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第1章
寝過ごし
しおりを挟むやばい...寝てた......
放課後、いつも通り別館に行ったが、そこに真生はいなかった。そのうちくるか、と定位置に座り待つことにした。―のだが、そのまま眠ってしまったようで、時計の針はすでに十時を指していた。
どんだけ寝てんだよ...
寮の食堂はちょうど十時まで。結局真生は来ず、夕食も食べ逃したわけだ。
本当は九時以降の外出には許可がいるのだが、今はルールより空腹が深刻だ。管理人の目を盗み、近くのコンビニに行く。
"近く"のコンビニ...?
一番近いところに行ったはずなのに三十分もかかった。立地悪すぎだろ、と呟きながら歩く。
...久しぶりに敷地の外出たかも
別に普段ストレスを感じているという訳ではないが、他に人のいない夜道の開放感が心地よく、歩くペースを落とす。
昼間、生徒会室の窓から自分に向けられた理久の敵意に満ちた視線を思い出した。その隣で、真生が怯えているように見えたのは気のせいだろうか。
嫉妬でそう見えてんのかな...
そういえば、真生先輩て、理久先輩にもピアノのこと隠してるんだよな...
そう考えると、真生にとって理久は単に仲の良いいとこという訳ではないのかもしれない。
そんなことを考えているうちに寮の前まで来ていた。見つからないように部屋まで戻る。余程ダラダラ歩いていたのか、もう日付が変わりそうだ。
あーー...ふろ......
指定の時間を過ぎるとシャワーからお湯がでなくなる。水で我慢するしかない。それでも入らないよりはいいだろうと思い、ふろ場に向かった。
ふろ場は真っ暗で手探りで電気のスイッチを探すがなかなか見つからない。ようやく指の先に突起が触れた。それを押すと、脱衣場ではなく浴室の電気だけがついた。
「え......石川、くん......」
急に明るくなったことに驚いたのか、パッと顔をあげた真生と目が合う。シャワーの真下、床に座り込んでいた。
「っ真生先輩!」
服は着たまま、真生に駆け寄る。
「なんで真っ暗なまんましゃがみこんでるんですかっ.....!」
肩に手を置いた瞬間、ぱしんと払われた。驚いてまじまじと見つめると、真生の肩は震えていた。
「こな...いでっ...!見ないでっっ...見ないで......」
首や腕、太ももについた手の跡が目に入る。
あぁ...そういう......
妙に冷静に納得すると同時に、真生の動きが不自然なことに気がついた。
「先輩、腰立たないんでしょ。もしかして立つのもムリ?」
「......ッ」
「そんなんでどうやって一人で身体洗って部屋まで戻るんですか」
拓斗から身体を隠すように、足をずらそうと身を捩る真生を見て、怒りにも苛立ちにも似た感情で息が苦しくなった。
「だいじょぶ、だからっ...」
「...ダメです」
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