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ジョウジ、心を決める
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バーレンの街から北に進んだ場所に、集落の跡地がある。ジョウジとココナとホムンクルスは、そこで一休みしていた。
「お腹空きましたニャ。ジョウジさん、ごはん食べましょうニャ」
ココナの言葉に、ジョウジは皮袋を開け、中に入っている物を取り出した。
ジョウジの手のひらと同じくらいの大きさの丸パンと、皮で出来た大きな水筒が入っていた。丸パンの中には、干し肉や野菜が挟んである。サンドイッチだ。もっとも、この世界にサンドイッチなる言葉があるかは知らないが……奇妙なことに、何故か紐で縛ってあった。
だが、それよりも気になることがある。サンドイッチにしてはあまりに重いのだ。持った瞬間に、違和感を覚えた。
中に、何か別の物が入っている。
「ニャニャ! 美味しそうですニャ! 食べましょうニャ!」
サンドイッチを見た途端、ココナは目を輝かせる。だが、ジョウジは彼女を制した。ナイフを取り出し、サンドイッチを結わいている紐を切り中を見てみた。
丸パン、干し肉、レタスのような野菜などが入っている。
さらに、金貨が一枚。
「ニャニャニャ……金貨が入ってますニャ……グレイさんとムーランさんは、間違えて入れてしまったのですかニャ? 金貨は食べられないのですニャ」
不思議そうな顔で、ココナは首を傾げる。ジョウジは思わず微笑んだ。
「本当だよな。全く、ひねくれた奴らだよ。普通に渡せばいいのに
」
言いながら、ジョウジはバーレンのある方角を見つめる。グレイとムーランは、今もあの街で芸をしているのだろうか。
そして、お尋ね者として追われ続けていくのだろうか……あのふたりが、過去に何をしたのかは知らない。しかし、ふたりには幸せになってもらいたい。
「ジョウジさん……食べていいですニャ?」
物思いにふけるジョウジだったが、ココナの声により現実に引き戻された。見れば、物欲しそうな顔でパンや干し肉を見ている。ジョウジは苦笑し、パンの中に肉と野菜を挟んだ。
「ほら、食べていいよ。ちょっと金貨の味がするかもしれないがな」
「ありがとうございますニャ!」
ココナは、サンドイッチを受け取り食べ始めた。時おり「ニャニャ」という声を洩らしながら、美味しそうに頬張っている。
ジョウジは微笑みながら、他のサンドイッチからも金貨を取り除く。サンドイッチは全部で四つ。金貨は四枚。この世界において、金貨がどれくらいの値うちなのかは知らない。だが、かなりの値うちがあるらしい。旅をする上で、金は必要だ。
ジョウジは、ホムンクルスに視線を移した。微笑みながら、サンドイッチを差し出す。
「食べるか?」
「ありがとう」
ホムンクルスは頷き、サンドイッチを食べ始める。一方、ココナはあっという間に食べ終え、好奇心の赴くままに周囲を探検し始めた。廃屋の中を覗きこみ、匂いを嗅いでいる。
だが、不意にこちらを向いた。
「ジョウジさん! 誰かがこっちに近づいてますニャよ!」
「何だと……誰が来たんだ?」
言いながら、ジョウジは立ち上がった。まさかとは思うが、追っ手が来たのだろうか。
だが、その答えは想定外のものだった。
「この匂いは、チャックさんですニャ!」
やがて、とぼけた表情のチャックが現れた。ジョウジたちに向かい、ヘラヘラ笑いながら恭しくお辞儀をする。
「いやあ、皆さん。待っていてもらえたとは嬉しいね。いやあ、感激だよ」
「何やってんだよ、お前は……」
呆れたような表情で言葉を発したジョウジに対し、チャックは笑みを浮かべながら近づいて行く。
「何って、お前らのことが心配だから追いかけて来たんだろうが。お前らだけじゃ、危なっかしくて仕方ねえ。やっぱり、俺みたいなしっかり者が付いててあげないとさ。ところでさ、これ食べてみなよ」
そう言うと、チャックは布袋を差し出す。
「豚肉の蒸し焼きだ。美味いぞ」
「ニャ! 美味しそうな匂いですニャ!」
そばに居たココナが目を輝かせ、袋を見つめる。ジョウジは苦笑した。
「まったく、しょうがないな……」
チャックとココナとホムンクルスは、楽しそうに会話している。まるで、昔からの知り合いのように。
その様子を見ながら、ジョウジは考えた。
自分は、元の世界に戻り復讐するつもりだった。ユウキ博士を殺した連中を殺すという目的を果たそうと決めていた。
しかし、自分はこの世界で、繋がりが出来てしまった。
それに……この世界で、何人もの人間の命を奪ってしまった。
それら全てを無かったことにして、元の世界に帰ることなど出来ない。それだけは、してはいけないことだ。
自分は、この世界に骨を埋める。
ユウキ博士、本当にすみません。
今の俺には、あなたの仇は討てない。
あなたに言われた通り……俺はこの世界で、人間として生きていきます。
「なあジョウジ、ホムンクルスの名前はどうするんだよ?」
不意に、チャックが声をかける。ジョウジは面食らったような表情になった。
「な、名前?」
「そうさ。いつまでもホムンクルスなんて呼ばれたら、あんただって嫌だろ? ジョウジに名前を付けて欲しいだろ?」
そう言うと、チャックはホムンクルスの方を見る。ホムンクルスは、はにかみながら頷いた。
「うん……あなたに付けて欲しい」
「わかった」
ジョウジは下を向いた。ふと、幼い頃に観たロボットのアニメを思い出す。人工的に創られた女のアンドロイドが登場していた。名前は確か──
「フィアナ」
「お腹空きましたニャ。ジョウジさん、ごはん食べましょうニャ」
ココナの言葉に、ジョウジは皮袋を開け、中に入っている物を取り出した。
ジョウジの手のひらと同じくらいの大きさの丸パンと、皮で出来た大きな水筒が入っていた。丸パンの中には、干し肉や野菜が挟んである。サンドイッチだ。もっとも、この世界にサンドイッチなる言葉があるかは知らないが……奇妙なことに、何故か紐で縛ってあった。
だが、それよりも気になることがある。サンドイッチにしてはあまりに重いのだ。持った瞬間に、違和感を覚えた。
中に、何か別の物が入っている。
「ニャニャ! 美味しそうですニャ! 食べましょうニャ!」
サンドイッチを見た途端、ココナは目を輝かせる。だが、ジョウジは彼女を制した。ナイフを取り出し、サンドイッチを結わいている紐を切り中を見てみた。
丸パン、干し肉、レタスのような野菜などが入っている。
さらに、金貨が一枚。
「ニャニャニャ……金貨が入ってますニャ……グレイさんとムーランさんは、間違えて入れてしまったのですかニャ? 金貨は食べられないのですニャ」
不思議そうな顔で、ココナは首を傾げる。ジョウジは思わず微笑んだ。
「本当だよな。全く、ひねくれた奴らだよ。普通に渡せばいいのに
」
言いながら、ジョウジはバーレンのある方角を見つめる。グレイとムーランは、今もあの街で芸をしているのだろうか。
そして、お尋ね者として追われ続けていくのだろうか……あのふたりが、過去に何をしたのかは知らない。しかし、ふたりには幸せになってもらいたい。
「ジョウジさん……食べていいですニャ?」
物思いにふけるジョウジだったが、ココナの声により現実に引き戻された。見れば、物欲しそうな顔でパンや干し肉を見ている。ジョウジは苦笑し、パンの中に肉と野菜を挟んだ。
「ほら、食べていいよ。ちょっと金貨の味がするかもしれないがな」
「ありがとうございますニャ!」
ココナは、サンドイッチを受け取り食べ始めた。時おり「ニャニャ」という声を洩らしながら、美味しそうに頬張っている。
ジョウジは微笑みながら、他のサンドイッチからも金貨を取り除く。サンドイッチは全部で四つ。金貨は四枚。この世界において、金貨がどれくらいの値うちなのかは知らない。だが、かなりの値うちがあるらしい。旅をする上で、金は必要だ。
ジョウジは、ホムンクルスに視線を移した。微笑みながら、サンドイッチを差し出す。
「食べるか?」
「ありがとう」
ホムンクルスは頷き、サンドイッチを食べ始める。一方、ココナはあっという間に食べ終え、好奇心の赴くままに周囲を探検し始めた。廃屋の中を覗きこみ、匂いを嗅いでいる。
だが、不意にこちらを向いた。
「ジョウジさん! 誰かがこっちに近づいてますニャよ!」
「何だと……誰が来たんだ?」
言いながら、ジョウジは立ち上がった。まさかとは思うが、追っ手が来たのだろうか。
だが、その答えは想定外のものだった。
「この匂いは、チャックさんですニャ!」
やがて、とぼけた表情のチャックが現れた。ジョウジたちに向かい、ヘラヘラ笑いながら恭しくお辞儀をする。
「いやあ、皆さん。待っていてもらえたとは嬉しいね。いやあ、感激だよ」
「何やってんだよ、お前は……」
呆れたような表情で言葉を発したジョウジに対し、チャックは笑みを浮かべながら近づいて行く。
「何って、お前らのことが心配だから追いかけて来たんだろうが。お前らだけじゃ、危なっかしくて仕方ねえ。やっぱり、俺みたいなしっかり者が付いててあげないとさ。ところでさ、これ食べてみなよ」
そう言うと、チャックは布袋を差し出す。
「豚肉の蒸し焼きだ。美味いぞ」
「ニャ! 美味しそうな匂いですニャ!」
そばに居たココナが目を輝かせ、袋を見つめる。ジョウジは苦笑した。
「まったく、しょうがないな……」
チャックとココナとホムンクルスは、楽しそうに会話している。まるで、昔からの知り合いのように。
その様子を見ながら、ジョウジは考えた。
自分は、元の世界に戻り復讐するつもりだった。ユウキ博士を殺した連中を殺すという目的を果たそうと決めていた。
しかし、自分はこの世界で、繋がりが出来てしまった。
それに……この世界で、何人もの人間の命を奪ってしまった。
それら全てを無かったことにして、元の世界に帰ることなど出来ない。それだけは、してはいけないことだ。
自分は、この世界に骨を埋める。
ユウキ博士、本当にすみません。
今の俺には、あなたの仇は討てない。
あなたに言われた通り……俺はこの世界で、人間として生きていきます。
「なあジョウジ、ホムンクルスの名前はどうするんだよ?」
不意に、チャックが声をかける。ジョウジは面食らったような表情になった。
「な、名前?」
「そうさ。いつまでもホムンクルスなんて呼ばれたら、あんただって嫌だろ? ジョウジに名前を付けて欲しいだろ?」
そう言うと、チャックはホムンクルスの方を見る。ホムンクルスは、はにかみながら頷いた。
「うん……あなたに付けて欲しい」
「わかった」
ジョウジは下を向いた。ふと、幼い頃に観たロボットのアニメを思い出す。人工的に創られた女のアンドロイドが登場していた。名前は確か──
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