12 / 18
異世界でお仕事始めました
しおりを挟む「それじゃあ後は頼むぞい。酷い怪我の者が来ても焦らないようにの」
「頑張ります!」
クリストファーさんに激励された私は用意された診察室で一人ギュッと拳を握った。いよいよ今日から治癒魔法師デビューだ。今まで医療従事経験なんて一切ない私が、本当に怪我や病気を治せるのか心配ではある。
それでもこの世界で生きていくにあたって回復魔法を使わない手はない。不安でいっぱいだけどミミルちゃんのような人を救えるなら全力でやると決めていた。
大丈夫。クリストファーさんの言っていた通り焦らないで慎重に回復魔法を使えばいい。それに隣の部屋で診察しているアイラが何かあったら来てと言ってくれた。
前の会社なんて誰も助けてくれなかったのにアイラは優しいな。そんなことを思っているとノックの音が聞こえてきた。
「はいどうぞ」
「失礼するぜ。いてて」
入ってきたのは痛そうに顔をしかめるグレーの短髪が特徴的なイケオジだった。右腕を怪我しているのか肩から布で吊っており、巻いた包帯には血が滲んでいる。
「今日はどうしましたか?」
「いやな。俺は建設現場で働いてるんだが、ついさっき作業中に落ちちまってよ。俺は大丈夫だっつってんのに若い奴らが治療院へ行けってうるさくてな。はぁ。歳は取りたくねぇなぁ。昔はこんなドジは踏まなかったのに。おっと。ねえちゃんにそんなこと言っても仕方ねぇよな」
本人が大丈夫って言ってたならそこまで酷い怪我ではないのかな。包帯に血が滲んでるから落ちた拍子に切ったといったところだろうか。
「じゃあ回復魔法を使いますので包帯を外しますね。痛かったら言ってください」
「おう。こんくらい唾付けときゃ治るってのにな」
なんか昔気質というか江戸っ子みたいな人だ。作業中に落ちたって言ってたし鳶職とかそっち系な雰囲気がする。そんな風に考えながら包帯を外した私は、絶叫マシンに乗った時のように鳩尾の辺りが恐怖でヒュンとした。
「なにが唾付けときゃ治るですか! めちゃくちゃ大怪我ですよこれ!」
悪くて骨折くらいに考えていたのに実際は血まみれの腕から折れた骨が少しだけ飛び出していた。キツく巻かれた包帯が外されたことで血もドバドバ出ているし、この怪我で良く大丈夫なんて言えたものだ。
怪我の生々しさに意識が遠のきそうになるけど、グッと歯を食いしばり私は回復魔法を発動した。ミミルちゃんの時はたまたまだったらどうしようと思ったけど、無事に発動してくれたようで腕は逆再生のように治っていく。
「ほぉ。こりゃ凄いもんだな。一ヶ月は仕事できないって覚悟してたのに、これなら明日から働けそうじゃねえか」
私の回復魔法はかさぶたすら残さないようだ。怪我なんてなかったような腕を見て感心するような声があがっていた。
「せめて明日は大事をとって休んでください。怪我は治っても失った血は戻りませんから」
「治癒魔法師のねえちゃんがそう言うなら明日は大人しくしとくか。とにかく助かったぜ。建てなきゃいけない家があって俺が動けないと大変だったんだ」
「やっぱり職人さんだったんですね」
「おう。俺はこの街で建築関係をやってるジェイクだ。治してもらったお礼にねえちゃんが家を建てる時は安くするから、その時はぜひご贔屓に頼むわ。本当にありがとよ。世話になったな」
そう言うとジェイクさんはガッハッハと笑って診察室を後にした。それにしても家かぁ。日本に帰れないなら建てるのも視野に入れる必要があるかもしれない。
……本当に帰れないのかな。最近は結婚はまだかと若干煩わしくなっていた両親だけど、それでもせめて最後にもう一度会いたい。これから先のことを考えると少しセンチメンタルな気分になってしまった。
これは良くないぞ私。ここに来るのは怪我や病気の人なんだ。回復魔法に集中しないと患者さん達に申し訳ない。
両頬を軽く叩いて治療に集中する。そのおかげか特に大きな問題もなく今日の診察を終えることができた。というか一番の重症がジェイクさんだったので、それを最初に治したことで度胸がついたように思える。
控え室に行くと先に診察が終わっていたのかアイラがグッと伸びをしている所だった。
「ハルカおつかれ。治療してみてどうだった?」
「おつかれアイラ。最初に治した人が高所から落ちたみたいで腕から骨見えててさ。びっくりして血の気が引いちゃったよ」
「あー。それは焦るね。そんな重症を治しちゃうなんてさすがは黒の聖女」
「その呼び方はやめてってば」
なんにせよ回復魔法が無事に使えて本当に良かった。ホッと胸を撫で下ろした私は仕事終わりの開放感のままに、アイラとダラダラ雑談するのだった。
10
あなたにおすすめの小説
乙女ゲーの世界に聖女様として召喚されたけど興味がないので妹に譲ります
ゆずぽんず
恋愛
ある日、ユウとチカの姉妹が乙女ゲームの世界に聖女様として召喚された。
好きなゲームの世界に入れたと喜ぶ妹のチカ。
本来、聖女様として召喚されるのだったの一人。どちらかが死に、召喚された。
妹のことが大切な姉のユウは、妹がこの世界にいたいのならば私が偽物となってこの世界から消えようと決意する。
*乙女ゲーマーによる小説です。乙女ゲーになろう設定混ぜ込んでみました。
*乙女ゲーによくある設定(共通ルートやバッドエンドなどのよくある設定)の説明があります。分かりにくかったらすみません。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!
Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。
なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。
そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――?
*小説家になろうにも投稿しています
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる