3 / 3
三話
しおりを挟む
多くの同胞達が旅立った惨劇から一時間程経った頃だった。突然、風が強くなり始めた。
種達も母も急なことに動揺する。だが、飛び立つ時はもう来た。別れを言わなければ。もう二度と、共にはいられないのだから。
「母さん。」
種の一つが母に話しかける。一番、飛び立つことを楽しみにしていた種だ。
「母さん。私、母さんと一緒に居られて良かった。私達はどんな場所に根付いても力強く生きるから...だから心配しないで見守っててね。約束だよ。」
その言葉に続いて、他の種達も口々に別れや、感謝の言葉を母へと贈る。母はそれを聞いて泣きそうになった。そして自分も子供達に言葉を返そうとした時だった。
ゴォッという音と共に強い風が通り過ぎてゆく。そして子供達の手を引いて、空へと連れ去り始めた。
「みんな、元気でねぇー!」
短い時間で種達はどんどん飛ばされてゆく。そのため長々しく別れの言葉を言う暇もなかった。ほぼ全ての種が母の元を離れ遠くの方へと飛ばされた時、ぴたりと風が止まった。
人間達はどこかへ移動したのか辺りは夜のような静寂に包まれている。
「風、止んじゃったね。母さん。」
たった一つ、運悪くか残っていた種が呟く。昨日何か言いかけて何でもないと言っていた種だった。この際なので聞いてみる。
「そういえば、昨日何か言いかけてたけど結局何を言おうとしたの?」
「なんでもない。本当に...なんでもないから。そういえば母さんはここに根付く前はどこに居たの?」
うまくはぐらかされた。それに、種だった頃の話はあまりしたくない。だが、子供と話せるのも今のうち。きっともう話す機会はない。それならと話すことにした。
「...母さんは、ね。街で...生まれたの。目の前に広がる街とはまた別の場所だけどね。そこで...」
「人間に母と別れさせられた?」
驚きによってか一瞬時間が止まる。
「なんで...知って...」
「さっき...人間がみんなを摘んでいったとき、母さん声も聞こえてないくらい震えてたから...。」
ああ、最悪だ。弱みを、子供の前で晒してしまった。不安にさせただろうか。失望しただろうか。こんな、こんな弱い母に。
「母さんも...怖かったんだね。...良かった。」
「え...?」
何が良かったのだろう?
「母さんと、同じ気持ちでこの人も自分と同じなんだって思えて、嬉しかった。」
そう言われて感情が、こみ上げてくる。
「そうに決まってるじゃない...!私だって...私だって怖かった。あなたと突然別れてしまうことが。あの時の私と同じ過去を持ってしまうことが。怖くて、怖くてたまらなかった...!」
全てを吐き出して、自分をさらけ出してようやく、本当の自分になれた気がした。一つ後悔するなら、もっと早くにこのことを打ち明けるべきだったことだろう。
そんな時だった。風がまた、少しづつ強くなり始めた。今度は先程よりももっと強い風のようだ。最後の、別れの時が来る。
「母さん。あのね、あのね...今まで、ありがとう...!それから...」
ビュゴォッという大きな音と共にかつてない程の風が吹く。
最後に残っていた種はあっという間に空へと飛ばされ、やがて見えなくなってしまった。
それを見届けて母は声を震わせながら呟く。
「馬鹿な子ね...。『大好きだよ。』なんて、言うのが...遅すぎよ...!私だって...大好きよ。」
言い終わると同時、母の魂も体を離れ、青く澄んだ空へゆっくりと旅立った。
今日も、小さないのちがどこかで繋がれている。
種達も母も急なことに動揺する。だが、飛び立つ時はもう来た。別れを言わなければ。もう二度と、共にはいられないのだから。
「母さん。」
種の一つが母に話しかける。一番、飛び立つことを楽しみにしていた種だ。
「母さん。私、母さんと一緒に居られて良かった。私達はどんな場所に根付いても力強く生きるから...だから心配しないで見守っててね。約束だよ。」
その言葉に続いて、他の種達も口々に別れや、感謝の言葉を母へと贈る。母はそれを聞いて泣きそうになった。そして自分も子供達に言葉を返そうとした時だった。
ゴォッという音と共に強い風が通り過ぎてゆく。そして子供達の手を引いて、空へと連れ去り始めた。
「みんな、元気でねぇー!」
短い時間で種達はどんどん飛ばされてゆく。そのため長々しく別れの言葉を言う暇もなかった。ほぼ全ての種が母の元を離れ遠くの方へと飛ばされた時、ぴたりと風が止まった。
人間達はどこかへ移動したのか辺りは夜のような静寂に包まれている。
「風、止んじゃったね。母さん。」
たった一つ、運悪くか残っていた種が呟く。昨日何か言いかけて何でもないと言っていた種だった。この際なので聞いてみる。
「そういえば、昨日何か言いかけてたけど結局何を言おうとしたの?」
「なんでもない。本当に...なんでもないから。そういえば母さんはここに根付く前はどこに居たの?」
うまくはぐらかされた。それに、種だった頃の話はあまりしたくない。だが、子供と話せるのも今のうち。きっともう話す機会はない。それならと話すことにした。
「...母さんは、ね。街で...生まれたの。目の前に広がる街とはまた別の場所だけどね。そこで...」
「人間に母と別れさせられた?」
驚きによってか一瞬時間が止まる。
「なんで...知って...」
「さっき...人間がみんなを摘んでいったとき、母さん声も聞こえてないくらい震えてたから...。」
ああ、最悪だ。弱みを、子供の前で晒してしまった。不安にさせただろうか。失望しただろうか。こんな、こんな弱い母に。
「母さんも...怖かったんだね。...良かった。」
「え...?」
何が良かったのだろう?
「母さんと、同じ気持ちでこの人も自分と同じなんだって思えて、嬉しかった。」
そう言われて感情が、こみ上げてくる。
「そうに決まってるじゃない...!私だって...私だって怖かった。あなたと突然別れてしまうことが。あの時の私と同じ過去を持ってしまうことが。怖くて、怖くてたまらなかった...!」
全てを吐き出して、自分をさらけ出してようやく、本当の自分になれた気がした。一つ後悔するなら、もっと早くにこのことを打ち明けるべきだったことだろう。
そんな時だった。風がまた、少しづつ強くなり始めた。今度は先程よりももっと強い風のようだ。最後の、別れの時が来る。
「母さん。あのね、あのね...今まで、ありがとう...!それから...」
ビュゴォッという大きな音と共にかつてない程の風が吹く。
最後に残っていた種はあっという間に空へと飛ばされ、やがて見えなくなってしまった。
それを見届けて母は声を震わせながら呟く。
「馬鹿な子ね...。『大好きだよ。』なんて、言うのが...遅すぎよ...!私だって...大好きよ。」
言い終わると同時、母の魂も体を離れ、青く澄んだ空へゆっくりと旅立った。
今日も、小さないのちがどこかで繋がれている。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる