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第1章 女神と一般高校生
三話 『神器』と金髪の盗人少女
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「ぐす……っつ! うぅ、わあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ……!」
粘液まみれのおっさんに全身を余すことなく、どろどろにされたイルカ。
女神としての威厳も、女性としての尊厳も無くしてしまったイルカにかける言葉が見つからない。
「ねぇ!? どうして助けてくれなかったの! 私があれだけ必死にハルトに助けを求めていたっていうのにっ!」
「し、仕方ないだろ! あんな気持ち悪いおっさん集団に飛び込んでいけるほど、メンタル強くねぇわ!」
「あーもう最悪なんですけど! 粘液まみれで動きづらいし、しかもちょっと変な匂いもするし……」
その匂いが決して粘液だけの問題ではないことはイルカには黙っておこう。
事実を伝えたら、いよいよ卒倒するかもしれないからな。
「結局、ゲットできたのは『残り少ない毛根』だけか……念のため聞いておくが、このアイテムはどれくらいで売れるんだ?」
「この品質だったら、2000ゴルドくらいかしらね。『残り少ない毛根』が白色だったら、もうちょっと高値が付いたんだけど……」
「それでも、あと3000ゴルドは必要なのか」
おっさんたちの相手に手こずったせいで、時刻はすでに夕方を回っている。
さて、どうしたものか。
このまま薄気味悪い森で野宿ができるほど、俺らは強くない。
かといって、街に行こうにもお金が足りないから入れてもらうことすらできない。
悩んでいる俺のことすらまるで気にせず、動物と戯れるイルカを見て、あることに気づく。
「そういや、イルカ。その武器ってどれくらい凄いものなんだ?」
「ん? これは神界に伝わる『神器』と呼ばれるものよ。選ばれた女神さまにしか、授かることを許されないから、まさにエリート武器ってことね!」
これ見よがしに『神器』をちらつかしてきて、子供のようにイルカがはしゃいでいる。
「なあイルカ。ちょっとその武器、見せてくれるか?」
「……別にいいけど、丁重に扱ってよね?」
『神器』もとい、ブラッド・ステッキと呼んでいる杖には細かい宝石が無数にちりばめられていた。
「そんなにじろじろ見てどうしたの?」
「…………」
「ねぇ、ハルト? 黙り込んじゃうと、心配になるでしょ? お願いだから、変なこと言いださないわよね?」
「イルカ? 世界を救うためには、多少の犠牲が必要だと思うんだが」
俺はちらりとイルカに視線を送って、了承を得ようとする。
が、イルカから帰ってきたのは大きな罰点マーク。
俺はそれを完全に無視して、杖から宝石を頂くためにおおきく振りかぶった。
「はぁ?! 馬鹿じゃないの! ねぇハルト。それだけはやめて! 私がどれだけの思いをして『神器』を手に入れたと思っているの!」
「離せ、イルカ! 宝石さえ手に入ったら、武器を
はいくらでも買ってやるから! 今回だけは見逃してくれ!」
「嫌よ! それがないと私の女神としての価値が薄れちゃうでしょ? ねぇ、馬鹿なことしてないで、一緒にモンスターを狩りましょう? ねっ?!」
こいつ! こんな時だけ以上に力が強い。
俺が全国の一般男性よりも非力なのかもしれないが、今回ばかりは譲れない。
「許せイルカ! これも、生き延びるためなんだ!」
俺は力を振り絞って、イルカを拭きほどき、もう一度杖を頭上に振りかぶった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
イルカの思いは虚しく、杖は地面に向かって叩きつけられた。
粉々に粉砕してしまった杖は、もはや原型を留めていない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ! ひどい、ひどい…………っ!」
「俺だって心苦しい。だが、これも冒険を進めていくため…………ん?」
俺は破片を拾い集めていくと、違和感に気づいた。
どこを探しても、宝石が見当たらない。
それどころか、さっきまでの杖とは明らかに破片の色が異なっていた。
「あははは! 君たち、バッカだねぇ~? せっかくのお宝をぶっ壊す馬鹿がどこにいるって言うんだよ?」
それは後方から聞こえる癇に障るようなクソガキの声。
「『神器』の価値も分からない君たちに代わって、僕がしっかりと保管しといてあげるから安心して」
夕日に照らされる髪は、小さな女の子の金髪姿をより引き立てる。
「なんで、お前が持っているんだよ!」
「簡単な魔法だよ? 僕が最も得意とする『リリース』なら、どんなものでも盗み放題。馬鹿な冒険者にぶっ壊される前に、僕が交換したってわけ」
「そうか……つまり、ここに散らばっているのはお前が交換した、ただの棒ってわけだな?」
「ご名答。それにしても、実に綺麗な杖だ……」
金髪の盗人は、ブラッド・ステッキをくるくると回しながら、うっとりとする。
「よくやったわ、小さな金髪ちゃん! さあ、私に返してちょうだい?」
イルカが手を伸ばして、金髪の盗人に近づくと。
「返すわけないでしょ? おばさん。僕の辞書に『親切』という言葉は存在しないんだ。僕が手に入れたんだから、これはすでに僕の物。おばさんに返す義理はないよ」
「お、お、お、おば、さん?」
突然のおばさん呼ばわりに、イルカの思考回路にバグが生じてしまったみたいだ。
「ふっざけんじゃないわっ! ガキが調子乗っていると、痛い目に遭うわよ?!」
「あははは! そうだね。でも、僕の将来を心配するより自分の心配をしたらどうかな?」
「それって、どういうことよ?!」
金髪の盗人は新たな魔法を唱え、俺たち二人の足元を草の根で拘束する。
「夜は猛獣が出るかもしれないから、早めに抜け出してね?」
ばいばいと言って、金髪の盗人は森の中へと消えて去っていく。
粘液まみれのおっさんに全身を余すことなく、どろどろにされたイルカ。
女神としての威厳も、女性としての尊厳も無くしてしまったイルカにかける言葉が見つからない。
「ねぇ!? どうして助けてくれなかったの! 私があれだけ必死にハルトに助けを求めていたっていうのにっ!」
「し、仕方ないだろ! あんな気持ち悪いおっさん集団に飛び込んでいけるほど、メンタル強くねぇわ!」
「あーもう最悪なんですけど! 粘液まみれで動きづらいし、しかもちょっと変な匂いもするし……」
その匂いが決して粘液だけの問題ではないことはイルカには黙っておこう。
事実を伝えたら、いよいよ卒倒するかもしれないからな。
「結局、ゲットできたのは『残り少ない毛根』だけか……念のため聞いておくが、このアイテムはどれくらいで売れるんだ?」
「この品質だったら、2000ゴルドくらいかしらね。『残り少ない毛根』が白色だったら、もうちょっと高値が付いたんだけど……」
「それでも、あと3000ゴルドは必要なのか」
おっさんたちの相手に手こずったせいで、時刻はすでに夕方を回っている。
さて、どうしたものか。
このまま薄気味悪い森で野宿ができるほど、俺らは強くない。
かといって、街に行こうにもお金が足りないから入れてもらうことすらできない。
悩んでいる俺のことすらまるで気にせず、動物と戯れるイルカを見て、あることに気づく。
「そういや、イルカ。その武器ってどれくらい凄いものなんだ?」
「ん? これは神界に伝わる『神器』と呼ばれるものよ。選ばれた女神さまにしか、授かることを許されないから、まさにエリート武器ってことね!」
これ見よがしに『神器』をちらつかしてきて、子供のようにイルカがはしゃいでいる。
「なあイルカ。ちょっとその武器、見せてくれるか?」
「……別にいいけど、丁重に扱ってよね?」
『神器』もとい、ブラッド・ステッキと呼んでいる杖には細かい宝石が無数にちりばめられていた。
「そんなにじろじろ見てどうしたの?」
「…………」
「ねぇ、ハルト? 黙り込んじゃうと、心配になるでしょ? お願いだから、変なこと言いださないわよね?」
「イルカ? 世界を救うためには、多少の犠牲が必要だと思うんだが」
俺はちらりとイルカに視線を送って、了承を得ようとする。
が、イルカから帰ってきたのは大きな罰点マーク。
俺はそれを完全に無視して、杖から宝石を頂くためにおおきく振りかぶった。
「はぁ?! 馬鹿じゃないの! ねぇハルト。それだけはやめて! 私がどれだけの思いをして『神器』を手に入れたと思っているの!」
「離せ、イルカ! 宝石さえ手に入ったら、武器を
はいくらでも買ってやるから! 今回だけは見逃してくれ!」
「嫌よ! それがないと私の女神としての価値が薄れちゃうでしょ? ねぇ、馬鹿なことしてないで、一緒にモンスターを狩りましょう? ねっ?!」
こいつ! こんな時だけ以上に力が強い。
俺が全国の一般男性よりも非力なのかもしれないが、今回ばかりは譲れない。
「許せイルカ! これも、生き延びるためなんだ!」
俺は力を振り絞って、イルカを拭きほどき、もう一度杖を頭上に振りかぶった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
イルカの思いは虚しく、杖は地面に向かって叩きつけられた。
粉々に粉砕してしまった杖は、もはや原型を留めていない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ! ひどい、ひどい…………っ!」
「俺だって心苦しい。だが、これも冒険を進めていくため…………ん?」
俺は破片を拾い集めていくと、違和感に気づいた。
どこを探しても、宝石が見当たらない。
それどころか、さっきまでの杖とは明らかに破片の色が異なっていた。
「あははは! 君たち、バッカだねぇ~? せっかくのお宝をぶっ壊す馬鹿がどこにいるって言うんだよ?」
それは後方から聞こえる癇に障るようなクソガキの声。
「『神器』の価値も分からない君たちに代わって、僕がしっかりと保管しといてあげるから安心して」
夕日に照らされる髪は、小さな女の子の金髪姿をより引き立てる。
「なんで、お前が持っているんだよ!」
「簡単な魔法だよ? 僕が最も得意とする『リリース』なら、どんなものでも盗み放題。馬鹿な冒険者にぶっ壊される前に、僕が交換したってわけ」
「そうか……つまり、ここに散らばっているのはお前が交換した、ただの棒ってわけだな?」
「ご名答。それにしても、実に綺麗な杖だ……」
金髪の盗人は、ブラッド・ステッキをくるくると回しながら、うっとりとする。
「よくやったわ、小さな金髪ちゃん! さあ、私に返してちょうだい?」
イルカが手を伸ばして、金髪の盗人に近づくと。
「返すわけないでしょ? おばさん。僕の辞書に『親切』という言葉は存在しないんだ。僕が手に入れたんだから、これはすでに僕の物。おばさんに返す義理はないよ」
「お、お、お、おば、さん?」
突然のおばさん呼ばわりに、イルカの思考回路にバグが生じてしまったみたいだ。
「ふっざけんじゃないわっ! ガキが調子乗っていると、痛い目に遭うわよ?!」
「あははは! そうだね。でも、僕の将来を心配するより自分の心配をしたらどうかな?」
「それって、どういうことよ?!」
金髪の盗人は新たな魔法を唱え、俺たち二人の足元を草の根で拘束する。
「夜は猛獣が出るかもしれないから、早めに抜け出してね?」
ばいばいと言って、金髪の盗人は森の中へと消えて去っていく。
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