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チャック、墓参りをする

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「セドリック、こいつは山猫だぞ。もっと可愛い仔猫を連れて来てやりたかったけどな、こんなガラの悪い奴しかいなかったんだよ」

 言いながら、チャックは隣にいる山猫の頭を撫でた。山猫は喉をゴロゴロ鳴らしながら、チャックのそばに丸くなって座っている。安心しきった様子だ。チャックは微笑み、背中を撫でた。



 今、チャックがいるのは小高い丘だ。緑に覆われた草原は美しく、時おり吹く風が心地よい。地面には、短剣と長剣が突き刺さっている。
 そこには、セドリックとロクスリー伯爵が眠っているのだ。

「セドリック……お前、旅に出たがってたよなあ。ここなら、あちこち見えるだろ。動物たちもいる。寂しくないんじゃないか」

 チャックは、墓に向かい語りかける。その時、山猫の表情が変わった。起き上がり、低く唸りながら毛を逆立てる。
 そちらを見ると、山犬の群れがいた。こちらをじっと見ているが、近寄ろうとはしない。

「大丈夫だ、安心しろ。ここでは、俺が手出しはさせないから」

 言いながら、チャックは山猫の背中を撫でた。すると、山猫の顔つきが変わっていく。それでも警戒心は解いていないらしい。油断なく、山犬を睨んでいる。
 チャックは立ち上がり、山犬たちに語りかける。

「お前ら、ここは俺の友だちが眠る場所だ。ここでの争いは許さねえ。大人しく失せろ」

 もちろん、野生の獣にその言葉は通じない。だが、チャックの意思は通じた。山犬の群れは向きを変え、走り去って行く。
 チャックは去って行く群れを、羨ましそうに眺めていた。自分も昔は、ああやって仲間たちと共に野山を駆け巡っていたのだ。
 改めて、この山で起きた一連の出来事を振り返った。思えば、奇妙な偶然が重なり、この一件に首を突っ込んでしまったのだ。気がついてみると、殺されたライカンの仇を討つ羽目になっていた。
 だが、チャックはそんなことを望んではいなかった。彼が望んでいたもの、それはセドリックに平穏で楽しい余生を過ごさせることだった。
 しかし、結局こうなってしまった。
 未だに、チャックは考えてしまう。自分が違う行動をとっていれば、セドリックは助かったのかもしれなない。
 もし、セドリックに狼憑きを発症させられていれば……と。気づかれないうちに変身し、眠っている間に噛みついていれば、セドリックはその時の傷により死んだかもしれない。
 しかし、狼憑きを発症して助かったかもしれないのだ。いずれ理性をなくすとしても、それまでは元気に過ごせる。一緒に外で遊んだり、旅をしたりは出来たはずだ。
 残された余生を、力いっぱい生きさせてあげられたのに──



 その時、腕の中の山猫が動いた。もぞもぞしたかと思うと、ぴょんと飛び降りる。振り返りもせずに、森の中へと走って行ってしまった。

「何だ、お前もいなくなっちまうのかよ」

 チャックは、寂しげに呟いた。そう、自分はひとりだ。ライカンの村から追放され、人間に混じって生きている。だが、自分がライカンだと知れば、確実に離れていくことだろう。
 いや、離れていくだけではすまない。狩り立てられることとなる。下手をすれば、自分の人相書きがあちこちに撒かれることにもなりかねない。
 もっとも、グレイとムーラン、そしてジョウジとココナは自分の正体を知りながらも、受け入れてくれた。セールイ村での、皆との共同生活は本当に楽しかった。
 しかし、それももうじき終わってしまう。

 これから、どうしようか。

 セールイ村には、いつまでも居られるわけではないのだ。グレイとムーランは、いったんバーレンに戻るらしい。ジョウジはココナを一緒に、しばらく旅をするつもりだと言っている。
 そして、自分は?

 その時、近づいてくる者の匂いを感知した。思わず苦笑する。この匂いは、自分の知り合いのものだ。

「ニャニャ? チャックさん、こんな所で何してますニャ?」

 声と共に現れた者、それはココナだった。尻尾をぴんと立て、いかにも楽しそうな表情でチャックを見上げる。

「ちょっと、な……お前こそ何しに来たんだよ?」

「遊びに来ましたニャ。ジョウジさんも、もうすぐ来ますニャよ」

 そう言って、ニッコリ微笑む。だが次の瞬間、その表情が変わった。天真爛漫な彼女には珍しい、真剣な顔つきになる。

「そうですニャ……チャックさんに、お願いしようと思っていたことがありましたニャ」

「お願いだあ? 何だよ、改まっちゃってさ。俺に出来ることなら、大抵のことはするぜ。さあ、言ってみな」

 そう言って、チャックも微笑み返した。すると、ココナは何かを言いかける。
 しかし、口を閉じ躊躇ためらうような素振りをみせる。いつもの、明るくて朗らかなココナらしからぬ仕草だ。チャックは首を傾げた。

「一体どうしたってんだよ。俺に出来ることなら、大抵のことはやってやるぜ。遠慮しないで言ってみろ」

「ニャニャニャ……」

 それでも、ココナはうつむいていた。
 ややあって、意を決したような表情で語り始める。

「お願い……したいことが……あるのですニャ……」




 
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