< 小話まとめ >悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花

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二章

35話 惜しい思い / アントニー国王

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ユーグ以外のシュレッサーの人たちは剣より実験です。
御前試合の間に楽しそうに花火の仕込みをしています。


< 小話 >

――ある観覧で

横を見れば、息子と甥っ子が必死にに声援を上げている。送り先は銀の髪をした青年剣士。二本の剣を変幻自在に操う。
懐かしさに苦笑いして、息子の護衛騎士を見る。向こうもこちらを見て苦笑いしている。思い出話がしたくて、手招いてい呼ぶ。

「懐かしい剣技だな」

 狸の横で柔らかく微笑む美しい女性を見る。社交界で美しい花にたとえられた女性。その身を望む者は多かったが、彼女の家の職を疎んじて妾にと望むものばかりだったと聞く。
 面白い噂を拾ってきたのは思い出を語る護衛騎士だ。シラリリスの君は剣で勝てば手に入るそうですよ。本気で欲しかったわけではないが、面白半分で噂に乗ったのは若さだと思う。

「はい、陛下。ご婦人と手合わせは、若気の至りでしたね。でも、惜しいです」

 手合わせを申し込んだ護衛騎士に、身分を隠して付いていった。華やかな舞踏会の音楽を遠くにきく王城の裏庭で、二本の得物を持った月の女神のような女性に見惚れた。
 剣の強い方が好ましいです。勝てば、お望み通りにいたします。でも負けたら二度と関わらないで下さいませ。そう言った女性は強かった。

「同じ剣筋だな。息子の方が早いか? よくまあ、ここまでの剣士に育てたな」

 相対する公爵子息の突きも鋭いが、二本の剣を扱う剣士の動きは目をひいた。それを育てたのは、間違いなくあの美しい女性。
 舞踏会の夜、男二人で腰を落として、眼前に剣を突きつけられて思った。女にしておくのはあまりに惜しい。
 もう一人、女にしておくのは惜しいと思った姉をみる。静かに笑みをたたえて内側に激しい炎をもつ姉。ここぞという判断の強さは、政で側に置きたいと何度も思った。

「古い決まりは、惜しいを溢すことが多すぎる」

 何も変えずとも、父は良い王だった。惜しいと思う世に変革を望む私は良い王になれるか?
 目指す国の終着点の評価はわからない。それでも、進みたい方向は決めていた。

「共に手痛い思いをした私は、陛下の治世が良き未来を呼ぶと信じております」

 護衛騎士の言葉に頷く。進む未来は容易く手には入らないであろう。推してくれる者の期待を裏切ることはすまい。
 月の女神の息子の勝負を我が子と甥が、己の身を思うように声援を送る。その姿に更なる飛躍の次代の夢を見る。

「でも、納得いかぬのは、なぜに剣をとらぬ狸を選んだかだな」

「ですね……剣の強い方をお望みでしたのに。狸の策が上手かったのでしょうかね?」

 この国一番の策略家で闇の魔力の使い手は、剣はからきしの男だ。剣を持たぬ手が美しい人の手を握る。
 さてさて、見せつけた幸せの分はしっかり働いてもらうとしよう。
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