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チャック、戦闘を開始する
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「じゃあ、ジョウジの言ってることは本当なんだな。あんたは、村からホムンクルスをさらったのか」
ロクスリー伯爵に向かい、チャックは語気鋭く迫った。だが、伯爵は表情を崩さない。
「だからどうした? 私は、セドリックを救うためならば、国王でも殺してみせる。今の私が、父親としてしてやれる唯一の事なのだ」
伯爵はチャックに言うと、ジョウジの方を向いた。
「貴様が何者かは知らん。だが、ホムンクルスは渡せん。あれを切り刻み、体の秘密を解き明かす。そうすれば、セドリックの病気が治せるかもしれんのだ。私の邪魔をするのなら、貴様を殺す」
そう言うと、伯爵はジョウジを睨みつけ長剣を一振りした。
だが、そこで予想だにしていなかったことが起きる。
「父上……もう止めてください……僕のために……誰かを傷つけないで……」
あまりにも弱々しい声。だが、その声が聞こえてきた瞬間、皆の動きが止まった。
杖をつきながら、中庭に進み出てきた者はセドリックだった。青白いシワの目立つ顔を苦痛で歪ませながら、必死の形相で歩いて来る。
その瞬間、チャックが血相を変えた。
「セドリック! 部屋で大人しく待ってろと言っただろうが!」
怒鳴りつけると同時にセドリックに近づき、自らの肩にもたれかからせる。今の話を、聴かれてしまったのか。
だが、セドリックは荒い息をつきながら、なおも伯爵に訴える。
「父上……もう……いいです……僕のために……他の人を……」
そこまで言うと、セドリックは咳き込んだ。チャックが慌てて背中をさする。彼は正直、この状況をどう収めればいいのかわからなかったが……はっきりしていることはひとつ。今は、セドリックを部屋に戻さなくてはならない。
「セドリック、部屋に戻ろう」
「まだです……父上……もう止めてください」
セドリックは必死で、伯爵に懇願する。だが、伯爵の表情は変わらない。
「お前は部屋に戻っていろ。そもそも、ホムンクルスなど人ではない。人形のようなものだ。死んでも構わん──」
「ホムンクルスは人間だ! 人形じゃねえ!」
不意に怒鳴り声を上げ、会話に割って入る者がいた……ジョウジだ。凄まじい形相で、伯爵を睨みつけている。
「あのホムンクルスには、感情がある。喜んだり、悲しんだりするんだよ。あいつは人間だ! 紛れもなく人間なんだよ! その人間の命を、貴様の好き勝手にされてたまるか!」
ジョウジは吠えた。その瞳は怒りに満ちていた。チャックはその勢いに呑まれ、思わず立ち止まる。セドリックを部屋に戻すことも忘れ、成り行きを見守っていた。
だが、それは悲しき過ちだった。
「父上……もう……止めてください……もう……」
声を発した直後、急にセドリックは苦しみ出した。両手で胸を押さえ、もがき始める。
「セドリック! どうしたんだ! しっかりしろ!」
チャックは、泣きそうな顔で叫ぶ。同時に、伯爵も駆け寄って来る。先ほどまでの、仮面のような顔つきが嘘のようだ。
「セドリック! まだ死ぬなぁ!」
怒鳴る伯爵。しかし、セドリックには聞こえていないようだった。両手で、胸をかきむしるような仕草。直後に手を伸ばし、伯爵に触れようとする──
だが、その手から力が抜けた。だらんと垂れ下がる。セドリックは、伯爵の目の前で息絶えた。
伯爵は無言のまま、息子の亡骸をじっと見つめていた。
チャックも無言のまま、その場に立ち尽くしていた。優しくて、素直なセドリック。本当に、いい奴だった。こんな形で死なせたくはなかった。あまりに衝撃的な話を聞かされたため、心臓がもたなかったのだろう。ただでさえ、体が弱く衰弱していたのだ。そんな体で、ここまで歩いてきて、挙げ句に衝撃的な話を聞かされた。
俺のせいだ。
俺が、セドリックと一緒に部屋に留まっていれば、こんなことにならなかった。
「貴様のせいだ」
伯爵の声が聞こえた。チャックはびくりと反応し、彼の方を見る。
だが、伯爵はチャックを見ていなかった。
「貴様さえ、現れなければ……」
言いながら、伯爵は立ち上がる。その瞳は、ジョウジを捉えていた。
「貴様さえ来なければ、セドリックは死なずに済んだ!」
直後、その体に変化が生じた。肉体か歪み、潰れ、膨らみ、人ならざる姿へと変わっていく。
兵士たちは目を白黒させ、その場に立ちすくんでいた。ジョウジも呆然とした表情で、この奇妙な光景を見ている。
やがて、伯爵は違う生き物の姿になった。狼と人間を、力ずくで掛け合わせたような姿。黒く長い体毛に覆われ、狼の頭と人間のような体つきをした者に変わった。
「貴様だけは許さん! 殺してやる!」
ジョウジに向かい、伯爵は怒鳴った。異様な声だ。その声が合図になったかのように、周りにいた兵士たちはビクリと反応する。
次の瞬間、血相を変えて逃げ出していく──
伯爵は逃げる者たちなど気にもせず、ジョウジに向かい進んでいく。だが、彼の前に立ちふさがった者がいた。
「言ったはずだぜ、伯爵。セドリックが死んだら、俺があんたを殺すと。ジョウジ、お前は関係ない。とっとと失せろ!」
伯爵とジョウジに怒鳴った直後、チャックの体も変貌していく。
灰色の体毛に覆われた、人狼の姿へと。
チャックは唸り声を上げながら、低い姿勢で構えた。相手の周囲をぐるぐる回り、出方を窺う。
すると、伯爵は上を向き吠える。威嚇の雄叫びだ。理性を保つことすら難しくなっているらしい。体は、チャックよりも遥かに大きい。まるで熊のようだ。それに比例して、殺傷能力もチャックより高いだろう。まともに戦えば、勝ち目はない。
だが、自分がケリをつけなくてはならないのだ。目の前にいる怪物は、ライカンにより産み出された存在なのだから。
伯爵は、牙を剥き出し唸った。突進し、鉤爪の伸びた手を振るう。
だが、チャックはそれを避けた。歯を剥き出して見せる。その動きに、伯爵はさらに猛り狂った。なおも力任せの攻撃を仕掛ける──
チャックは、地面を転がり攻撃を避けた。直後、再び歯を剥き出して挑発する。真正面から戦ったら、自分に勝ち目はない。あの両手で掴まれたら、一瞬で首をねじ切られてしまうだろう。ひたすら防御に徹し、伯爵がヘマをするのを待つ。
ただし、自分が一度でもヘマをすれば……その瞬間に、勝敗は決する。
ロクスリー伯爵に向かい、チャックは語気鋭く迫った。だが、伯爵は表情を崩さない。
「だからどうした? 私は、セドリックを救うためならば、国王でも殺してみせる。今の私が、父親としてしてやれる唯一の事なのだ」
伯爵はチャックに言うと、ジョウジの方を向いた。
「貴様が何者かは知らん。だが、ホムンクルスは渡せん。あれを切り刻み、体の秘密を解き明かす。そうすれば、セドリックの病気が治せるかもしれんのだ。私の邪魔をするのなら、貴様を殺す」
そう言うと、伯爵はジョウジを睨みつけ長剣を一振りした。
だが、そこで予想だにしていなかったことが起きる。
「父上……もう止めてください……僕のために……誰かを傷つけないで……」
あまりにも弱々しい声。だが、その声が聞こえてきた瞬間、皆の動きが止まった。
杖をつきながら、中庭に進み出てきた者はセドリックだった。青白いシワの目立つ顔を苦痛で歪ませながら、必死の形相で歩いて来る。
その瞬間、チャックが血相を変えた。
「セドリック! 部屋で大人しく待ってろと言っただろうが!」
怒鳴りつけると同時にセドリックに近づき、自らの肩にもたれかからせる。今の話を、聴かれてしまったのか。
だが、セドリックは荒い息をつきながら、なおも伯爵に訴える。
「父上……もう……いいです……僕のために……他の人を……」
そこまで言うと、セドリックは咳き込んだ。チャックが慌てて背中をさする。彼は正直、この状況をどう収めればいいのかわからなかったが……はっきりしていることはひとつ。今は、セドリックを部屋に戻さなくてはならない。
「セドリック、部屋に戻ろう」
「まだです……父上……もう止めてください」
セドリックは必死で、伯爵に懇願する。だが、伯爵の表情は変わらない。
「お前は部屋に戻っていろ。そもそも、ホムンクルスなど人ではない。人形のようなものだ。死んでも構わん──」
「ホムンクルスは人間だ! 人形じゃねえ!」
不意に怒鳴り声を上げ、会話に割って入る者がいた……ジョウジだ。凄まじい形相で、伯爵を睨みつけている。
「あのホムンクルスには、感情がある。喜んだり、悲しんだりするんだよ。あいつは人間だ! 紛れもなく人間なんだよ! その人間の命を、貴様の好き勝手にされてたまるか!」
ジョウジは吠えた。その瞳は怒りに満ちていた。チャックはその勢いに呑まれ、思わず立ち止まる。セドリックを部屋に戻すことも忘れ、成り行きを見守っていた。
だが、それは悲しき過ちだった。
「父上……もう……止めてください……もう……」
声を発した直後、急にセドリックは苦しみ出した。両手で胸を押さえ、もがき始める。
「セドリック! どうしたんだ! しっかりしろ!」
チャックは、泣きそうな顔で叫ぶ。同時に、伯爵も駆け寄って来る。先ほどまでの、仮面のような顔つきが嘘のようだ。
「セドリック! まだ死ぬなぁ!」
怒鳴る伯爵。しかし、セドリックには聞こえていないようだった。両手で、胸をかきむしるような仕草。直後に手を伸ばし、伯爵に触れようとする──
だが、その手から力が抜けた。だらんと垂れ下がる。セドリックは、伯爵の目の前で息絶えた。
伯爵は無言のまま、息子の亡骸をじっと見つめていた。
チャックも無言のまま、その場に立ち尽くしていた。優しくて、素直なセドリック。本当に、いい奴だった。こんな形で死なせたくはなかった。あまりに衝撃的な話を聞かされたため、心臓がもたなかったのだろう。ただでさえ、体が弱く衰弱していたのだ。そんな体で、ここまで歩いてきて、挙げ句に衝撃的な話を聞かされた。
俺のせいだ。
俺が、セドリックと一緒に部屋に留まっていれば、こんなことにならなかった。
「貴様のせいだ」
伯爵の声が聞こえた。チャックはびくりと反応し、彼の方を見る。
だが、伯爵はチャックを見ていなかった。
「貴様さえ、現れなければ……」
言いながら、伯爵は立ち上がる。その瞳は、ジョウジを捉えていた。
「貴様さえ来なければ、セドリックは死なずに済んだ!」
直後、その体に変化が生じた。肉体か歪み、潰れ、膨らみ、人ならざる姿へと変わっていく。
兵士たちは目を白黒させ、その場に立ちすくんでいた。ジョウジも呆然とした表情で、この奇妙な光景を見ている。
やがて、伯爵は違う生き物の姿になった。狼と人間を、力ずくで掛け合わせたような姿。黒く長い体毛に覆われ、狼の頭と人間のような体つきをした者に変わった。
「貴様だけは許さん! 殺してやる!」
ジョウジに向かい、伯爵は怒鳴った。異様な声だ。その声が合図になったかのように、周りにいた兵士たちはビクリと反応する。
次の瞬間、血相を変えて逃げ出していく──
伯爵は逃げる者たちなど気にもせず、ジョウジに向かい進んでいく。だが、彼の前に立ちふさがった者がいた。
「言ったはずだぜ、伯爵。セドリックが死んだら、俺があんたを殺すと。ジョウジ、お前は関係ない。とっとと失せろ!」
伯爵とジョウジに怒鳴った直後、チャックの体も変貌していく。
灰色の体毛に覆われた、人狼の姿へと。
チャックは唸り声を上げながら、低い姿勢で構えた。相手の周囲をぐるぐる回り、出方を窺う。
すると、伯爵は上を向き吠える。威嚇の雄叫びだ。理性を保つことすら難しくなっているらしい。体は、チャックよりも遥かに大きい。まるで熊のようだ。それに比例して、殺傷能力もチャックより高いだろう。まともに戦えば、勝ち目はない。
だが、自分がケリをつけなくてはならないのだ。目の前にいる怪物は、ライカンにより産み出された存在なのだから。
伯爵は、牙を剥き出し唸った。突進し、鉤爪の伸びた手を振るう。
だが、チャックはそれを避けた。歯を剥き出して見せる。その動きに、伯爵はさらに猛り狂った。なおも力任せの攻撃を仕掛ける──
チャックは、地面を転がり攻撃を避けた。直後、再び歯を剥き出して挑発する。真正面から戦ったら、自分に勝ち目はない。あの両手で掴まれたら、一瞬で首をねじ切られてしまうだろう。ひたすら防御に徹し、伯爵がヘマをするのを待つ。
ただし、自分が一度でもヘマをすれば……その瞬間に、勝敗は決する。
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