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第1章 女神と一般高校生
七話 ゴブリン討伐は慎重に
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「私には敵を引き付けるといった誘因作用のあるユニークスキルを習得しています。ゴブリンたちを引き付けて、一気に畳み掛けたいと思いますので準備をしておいてください」
俺たちは新たなメンバーと一緒に常時クエストにリベンジしようとしていた。
飲食店でのバイトは目標金額を達成したので、すでに辞めている。
『人が足りないから、勝手に抜けられると困るんだよ!? ハルトは別にいいけど……』
『そうですよ! ただでさえ、繫忙期に差し掛かるタイミングで新人を雇うとなると、教えるのが大変になるじゃないですか!? ハルト君は新人さんと変わらないけど……』
一緒に働いた人たちには涙を流しながら必死に引き留められていたが、そんなこと俺たちには関係ない。
魔王討伐という大きな目標のためには、新たなステップを踏み出さねばならぬのだ。
だだっ広い平原には、三匹のゴブリンの姿。
ゴブリンたちは俺たちには気づいておらず、吞気に鬼ごっこをしている。
「その装備かっこいいわね。私の『マンドラゴラ防具』と交換しなさいよ」
「だからあれほど、それでいいのかって確認したよな!?」
「だって、仕方ないでしょ!? あんなトラウマ植え付けられたら、この装備にするしかないじゃない!」
ここに来る少し前に、俺たちは防具屋に寄って装備を整えていた。
俺は、初心者向けに売られていた冒険者セットをそのまま購入し、イルカは自分好みのスタイルにしたのだが、
「たしかに『マンドラゴラ防具』が敵を近づけないってのは、魅力的ではあるが……」
この装備には欠点があった。
それは、防具の真ん中にいる埋め込まれているマンドラゴラが、時々目を開けて睨んでくることだ。
その目が気持ち悪く、誰も買い手がいないから特売商品となっていた。
「私は売れ残りの物を見ると、シナジーを感じてしまうのよね……って言ってたのは、お前だろ? 責任もって使ってやれよ」
「うぅん……分かったわよ」
あまり気乗りしていなそうなイルカを横目に、ブラウスを先導にしてゴブリンたちに攻撃を仕掛ける。
「それではよろしくお願いしますね?」
と言って、ブラウスがスキルを使うと、遊んでいたゴブリンたちが血相を変えて、こん棒片手にこちらへ向かってくる。
俺たちから離れたところにいるブラウスが囮になっている隙に、戦いの準備をしておこうと思ったのだが。
「あれ? なんだか、ゴブリンたちの様子がおかしくないか?」
「本当ね。ブラウスの方じゃなくて、こちらに向かって来てないかしら」
ゴブリンたちは明らかに俺たちをターゲットにして、襲い掛かっていた。
「私が後ろから攻撃していくので、足止めしてもらってもいいですか?」
ブラウスが囮になるんじゃないの……?
俺はギルドカードに書かれていたスキルをもう一度思い出していた。
『味方一人に攻撃を集める』
それはつまり、俺たちの誰にでも効果が発揮されるということ。
「なぁ、イルカ。今ならその防具と交換してやってもいいぞ?」
「丁重にお断りさせてもらうわ。頑張って走りなさい?」
「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ぶち切れのゴブリンたちを相手に真正面から戦えるわけがない。
所詮雑魚モンスターだと思われるかもしれないが、経験の浅い俺には太刀打ちできないことくらい火を見るよりも明らかだった。
「ほらほら、追いつかれちゃうわよ~? もっと頑張って走りなさい……って、走り方やばくない?! 手と足が一緒に動いてロボットみたいなんですけど!」
腹を抱えて笑っているイルカを見て、初めて女の子を殴りたいと思った。
人が一生懸命走っているのに、笑ってくる女神など滅んでしまえ。
ただ、その願い虚しく人並以下の体力しかない俺は、とうとうゴブリンたちに詰め寄られてしまった。
「ちなみに、ゴブリンは『身ぐるみ剥がし』の癖があるから、気を抜くと丸裸にされちゃうわよ?」
「それ、もっと早く言ってくれなかったのか?!」
やばいぞ。こんな何もない場所で裸にでもなったりしたら、露出狂の異名が付けられてしまう。
男としての尊厳を守るためには、それだけは回避しなければ。
「おーい! どっちでもいいから攻撃してくれないか!?」
「もう大丈夫です! 私の攻撃でゴブリンたちなど一網打尽……って」
「どうしたブラウス!?」
「それが、剣が抜けなくて……ひゃうっ!?」
ブラウスの気迫に怯えていたゴブリンたちだったが、攻撃出来ないと分かった途端にブラウスはこん棒で頭を叩かれ、気絶してしまった。
実力はあるけど、ドジっ子キャラ属性とかいう残念な子なんだな。
…………使えねぇ。
「イルカぁぁぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
ゴブリンにズボンと上着を引っ張られながら、最後の頼みの綱であるイルカに助けを求める。
「ふふふ、いいわ! ギルド嬢からは、百人に一人の天才魔法使いと呼ばれた私の実力を見せてあげる!」
馬鹿笑いしていたイルカが任せなさいと、胸を大きく叩く。
すると、イルカに付いているマンドラゴラがぽろりと落ちてしまった。
俺を襲っていたゴブリンはイルカの方へ一斉に振り向く。
「ちょっと、やめて! 私は高貴な女神なのよ! 下級モンスターが、べたべたと触ってこないでよぉぉぉぉぉぉ!?」
馬鹿と天才は紙一重ってこういうことなんだな。
標的がイルカになっている隙に、俺は装備をこっそりと盗みとり、なんとか短剣で一匹のゴブリンを討伐することに成功した。
ただ、二匹のゴブリンを仕留めることが出来ず、身ぐるみを剝がされたイルカとブラウスが、半裸状態のまま『始まりの街』に戻るはめとなった。
俺たちは新たなメンバーと一緒に常時クエストにリベンジしようとしていた。
飲食店でのバイトは目標金額を達成したので、すでに辞めている。
『人が足りないから、勝手に抜けられると困るんだよ!? ハルトは別にいいけど……』
『そうですよ! ただでさえ、繫忙期に差し掛かるタイミングで新人を雇うとなると、教えるのが大変になるじゃないですか!? ハルト君は新人さんと変わらないけど……』
一緒に働いた人たちには涙を流しながら必死に引き留められていたが、そんなこと俺たちには関係ない。
魔王討伐という大きな目標のためには、新たなステップを踏み出さねばならぬのだ。
だだっ広い平原には、三匹のゴブリンの姿。
ゴブリンたちは俺たちには気づいておらず、吞気に鬼ごっこをしている。
「その装備かっこいいわね。私の『マンドラゴラ防具』と交換しなさいよ」
「だからあれほど、それでいいのかって確認したよな!?」
「だって、仕方ないでしょ!? あんなトラウマ植え付けられたら、この装備にするしかないじゃない!」
ここに来る少し前に、俺たちは防具屋に寄って装備を整えていた。
俺は、初心者向けに売られていた冒険者セットをそのまま購入し、イルカは自分好みのスタイルにしたのだが、
「たしかに『マンドラゴラ防具』が敵を近づけないってのは、魅力的ではあるが……」
この装備には欠点があった。
それは、防具の真ん中にいる埋め込まれているマンドラゴラが、時々目を開けて睨んでくることだ。
その目が気持ち悪く、誰も買い手がいないから特売商品となっていた。
「私は売れ残りの物を見ると、シナジーを感じてしまうのよね……って言ってたのは、お前だろ? 責任もって使ってやれよ」
「うぅん……分かったわよ」
あまり気乗りしていなそうなイルカを横目に、ブラウスを先導にしてゴブリンたちに攻撃を仕掛ける。
「それではよろしくお願いしますね?」
と言って、ブラウスがスキルを使うと、遊んでいたゴブリンたちが血相を変えて、こん棒片手にこちらへ向かってくる。
俺たちから離れたところにいるブラウスが囮になっている隙に、戦いの準備をしておこうと思ったのだが。
「あれ? なんだか、ゴブリンたちの様子がおかしくないか?」
「本当ね。ブラウスの方じゃなくて、こちらに向かって来てないかしら」
ゴブリンたちは明らかに俺たちをターゲットにして、襲い掛かっていた。
「私が後ろから攻撃していくので、足止めしてもらってもいいですか?」
ブラウスが囮になるんじゃないの……?
俺はギルドカードに書かれていたスキルをもう一度思い出していた。
『味方一人に攻撃を集める』
それはつまり、俺たちの誰にでも効果が発揮されるということ。
「なぁ、イルカ。今ならその防具と交換してやってもいいぞ?」
「丁重にお断りさせてもらうわ。頑張って走りなさい?」
「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ぶち切れのゴブリンたちを相手に真正面から戦えるわけがない。
所詮雑魚モンスターだと思われるかもしれないが、経験の浅い俺には太刀打ちできないことくらい火を見るよりも明らかだった。
「ほらほら、追いつかれちゃうわよ~? もっと頑張って走りなさい……って、走り方やばくない?! 手と足が一緒に動いてロボットみたいなんですけど!」
腹を抱えて笑っているイルカを見て、初めて女の子を殴りたいと思った。
人が一生懸命走っているのに、笑ってくる女神など滅んでしまえ。
ただ、その願い虚しく人並以下の体力しかない俺は、とうとうゴブリンたちに詰め寄られてしまった。
「ちなみに、ゴブリンは『身ぐるみ剥がし』の癖があるから、気を抜くと丸裸にされちゃうわよ?」
「それ、もっと早く言ってくれなかったのか?!」
やばいぞ。こんな何もない場所で裸にでもなったりしたら、露出狂の異名が付けられてしまう。
男としての尊厳を守るためには、それだけは回避しなければ。
「おーい! どっちでもいいから攻撃してくれないか!?」
「もう大丈夫です! 私の攻撃でゴブリンたちなど一網打尽……って」
「どうしたブラウス!?」
「それが、剣が抜けなくて……ひゃうっ!?」
ブラウスの気迫に怯えていたゴブリンたちだったが、攻撃出来ないと分かった途端にブラウスはこん棒で頭を叩かれ、気絶してしまった。
実力はあるけど、ドジっ子キャラ属性とかいう残念な子なんだな。
…………使えねぇ。
「イルカぁぁぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
ゴブリンにズボンと上着を引っ張られながら、最後の頼みの綱であるイルカに助けを求める。
「ふふふ、いいわ! ギルド嬢からは、百人に一人の天才魔法使いと呼ばれた私の実力を見せてあげる!」
馬鹿笑いしていたイルカが任せなさいと、胸を大きく叩く。
すると、イルカに付いているマンドラゴラがぽろりと落ちてしまった。
俺を襲っていたゴブリンはイルカの方へ一斉に振り向く。
「ちょっと、やめて! 私は高貴な女神なのよ! 下級モンスターが、べたべたと触ってこないでよぉぉぉぉぉぉ!?」
馬鹿と天才は紙一重ってこういうことなんだな。
標的がイルカになっている隙に、俺は装備をこっそりと盗みとり、なんとか短剣で一匹のゴブリンを討伐することに成功した。
ただ、二匹のゴブリンを仕留めることが出来ず、身ぐるみを剝がされたイルカとブラウスが、半裸状態のまま『始まりの街』に戻るはめとなった。
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