灰色のエッセイ

板倉恭司

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ゲーセンの話

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 以前にも書きましたが、私の地元は本当にガラの悪い町でした。公園には、制服姿でタバコを吸ってる中学生がうろうろしてました。さらに夜になると、怪しげなものをキメているとおぼしき一団に出くわしたりもしてました。
 あと不良の溜まり場と言えば、やはりゲームセンターでしたね。まあ、それ以外にもあちこちで溜まっていたのは確かですが。ただ当時のゲーセンは、ちょっと特殊な状況だった気がします。

 私がゲーセンに通い始めたのは、小学生の時です。当時は何が人気だったかといいますと……実は、あまり覚えていません。友だちとワイワイ言いながら、名も知らぬゲームをやっていた、という記憶しかないんですよね。
 そんな中でも、はっきりと記憶にあるのが『ストリートファイター』(2ではありません)というゲームです。とても大きな筐体と大きなボタン(押すというより叩いてました)、そして大きな画面で二人の格闘家が闘う……これは衝撃的でしたね。ただし、一回のプレイに百円かかるのが難点でした。当時は、一回のプレイが五十円のゲームが大半だっただけに、一回百円かかるのはきつかったですね。

 さて、小学生の頃はどうにかヤンキーとの接触を避けていられました。しかし中学生になってくると、否応なしにヤンキーと接触することとなります。まあ、大概は目を逸らして難を逃れていましたが……カツアゲは二回遭いましたね。
 ただ私の場合、マンガなどでカツアゲの常套句として用いられる「飛んでみろ」と言われるパターンは無かったですね。一応説明しますと「飛んでみろ」というのは「その場でジャンプしてみろ」ということです。ジャンプすると、仮にポケットに小銭が入っていた場合、チャリンと鳴ります。そうなると、「なんだよ、金あるじゃん」という展開になります。結果、身ぐるみ剥がれてしまうような事態になりかねない訳ですね。
 もっとも私は、こんなやり方には遭遇しませんでした。私がカツアゲされた時の手口は……まず、いきなりの壁ドンです。さらに、こんなセリフが飛んで来ました。

「ちょっと申し訳ないんだけどさ、俺の弟がケガして入院したんだよ。悪いんだけど、カンパしてくれねえかな?」

 そう言いながら、顔を近づけて来るヤンキー。私は仕方なく、有り金の数百円を出して難を逃れたのであります。
 それからしばらくして、また別の数人のヤンキーにカツアゲされましたが、その時は、こんなセリフを吐いてました。

「悪いけどよう、俺たち財布を落としちまったんだ。電車賃が無いと、帰れないんだよ。だから、金貸してくれや」

 この時も、私はポケットに入っていた数百円を差し出して難を逃れました。
 余談ですが、当時のカツアゲの手口には、もっと凝ったものもあったとか。パーティー券や二束三文のアクセサリー、果てはエロビデオ(当時はVHSのビデオテープでした)などを渡すケースもあったそうです。仮に逮捕された時……金を奪ったのではなく、純粋なる「商取引」であったと言い逃れするためだとか。しょうもないことを考えるなあ、と思いますね。

 そんな近所のゲーセン事情ですが、ある時を境に大きく変化しました。
 それは『ストリートファイター2』の登場です。前作の『ストリートファイター』から大きく変化したこのゲーム、爆発的なヒット作品となりました。八人の格闘家から好きなキャラを選んでプレイする……などと、いちいち説明する必要も無いでしょうね。
 この『ストリートファイター2』(以下スト2と表記)の革新的な部分といえば、何と言っても対戦台でしょうね。それまでのゲームは、基本的に一人で遊ぶものでした。しかし『スト2』のヒットにより、みんなで対戦するのが当たり前になってきたのです。それに伴い、ゲーセンに通う人も多くなりました。
 そうなると、対戦型ゲームも増えてきましたね。『餓狼伝説』、『ワールドヒーローズ』、『バーチャファイター』、『鉄拳』などなど。
 すると、奇妙な現象が起きました。ヤンキーたちは、メダルゲームのコーナーへと追いやられて行ったのです。
 もともとヤンキーたちは、ゲームよりもつるむのが目的でゲーセンにいた訳です。ゲーセンはある意味、彼らにとって居心地のいい溜まり場でした。ところが対戦型ゲームのブームにより、一般人やゲームマニアたちが次々と来店するようになってしまいました。
 そうなると、ヤンキーにとっては甚だ居心地が悪くなりました。何せ、一般の学生やゲーム好きたちの方が遥かに多い訳です。雰囲気が明らかに違う……そうなると、自然とメダルゲームのコーナーにたむろするようになりました。
 知らない方もいるかも知れないので説明しますと、メダルゲームとはカジノにあるようなスロットマシンやポーカーゲームなどが主なものです。金を出してメダルを買い、プレイするのですが……大当たりするとメダルが大量に出ます。
 しかし、このメダルは換金することが出来ません。ゲーセンを一歩出たら、何の価値も無くなります。ゲーセンで遊ぶ以外には使用できない……メダルには、そんな悲しい運命が漂っているのです。

 そんな訳でして、近所のゲーセンは……ゲームコーナーには一般人とゲームマニア、メダルコーナーはヤンキーという形で住み分けが出来てしまいました。
 しばらくは、それで上手くいっていましたが……やがて終わりがきます。
 ヤンキーというのは、基本的に暇になるとロクなことをしません。やがて彼らは、メダルコーナーに来る小学生や中学生からメダルをたかるようになります。お陰で、メダルコーナーの売り上げはガタ落ちになったとか。
 しかし、ヤンキーたちの悪さはそれでは止まりません。これはゲーセンのバイトから聞いた話ですが……ヤンキーたちはメダルゲームの筐体をぶっ壊し(一台だけですが)、中からメダルを抜いたらしいのです。
 そこまで来ると、さすがの店長も決断しました。メダルコーナーを、全て撤去してしまったのです。
 もともとメダルの売り上げは落ちていましたし、不良の溜まり場になっていることも知っていました。ならば、いっそ全部潰してしまえ……と店長は考えたようなのです。
 結果、ヤンキーはゲーセンから姿を消しました。彼らは、自分で自分の首を絞めることとなったのです。めでたしめでたし……という訳には、いかなかったようです。
 さらに月日が流れると、そのゲーセンはいつの間にか潰れていました。やはり不景気には勝てなかったようです……。

 蛇足になりますが、かつて新宿にあった某ゲーセンのメダルは路地裏で換金できた、という噂がまことしやかに流れていました。確認は取れていませんが。





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