとは、美徳や倫理を指すのではない。
秩序を指すのだ。
世界という総体が円滑に機能するための流転。
星詠みの巫女という遺物はその性質と歴史故に肥え過ぎた。
もはや飽和した人類の手には持て余す代物だ。
その落とし児・救世者もまた必ずやこの人の世に混乱をもたらすであろう。
今こそ歯止めを掛けなければならない。
すべては、この世界の秩序のために』
「あなた方【改革派】の描く秩序のために、ね。でもいいんですか?
……… 救世者が現れなかったら世界、ほんとに終わっちゃうかもしれませんよ?」
『是非もない。それは回帰だ。
すべては色即是空。
神が空虚ならば、世界もまた空虚に帰るべきなのだ。
最期の審判とは、その過程。
全人類は終焉の間際でこそ、ひとつになれる。
審判の時こそ、皆垣根を越え、祈りを捧げて心をひとつにする。
その奇跡。すべての当事者たちこそが次代の救世者。そう私は解釈している』
「相変わらずの厭世観ぶりですね、
ギンヌンガガプ枢機卿。
それはアナタの願望でしょうに」
リヒトはやれやれと嘲笑する。
「まぁ、いいでしょう。
事情はすべてわかりました。
あなたとも長い。
特急列車で彼女に御逢いしたときはたいへん驚きましたが、その悪逆承けさせてもらいますよ。
世界の寵愛を授かりし、
星詠みの巫女の抹殺。
自由という名の十字架を背負う。
この【黒十字 】がね」
『そう謂ってもらえると助かる。
救世者との接触も時間の問題だろう。早急に頼みたい。
―――― しかし、解せんな。
かつて貴様が世界に反旗を翻した大いなる争い。
【黙示録大戦】。
戦いに敗れ、中東に消えた筈の貴様が。
なぜ日本の、それも星詠みの巫女が神託を受けた予言の地にすでに潜伏している。
次はいったい何を企んでいるのだ?』
古老の教父・ギンヌンガガプ枢機卿は不気味に嘲笑う。
黒十字・リヒト=モルゲンシュテルンもまた、その問いかけに薄く微笑みを浮かべる。
「それはもちろん、神様のお導きってヤツですよ」
旧世界末期に勃発した神々の大戦・【終焉神戰】を生き延び、唯一神として君臨した契約を司る神・テスタメント。
かの存在が聖十字教の前身・旧十字教の始祖エイブラハブに神託を下した未だ不明瞭な存在。
世界の終わり・【最期の審判】に出現し、人々を千年王国に導くという。
僕は存在の否定派でしたけど、星詠みの巫女が動いたってことは存在するんですね、救世者」
徳島市内のシティホテル。その一室。
リヒト=モルゲンシュテルンはお風呂上がり。
剥き出しの白い肉体はバッキバキに鍛えあげられており、滑らかな肌質に相反した岩のような凹凸を、その肢体に内包させていた。
そして、彼の背には大きなタトゥー。
刻まれるは、黄金のケルト十字だ。
「てゆーか、
そもそも救世者って唯一神が作った概念なのに、
別の神格である地球の化身がその名を謡い出すって、
聖十字教の世界観設定大丈夫ですか?」
スマホを手に、リヒト=モルゲンシュテルンは苦笑する。
ただいま電話中。宛先は非通知だ。
『フン、伝説は伝説だからこそ価値が有る。
偶像崇拝。有象無象を一つに統合するならば、これほど便利なツールは存在しない。
己の内に見出だした八百万神が皆同一の者と錯覚させることで、愚かな民衆は初めて足並みを揃えることができるのだ。
肉塊を得た伝説なぞ、乱世を呼ぶ俗世の王となんら変わりはしない』
老獪な声。リヒトの嘲りを一蹴し、その持論を展開する。
「嬉しくないのですか?
あなた方、聖十字教にとって救世者は信仰対象そのもの。
かつて世界を席巻した神聖ローマ帝国。
歴代の王の中でも最も悪名高い人類史上最悪の暴君にして、聖十字教の天敵。
【ルキウス=ネロ=クラウディウス】。
またの名を、神殺し。その由来は、唯一神を殺害したことに起因する。
かの王に反旗を翻し、激闘の末に処刑された旧十字教の最終英雄・救世者。
その恋仲だった当時別宗教の導き手・星詠みの巫女が、救世者の仇を討つために多数の勢力を率いて蜂起したことが、聖十字教誕生のキッカケとなりました。
神仏習合。唯一神の座には、地球の化身がすげ替わり、救世者は現人神へと神格化。
救世者再来は聖十字教最大の宿願であり、あなた方の信仰が今、報われようとしているのに。
それこそ、聖十字教の教えに背く行為なのでは?」
『神はすべてを見通し、すべてを赦される』
「?」
『すなわち、神とは空虚なのだ。
だがそれでは愚かな民衆は理解できまい。
導きには形容が必要だ。
そのための偶像崇拝。
私は信仰の担い手として今、試されている。その在り方を問われているのだ』
「だから星詠みの巫女を殺す?」
『世界とは正しくあらねばならない。
正しさとは、美徳や倫理を指すのではない。
秩序を指すのだ。
世界という総体が円滑に機能するための流転。
星詠みの巫女という遺物はその性質と歴史故に肥え過ぎた。
もはや飽和した人類の手には持て余す代物だ。
その落とし児・救世者もまた必ずやこの人の世に混乱をもたらすであろう。
今こそ歯止めを掛けなければならない。
すべては、この世界の秩序のために』
「あなた方【改革派】の描く秩序のために、ね。でもいいんですか?
……… 救世者が現れなかったら世界、ほんとに終わっちゃうかもしれませんよ?」
『是非もない。それは回帰だ。
すべては色即是空。
神が空虚ならば、世界もまた空虚に帰るべきなのだ。
最期の審判とは、その過程。
全人類は終焉の間際でこそ、ひとつになれる。
審判の時こそ、皆垣根を越え、祈りを捧げて心をひとつにする。
その奇跡。すべての当事者たちこそが次代の救世者。そう私は解釈している』
「相変わらずの厭世観ぶりですね、
ギンヌンガガプ枢機卿。
それはアナタの願望でしょうに」
リヒトはやれやれと嘲笑する。
「まぁ、いいでしょう。
事情はすべてわかりました。
あなたとも長い。
特急列車で彼女に御逢いしたときはたいへん驚きましたが、その悪逆承けさせてもらいますよ。
世界の寵愛を授かりし、
星詠みの巫女の抹殺。
自由という名の十字架を背負う。
この【黒十字 】がね」
『そう謂ってもらえると助かる。
救世者との接触も時間の問題だろう。早急に頼みたい。
―――― しかし、解せんな。
かつて貴様が世界に反旗を翻した大いなる争い。
【黙示録大戦】。
戦いに敗れ、中東に消えた筈の貴様が。
なぜ日本の、それも星詠みの巫女が神託を受けた予言の地にすでに潜伏している。
次はいったい何を企んでいるのだ?』
古老の教父・ギンヌンガガプ枢機卿は不気味に嘲笑う。
黒十字・リヒト=モルゲンシュテルンもまた、その問いかけに薄く微笑みを浮かべる。
「それはもちろん、神様のお導きってヤツですよ」
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