24 / 24
群馬は草津の垢嘗退治
垢嘗との対峙
女湯へと向かう道中は先程までの穢れが嘘のように綺麗になっていた。古い旅館ではあるのでところどころに傷はあったが、それは味というべき趣きで汚いという印象ではない。
「残穢がどこにもない。もしかしたら草津温泉全体もいつも通りになってるのかもしれないね。それなら考えたくはないけど残穢は全部女湯に?」
「その可能性が高そうですわね。確か垢嘗は汚れを食べる妖怪だったはず。それならあの残穢は自らの食事を集めるためだった可能性がありますわ」
残穢が女湯の方へ移動したことから察するに恵麗奈の考察は的を射ているように思えた。あの残穢は周りの汚れを集めるためのもの。とするならば全ての汚れが集まった女湯の現状など考えたくもない。
「マスクとか持ってくれば良かったな。今日ほど鼻風邪を引いていたかったと思う日はないよ」
「消臭効果のある呪具とか持っていませんの?」
「消臭って呪具から真逆の場所にあると思わない?」
消臭といった綺麗なイメージと呪いのこもった道具は間違いなく似合わない。不浄の物を断つ呪具ならばフードの中に入っているのだが、それを使えば消臭されるのかと聞かれれば微妙な所だった。
女湯の暖簾の前に着いたのが特段変わった様子がない。問題は女湯の中だと意を決して脱衣所に入ると二人は思わず立ち止まった。
「なに……あれ」
美憂が指差した先、磨りガラスにはドス黒くなった風呂場の光景がぼんやりと映し出されている。先程の綺麗な風呂場が洞窟のように真っ黒に様変わりしていた。
ぺったん。ぺったん。
なぜか音の無くなった脱衣所で風呂場の方から何かが這い回るような音が聞こえてきた。その音は反響するように大きく響き、不気味さをより一層引き立てる。
ぴちゃ。ぴちゃ。
水音が聞こえた。最初は天井から落ちた水滴が鳴らす音かと思ったが、それにしては頻度が多いように思える。
「準備はよろしくて?」
「うん。やろうか」
二人は顔を見合わせ頷くと先を歩く恵麗奈が勢い良く磨りガラスを開いた。
「うっ」
目の前の光景に思わず美憂が呻く。ドス黒いと感じたのは全てカビや垢といった汚れだった。床どころか壁に天井と全てに張り付けられ、そのせいで灯りがあるのに洞窟のように暗い。
一度来た時の綺麗だった風呂場とはかけ離れた光景に脳が理解を拒む。あまりにも気持ち悪い光景に二人の腕に鳥肌がブワッと広がった。
臭いもかなり強烈でその原因は浴槽にあった。汚泥のような穢れが温泉のように溜められて、ごぽりごぽりと底から泡を立てる様子は長年放置された下水道のようだ。
「美憂! 上ですわ!」
あまりの汚さに呆然としていた美憂だったが恵麗奈の叫び声に慌てて上を見た。何個かある浴槽、その中で一番遠い浴槽の真上の天井になにかがいる。
それは人型ではあるものの服は着ておらず、皮を剥がされたように全身が真っ赤に染め上げられていた。
ボサボサに生えた長い髪の毛は重力に従って垂れており、汚れ切った髪の間から触手みたいな真っ赤な舌が伸びて浴槽の穢れに浸かっている。
像が鼻で物を取るように長い舌で器用に穢れを掬うと口元へ持っていく。穢れを食べているのかぴちゃぴちゃと音を立てる音がやけに響いて聞こえた。
「あれが垢嘗か。生理的嫌悪で近寄りたくないんだけど」
「そうは言ってられませんわ。牛頭鬼! 力を貸しなさい!」
恵麗奈の額に角が生えてドレスが真っ黒に染め上がる。しかし牛頭鬼に力を借りるための叫びが聞こえたのか、垢嘗は食事を中断するとぐりんとこちらに顔を向けてきた。
赤黒い顔に瞼を切り取られたようなぎょろりとした大きな目が爛々と光る。こちらを映す黒目はまんまるに見開かれた大きな目からは不釣り合いなほどに小さい。
頬まで裂けた口からはダラリと長い舌が垂れ下がり、舌先からはヨダレなのか茶色い雫がポタポタと垂れていた。
ぺったん! ぺったん!
垢嘗は重力を無視するように天井に張り付いた状態で這うように近づいてくる。口元は大きく釣り上がり、笑顔のような形相で近づいてくる垢嘗はとにかく不気味だった。
「天井にいられるとやりにくいな。銃を撃って旅館の天井に銃痕残したら問題になりそうだし。恵麗奈はなにか手段あったりしない?」
「それならちょうどいいのがありますわよ!」
恵麗奈は洗い場に手を向けた。すると全てのシャワーから勝手に水が流れ出し、その水を一つにまとめて大きな水球を作り出す。
「貴方汚すぎますわ! 一度洗い流した方がよろしくてよ!」
水球をこちらに迫ってくる垢嘗にぶつけると、怯んだように天井から床へと降ってきた。
「凄いね。いつの間にそんな超能力みたいなことできるようになったの?」
「河童を食べたお陰ですわ。あれで力を取り込んだので、わたくしある程度の水なら操作出来るようになりましたの」
恵麗奈は喰らった妖怪の力の一部を使用することができる。先程の水球は河童の力とのことだが、もし岩手で河童がこれを使えば苦戦していただろう。川ではなくて森の中で戦えたことに改めて源三に感謝した。
「よし。それじゃ退魔の時間だ。湯川さんと今も起きない被害者達のため。そして何より百万円のために狩らせてもらおう」
美憂はフードを被り真っ赤な瞳を浮かび上がらせる。
垢嘗退治が始まった。
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
以前の作品を読んでいた者です。更新がなくなって寂しくなっていた時に近況ボードの更新を見て読み始めました。こちらは少しダークな感じといえばいいのでしょうか?でも前と同じで心理描写みたいな部分が丁寧なので、読んでいてホッコリする部分も多く先に期待してます。これからも体調に気をつけながら書いてください。それとできたら前の作品の更新もお願いしたいです。
ハイドラ様ご感想ありがとうございます。
今回の作品も読んでいただき本当に嬉しいです。おっしゃる通りで前作に比べれば、少し暗い部分があるかもしれません。
でもその分、可愛い女の子がはしゃいだりする日常も差し込んでいく予定なので、今後も見守ってくださると嬉しく思います。
そして前作の更新が滞っていて申し訳ありません。今は今作に力をいれたいので、すぐに更新という訳にはいきませんが、なるべく早くお届けできればいいと考えています。
これからもよろしくお願いします。