アリス(休止)

虎信玄斎

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「ん……ふぁ…………あれ?」

 目を覚ますとそこは私のお布団でした。
 さっきまで不思議な世界に行っていたような気がします。
 そこには水の妖精さんがいて……えっと、どんな夢だったでしょうか。
 あまり良く思い出せませんでした。

「おはよう、アリス」
「あっ。お母さん」
 
 お母さんが部屋に入って来ました。
 外を見ればもう夕方です。
 結構な時間眠ってしまっていたようです。
 
 私の傍に座ったお母さんがその手を差し出して来ました。
 
「今お熱測るわね」
「はーい」
  
 額にぴたりとお母さんの優しい手が触れます。
 
「んー……もう大丈夫そうかな? 体温計持って来るわね」
「分かったー」

 お母さんは部屋を出て少しで戻ってきました。
 体温計を渡されたのでそれを脇の下に挟んで熱を測ります。
 
 ピピピっという音が鳴ったのを確認してそれを取り出し差し出しました。

「うん、オッケー。もう熱は無いみたいね」
「明日から幼稚園行けますか?」
「そうね。大丈夫よ」
「やったー!」

 お友達と会えるのが嬉しくて思わず万歳してしまいました。
 お母さんはくすくすっと笑うとまた部屋を出て行きます。
 それから少しするとまた戻ってきました。
 その手には私の好きなぷっちんとするプリンと小皿とスプーンがあります。

「はい、プリン。食べたがっていたでしょう?」
「わあい!! プリンだー!」

 それを受け取ると小皿を畳みの上に安定させます。
 プリンの入ったプラスティックの容器を逆さにし、その上に載せます。
 底に一か所だけ突起した部分を触り、そのままぷちっと押します。
 ゆっくりと容器を上げるとプリンがぷるんと小皿の上に乗りました。

「……あれ」

 ぷるんと揺れる可愛らしいプリン。
 それを見ていると何かを思い出します。
 ……ゼリーさん?

「有栖ー、食べる前に手を洗ってうがいしてきなさい?」
「あっ」

 嬉しさのあまり完全に忘れていました。
 ばい菌さんがこんにちはしてしまいます。

「ごめんなさいー」
「ふふ。さ、行ってらっしゃい?」
「はーい」

 お布団からむくりと起き上がり洗面台に。
 私の身長では手が届かないので丸椅子の上に登って手を届けます。
 お水で少し手を濡らして……バックサクション機構搭載でお馴染みの万能容器、ポンプディスペンサーの頭をプッシュしお馴染みママさんの液体石鹸を発射。
 それを手に纏わせると良く擦り泡立て手を洗います。
 それをお水で洗い流しさっぱりした所で一度をタオルで拭きます。
 コップに水を入れてお口を注ぐとげろげろぺっとそれを吐き出し、今度はうがい用の液体を使いうがい。もう一度お水でうがいで完了です。
 
「ただいまー」
「お帰りなさい」

 プリンを見守っていたお母さんに一声かけてその横に座ります。
 
「いっただっきまーす!」

 スプーンを使いプリンを掬い口に運ぶと伝わる甘味。
 美味しいです!
 一分もしない内に完食してしまいました……。
 もっと味わえば良かったかな?

「さ、晩御飯までまだ時間があるし、もう少し眠る?」
「んー。でも、今寝ちゃうと夜起きちゃうのです」
「あー、そうねー。それじゃあお母さんとあ」

 お母さんが何か言おうとしましたが、インターホンの音に続きが掻き消されてしまいました。
 お母さんとあ……握手? 悪霊退散? 遊ぶ? ああ、遊ぶ、ですね。
 
「ちょっと出て来るわね」
「はーい」

 お母さんが玄関に向かいますが、その前に誰かが玄関を開けた音がします。

「ただいまー」
「お父さんだ」

 部屋を出たお母さんの後を追って私も玄関に向かいます。
 
「お帰りなさい。今日は早かったのね?」
「うん。残業無くなっちゃった」 
「お父さんー!」
「おや、有栖。元気になったのかい?」
「はいっ! 明日から幼稚園行っても良いですか」
「その様子なら大丈夫そうだね。でも無理は駄目だよ? 特に今は夏で暑いからね。熱中症にだけは気を付けてね?」
「了解であります!」

 びしぃっと敬礼をします。
 その姿を見た二人が顔を見合わせ、同時に噴き出しました。

「全く、この子はどこで覚えたんだか」
「ご、ごめん。絶対僕が原因だ」
「また貴方は……一体何を吹き込んだのよ」
「い、いやね? あっ、そうだ! ケーキを買って来たんだー」
「ケーキ、ですか!」
「うん。有栖、食べるかい?」
「食べたいです!!」
「待った待った。さっきプリン食べたばかりでしょ? それに夕飯もあるのよ? ケーキは夜に、ね?」
「はーい」
「はーい」

 お父さんと私が同時に返事をします。
 プリンに続き今度はケーキです。
 お熱も下がったし、今日は良い事尽くしですね!

 夜が来ました。
 家族団欒晩御飯を食べ終えて暫く経ちます。
 
「それじゃ、ケーキ、食べようか?」
「わあい!!」

 お父さんが冷蔵庫に保存していたケーキを取り出しそれをお皿に移してくれます。
 苺の乗ったショートケーキ。ホールじゃなくて切り分けられた奴です。うちは基本ホールじゃなくて切り分けられたものを買っています。
 そんな大家族でもないし、三人暮らしにホールは大きすぎるというのが理由です。
 クリスマスにはお父さんとお母さんの親友だと言う方の家族と共にお祝いするのでホールで買います。
 私にとってホールケーキは一年に一度お目に掛かれる神にも等しい存在なのです。

「美味しかったー!」
「それは良かったよ。さ、歯を磨いてもう寝なさい?」
「はあい!」

 ケーキを食べ終えた私は言われた通り歯を磨くとお布団の中に潜りました。
 お父さんとお母さんが両サイドにお布団を敷いて川の字になって一緒に眠ります。
 それから暫くして、強烈な眠気が襲って来ました。
 目を閉じ眠気に全てを委ねます。
 早く明日にならない……かな……

「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。先生、よろしくお願いします」
「はい。お任せ下さい。それじゃ有栖ちゃん。バスの中に入ってね」
「はーい」

 朝、園児服に着替えた私をお母さんが見送ってくれます。
 私の家から幼稚園までは少し距離があるのでバスでの通園になっています。
 猫さんの顔をしたバスの車内には既に何人もの園児がいました。
 
「有栖ちゃんだー!」
「元気になったのー?」
「はい! 不肖有栖、今日より幼稚園に帰還するであります!」
「何それー!」
「軍曹みたいー」
「で、あります!」

 お友達とわいわいお喋り楽しいな。
 バスに揺られて数分。幼稚園に着きました。
 今日一日がここから始まるのです!


 
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