電車を寝過ごしたら聖女と呼ばれてプラチナブロンドの騎士と結ばれました

刻芦葉

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異世界でお仕事始めました

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「それじゃあ後は頼むぞい。酷い怪我の者が来ても焦らないようにの」

「頑張ります!」

 クリストファーさんに激励された私は用意された診察室で一人ギュッと拳を握った。いよいよ今日から治癒魔法師デビューだ。今まで医療従事経験なんて一切ない私が、本当に怪我や病気を治せるのか心配ではある。

 それでもこの世界で生きていくにあたって回復魔法を使わない手はない。不安でいっぱいだけどミミルちゃんのような人を救えるなら全力でやると決めていた。

 大丈夫。クリストファーさんの言っていた通り焦らないで慎重に回復魔法を使えばいい。それに隣の部屋で診察しているアイラが何かあったら来てと言ってくれた。

 前の会社なんて誰も助けてくれなかったのにアイラは優しいな。そんなことを思っているとノックの音が聞こえてきた。

「はいどうぞ」

「失礼するぜ。いてて」

 入ってきたのは痛そうに顔をしかめるグレーの短髪が特徴的なイケオジだった。右腕を怪我しているのか肩から布で吊っており、巻いた包帯には血が滲んでいる。

「今日はどうしましたか?」

「いやな。俺は建設現場で働いてるんだが、ついさっき作業中に落ちちまってよ。俺は大丈夫だっつってんのに若い奴らが治療院へ行けってうるさくてな。はぁ。歳は取りたくねぇなぁ。昔はこんなドジは踏まなかったのに。おっと。ねえちゃんにそんなこと言っても仕方ねぇよな」

 本人が大丈夫って言ってたならそこまで酷い怪我ではないのかな。包帯に血が滲んでるから落ちた拍子に切ったといったところだろうか。

「じゃあ回復魔法を使いますので包帯を外しますね。痛かったら言ってください」

「おう。こんくらい唾付けときゃ治るってのにな」

 なんか昔気質というか江戸っ子みたいな人だ。作業中に落ちたって言ってたしとび職とかそっち系な雰囲気がする。そんな風に考えながら包帯を外した私は、絶叫マシンに乗った時のように鳩尾みぞおちの辺りが恐怖でヒュンとした。

「なにが唾付けときゃ治るですか! めちゃくちゃ大怪我ですよこれ!」

 悪くて骨折くらいに考えていたのに実際は血まみれの腕から折れた骨が少しだけ飛び出していた。キツく巻かれた包帯が外されたことで血もドバドバ出ているし、この怪我で良く大丈夫なんて言えたものだ。

 怪我の生々しさに意識が遠のきそうになるけど、グッと歯を食いしばり私は回復魔法を発動した。ミミルちゃんの時はたまたまだったらどうしようと思ったけど、無事に発動してくれたようで腕は逆再生のように治っていく。

「ほぉ。こりゃ凄いもんだな。一ヶ月は仕事できないって覚悟してたのに、これなら明日から働けそうじゃねえか」

 私の回復魔法はかさぶたすら残さないようだ。怪我なんてなかったような腕を見て感心するような声があがっていた。

「せめて明日は大事をとって休んでください。怪我は治っても失った血は戻りませんから」

「治癒魔法師のねえちゃんがそう言うなら明日は大人しくしとくか。とにかく助かったぜ。建てなきゃいけない家があって俺が動けないと大変だったんだ」

「やっぱり職人さんだったんですね」

「おう。俺はこの街で建築関係をやってるジェイクだ。治してもらったお礼にねえちゃんが家を建てる時は安くするから、その時はぜひご贔屓に頼むわ。本当にありがとよ。世話になったな」

 そう言うとジェイクさんはガッハッハと笑って診察室を後にした。それにしても家かぁ。日本に帰れないなら建てるのも視野に入れる必要があるかもしれない。

 ……本当に帰れないのかな。最近は結婚はまだかと若干煩わしくなっていた両親だけど、それでもせめて最後にもう一度会いたい。これから先のことを考えると少しセンチメンタルな気分になってしまった。

 これは良くないぞ私。ここに来るのは怪我や病気の人なんだ。回復魔法に集中しないと患者さん達に申し訳ない。

 両頬を軽く叩いて治療に集中する。そのおかげか特に大きな問題もなく今日の診察を終えることができた。というか一番の重症がジェイクさんだったので、それを最初に治したことで度胸がついたように思える。

 控え室に行くと先に診察が終わっていたのかアイラがグッと伸びをしている所だった。

「ハルカおつかれ。治療してみてどうだった?」

「おつかれアイラ。最初に治した人が高所から落ちたみたいで腕から骨見えててさ。びっくりして血の気が引いちゃったよ」

「あー。それは焦るね。そんな重症を治しちゃうなんてさすがは黒の聖女」

「その呼び方はやめてってば」

 なんにせよ回復魔法が無事に使えて本当に良かった。ホッと胸を撫で下ろした私は仕事終わりの開放感のままに、アイラとダラダラ雑談するのだった。



 
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