恵麗奈お嬢様のあやかし退治

刻芦葉

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群馬は草津の垢嘗退治

草津温泉の異変


 来たる当日、二人は草津温泉に行くために上野駅へと向かった。上野からは草津温泉の最寄駅である、長野原草津口駅に一本で行ける特急電車が出ている。

 しかしその電車は平日は二本しか運行してないため逃すと一大事だ。そのため美憂は立ち食い蕎麦のお店にふらふらと近寄っていく恵麗奈を引きずり、なんとか無事に長野原草津口駅へと到着した。

 そこからバスで三十分ほど揺られて二人は草津温泉へとたどり着いた。バスを降りて早速漂ってくる温泉らしい香りに恵麗奈は顔をしかめる。

「硫黄臭いですわね」

「これって実は硫黄の臭いじゃないらしいよ。正しくは硫化水素ガスの臭いなんだって」

「どちらにせよ臭いのは変わりませんわ」

 そのまま街を歩く二人だったが、すぐに異変に気づいた。平日とはいえ観光地である草津温泉は混雑していることを予想していたのだが、その割にはやけに人が少ない。

 その上温泉の匂いの中に硫化水素臭さとは違った、なにやらジメジメとした嫌な匂いを感じる。その匂いに心当たりのあった美憂が記憶を辿ると、河童を追っている時に感じたドブ臭さを思い出した。

 毛色は違うがどこか似たような匂いに二人の脳裏に残穢という言葉が浮かぶ。その考えが正しければ事態は想像以上に悪くなっている。

 まだ草津温泉に足を踏み入れて間もないのだ。それなのに残穢という妖怪の残り香を感じるのならば、予想以上に垢嘗の力は強い。

「これは危険な戦いになるかも」

「先にお土産を見ようと思っていましたが急いだ方が良さそうですわね。まずは旅館に向かいましょう」

 情報では垢嘗が出没した旅館は草津温泉の中でも奥の方に存在するようだ。そっちの方へ足早に向かうと嫌な匂いがどんどん濃くなってくる。

 まばらに存在する観光客も無意識にそれを感じているのか、最初から少なかった人の数が奥に進むにつれて更に減っていく。そして辺りに他の観光客がいなくなった頃に現場に着いた。

「ここみたいだね」

 スマホのナビアプリを頼りに到着したのはおもむきのある大きな旅館だった。敷地には松の木や枯山水などがあり、泊まろうとすればかなりの金額が飛んでいくことになりそうだ。

 それなのに外から見た感じ他の客の気配はなく、陽が当たっているはずなのに、どこか薄暗く陰鬱な雰囲気が拭えない。

 それもそのはずだった。二人の目には旅館に渦巻く強い瘴気が見えているのだから。森や川を移動していた河童と違い、垢嘗は風呂場に棲みつく性質からなのか、体から発した瘴気は旅館の中に留まり続けている。

 そのせいで綺麗なはずの旅館がゲームに出てくる魔王城のように見えて、二人の頬に冷たい汗が流れた。美憂がネットで調べた限りでは、垢嘗というのは風呂場に溜まった垢を食べるだけの比較的無害な妖怪のはず。

 それがどうなれば草津温泉一帯に残穢を振り撒く、化け物のような存在に成長するのか見当も付かない。しばらく無言で旅館を見つめていると、入り口の引き戸がガラリと音を立てて開いた。

「お客様ですか?」

 そう声をかけてきたのは二十代前半と思われる少しあどけなさの残る女性だった。彼女は旅館の従業員のようで仲居姿で不思議そうにこちらを見ている。

 なにせドレス姿の金髪少女とウサ耳パーカーの黒髪少女が、門の前で旅館を呆然と見上げているのだ。本来なら不審者として警戒されてもおかしくはなかった。

「すいません。あまりの豪華さに見惚れていました。予約していた亜澄と言います」

「ふふ。お褒めいただきありがとうございます。亜澄様ですね。お待ちしておりました。私は湯川ゆかわと申します」

 案内された玄関には旅館にありがちな巨大な木の置物や動物の剥製などが置かれている。床や壁はピカピカに磨かれ綺麗にされているのだが、二人の目にはヘドロのようにベットリとこびりついた残穢があちこちに見えていた。

 受付を済ませて二人は客室に案内してくれる湯川に着いていく。その時湯川がやけに左右にフラフラと千鳥足のように歩いていて、その様子を変に思って見ていた美憂はあることに気づいた。

「こちらがお客様のお部屋でございます。なにかございましたらお気軽にそちらのお電話でお声がけください。それでは失礼致します」

 通されたのは畳の良い匂いに包まれた和室だった。小さなテレビや横に長い金庫など古き良き旅館といった雰囲気で、美憂は両親が生きていた頃に行った家族旅行を思い出した。

 窓からは大きな山とその手前に綺麗な川が見えており景色が良い上等な部屋だ。その部屋に案内してくれた湯川が去り、恵麗奈と二人きりとなったタイミングで美憂は気づいたことをポツリと呟く。

「湯川さん。見える人みたいだね」

 案内してくれている際の千鳥足には理由があった。彼女が廊下を大きく逸れて歩く時は決まって、ヘドロのような濃い残穢があったのだ。

 初めは偶然かと思ったが彼女は残穢を的確に避けていく。そんな芸当は俗に言う霊感がある人間にしか行えない。

「そうですの? それなら湯川さんがこの旅館で働くのはかなり大変でしょうね。いつ具合が悪くなってもおかしくはないですわ」

 退魔衆に入った二人にして顔を引きつらせるほどの瘴気の濃さだ。その中で働く湯川の大変さは容易に想像できた。

「どうします? 湯川さんに話を聞いてみましょうか?」

「うーん。彼女は旅館の関係者とはいえあんまり妖怪のことをおおやけにしたくないからね。とりあえず女湯に向かってみてから考えよう」

「分かりましたわ」

 湯川に話を聞く前にまずは現場を見ることにした。そのまま垢嘗と遭遇して戦えれば、内密に依頼を終わらせることができる。そう結論付けた二人は浴衣とタオルを手に女湯へと向かっていった。
 
 
 
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