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第六章 Blues Drive Monster

#51 二人の運命

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 死の女神・伊邪那美命なるせ なるみは語る。
 地球の化身ホメヲスタシスの目的は、だと。

 かつて地球は、暗黒の惑星だった。
 旧支配者、【大いなる混沌・バベル】。
 彼の者が支配するかつての死の惑星ちきゅうにある日、来訪者が現れる。

 それは、
【光の・ホメヲスタシス】。

 ホメヲスタシスとバベル。
 両者は、地球をめぐって対立。
 激闘の末、ホメヲスタシスが勝利する。

 かくして地球は、
 

 地球は、美しき生命の惑星へと変貌を遂げ、伊邪那美命いざなみのみことをはじめとする各神話の神々が創造されたという。

 しかし今度は、地球を欲した神々が、地球の化身ホメヲスタシスに反旗を翻す。
 戦いの果て。地球の化身ホメヲスタシスは肉体を失い、その精神は集合無意識アカシックレコード閉ざされた領域コミューンで眠りにつくことになる。

 やがて勝者となった神々は身内同士で泥沼の争いを繰り広げ、遂には旧世界末期の最終戦争・【終焉神戰ラグナロク】が勃発。
 地球上よりその姿を消してしまう。

 唯一の生き残り。
 契約を司る神・テスタメントだけを残して――― 。

 唯一神テスタメントは、創造主・ホメヲスタシスを越える存在を目指していた。

 そのために計画したのが、【三位一体さんみいったい】だ。



 これは、主体となる【唯一神テスタメント】。

 地球の化身ホメヲスタシスとバベルを除く、地球史上最も肉体が高次元な【世界蛇ヨルムンガンド】。

 そして、起源の成長が最大値に達カンストした螺旋の覚醒者・【救世者メシア】。

 これらが融合することで、新たなる高次元生命体へと進化する。

 しかし、唯一神テスタメントはその志半ばで、神聖ローマ帝国皇帝・ルキウスによって破壊され、救世者メシアもまた、螺旋の成長を待たずして処刑されてしまう。

 皇帝ルキウスに、権能・『神殺し』を与えたのは他でもない、地球の化身ホメヲスタシスである。

 権能けんのうとは、神々が行使していた力であり、集合無意識アカシックレコードより与えられる絶対遵守の力。

 永き眠りから目覚めた地球の化身ホメヲスタシスは、唯一神テスタメントが掌握していた集合無意識アカシックレコード不正侵入ハッキングする形で【三位一体】の全容を把握し、その計画奪取に乗り出したのだ。

 だが誤算により、皇帝ルキウスが救世者メシアを殺害。螺旋は地上より消失。

 さらに地球の意図的な運用に不可欠な権能・【集合無意識アカシックレコード管理者権限マスターアカウント】が、唯一神テスタメント破壊に伴い、破損。

 この影響により地球の化身ホメヲスタシスの弱体化は加速度的にさらに進行し、最早現世に復活するどころか、その機会を失ってしまう。

「ど、ドジっ子さん属性だったのですね、地球の化身ホメヲスタシス………」

「そんなこと言ったらアカンのじょ。これでもウチらの創造主なんやから」

 唯一残った『現世への交信能力』と『集合無意識アカシックレコードの閲覧能力』を駆使して、地球の化身ホメヲスタシスは歴代の星詠みの巫女を介して人類文明へ干渉。

 聖十字教H.C.A.を現在の組織力にまで育てあげ、現世への影響力を高めながら、精神世界スピリチュアル ではなく現実世界アナログ な方法で、復活の手立てを模索していた。

「そんで、今度は伊邪那美命ウチの出番ってわけ」

 彼女の目的もまた、現世への受肉。
 半年前よりはじまった、黒十字リベリオンによる四国八十八ヶ所への魔術的干渉。

 この行為により、四国と屍國しこくの境界線が薄まり、結果として半年前、成瀬鳴海なるせ なるみに眠る穢れた力・大神オオカミを媒介に、伊邪那美命いざなみのみことはこの世に受肉を果たした。

 だがそれは不完全であり、一時的なものだ。
 セイギと鳴海なるみの尽力により、伊邪那美命いざなみのみこと屍國しこくへと回帰したものの、結局神々の精神エネルギーの前に、人類の肉体は耐え切れない。

 ――― それは成瀬鳴海なるせ なるみの死によって、すでに証明済みだ。

 経験則として、この事実を学習した伊邪那美命いざなみのみことは、次の一手を打ち始める。

 それがつまり、【三位一体さんみいったい】。

 彼女が主体となって、救世者メシアならびに世界蛇ヨルムンガンドと合体する。

 四国八十八ヶ所の龍脈と化した世界蛇ヨルムンガンドは、黄泉の國を内包しており、屍國しこくそのものでもある伊邪那美命いざなみのみことと照応しているため、すでにお膳立ては整っている。

 問題は、螺旋の力。
 その『再現』と『成長』だ。
 だが奇しくも、その『再現』は彼女にとって実現可能範囲だった。

 螺旋とは、唯一神テスタメントが開発した唯一無二の起源である。

 集合無意識アカシックレコード内に点在する屍國しこくをはじめとした様々な既存の文化圏ステレオタイプ毎に形成された死者の世界。

 特に罪人がたどり着く『地獄』の要素を内包した閉ざされた領域コミューン

 それらすべてがたどり着く最奥の死の世界・【始原地獄タルタロス】。



 そこに眠る『とある存在』から取り出された力こそが、原料である。

 死の女神・伊邪那美命いざなみのみことは、自ら始原地獄タルタロスに赴き、これを入手。

 螺旋を精製し、その『再現』を成功させる。



 これを感知した地球の化身ホメヲスタシスはすぐさま神託を下し、フォーチュンを四国へと派遣。

 一方、伊邪那美命いざなみのみことは、自身を下した存在・真神正義まがみ せいぎに、その肉体に刻まれた『邪毒のろい』を通じて、螺旋の力を授けることにする。

 かくして。
 そんなが交錯して、物語は動き出したのだ。

「だから星詠みの巫女であるアナタと接する窓口案内コンシェルジュには、ウチが選ばれたってわけ。

 今のウチは、成瀬鳴海なるせ なるみであり伊邪那美命いざなみのみことでもある共存体。正確には日本国内における死霊たちの集合体にして死の世界そのもの。

 今、現出している成瀬鳴海うちはその筆頭者であり化身アバターってわけなんやけども……… 」

 そして残る課題はただひとつ、螺旋の成長。

 だがそれも、伊邪那美命いざなみのみことは強引な手口で達成クリアしようと目論んでいた。

。今の弱体化した地球の化身ホメヲスタシスなら、伊邪那美命うちらでも五分五分ごぶごぶでやっつけられそうやから。
 地球の化身ホメヲスタシスを吸収することで得られるそのリソースをすべて注いで、急速に螺旋を成熟させるの。だから――――」

 不意に、鳴海なるみの肉体がメキメキと音を立て歪に崩れていく。
 それは変化の前兆。まるで青虫が蝶に羽化するかのように、彼女は身体の構造を再構築し、異形へとその身を変容させていく。

 その面妖でグロテスクな出来事に、フォーチュンは顔を引きつらせ、息を飲む。

「あなたにはここで死んでもらうんじょ、星詠みの巫女 ――― 」
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