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目を覚ますと
しおりを挟む「うっ。いたた」
目を覚ますと私は知らないベッドに寝かされていた。ズキズキと鈍く痛む頭を抱えながら起き上がるとハーブのような匂いが鼻に香る。見回すとそこは小さいながらも清潔にされた部屋だった。
一瞬今まで見ていた異世界の出来事は全て夢で、実際は過労かなにかで倒れて病院に運ばれたのかと思った。ただこの部屋が日本の病院にしてはやけに設備が心許ない。
機械の類は一切なくベッドも置かれた椅子も全て木製だ。そのことから察するに私はどうやらまだ異世界にいるようだった。
そういえば事故にあった女の子はどうなったんだろう。それが気になってベッドから立ちあがろうと腰を上げたけど、上手く力が入らずに倒れ込んでしまった。
その際に近くのテーブルに置かれた物も倒してしまいガシャーンと大きな音が響き渡る。幸いにも落ちたのは鉄製の器具のようで壊れることはなかったけど、音が聞こえたのか誰かの走る足音が聞こえてきた。
「ハルカ! 大丈夫ですか!?」
ドアを開けたのは焦った顔をしたエリアスさんだった。倒れた私をひょいとお姫様抱っこで持ち上げてベッドに寝かせてくれる。
細身に見えるのに人一人を軽々と持ち上げるなんて騎士というのは本当に凄い。人を助けるために日頃から鍛えているのがよく分かる。
「すいません。力が入らなくて転んじゃいました」
「それは当然です。ハルカは魔力切れで倒れたんですよ? 下手をすれば二度と目を覚まさないところでした」
「魔力切れ?」
「ええ。馬車に轢かれた女の子を助けようとしたことを覚えていますか? その時に使った回復魔法で自らの魔力を使い切って、そのまま倒れてしまったんです」
魔力や回復魔法といったファンタジーな言葉に少々面を食らう。どうやら私があの時体内に感じた光が魔力で、少女の体を治したのが回復魔法のようだ。
「それにしてもハルカは何者なんですか? あんなに凄い回復魔法は初めて見ました」
何者と聞かれて返答に困ってしまう。ただのブラック企業勤めのOLですと答えても伝わるとは思えないし。そんな私の困ったような表情にエリアスさんは何かを察したようだ。
「すいません。誰にでも話せないことはありますよね」
なにやら勘違いさせてしまったが今はその勘違いを利用させてもらおう。とりあえず私は気になっていたことをエリアスさんに聞くことにした。
「あの女の子はちゃんと助かりましたか?」
事故にあった少女の姿を思い出す。日本ならどう見ても救急車が必要なほどの大怪我を負っていたが、回復魔法のおかげか倒れる直前には怪我が良くなったように見えた。
「あの子ならあの後すぐに目を覚ましましたよ。ハルカが頑張ったお陰です。貴女の献身が一人の幼い命を救ったんです」
それなら本当に良かった。しかしそこで私は自分の体に起こっている違和感に気づいた。体の中にある例の光が大きく成長していたのだ。
倒れる前は小さなピンポン玉くらいの大きさだったはず。それが今はバスケットボールくらいの大きさになっていた。
自分の中にそんな大きさの物があるなんて怖すぎる。魔力は実体がある物ではないのだろうが自分の内臓が徐々に圧迫されていき、最後は破裂するイメージをしてしまった私は小さく身震いする。
「ハルカの行いはとっても立派でした。ただ少し面倒なことになっていまして」
「面倒なこと?」
「あの場に居合わせた野次馬から噂が広がったようで、巷ではハルカは黒の聖女と呼ばれています。それを聞きつけた権力者達が貴女を取り込もうと躍起になっていまして」
私は今後眠らない方が良いのかもしれない。一度目は異世界転移、二度目は聖女と眠るたびに厄介ごとが訪れているのだから。
これからどうしようとエリアスさんを見ると彼も困ったようにふにゃりと笑った。
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