ぼくたちは異世界に行った

板倉恭司

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村人大不安(2)

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 老人はヨーゼフと名乗り、一行を村の中心に案内した。
 村の中心にある広場には、ケットシー村と同じく井戸があり、みんなが集まって話し合いなどをする場所になっているようだった。そして、家の中に隠れていた村人がぞろぞろと出て来る。
 みんな男か、年老いた女たちだ。どの顔を見ても、やつれ、疲れきった表情を浮かべている。不信感を露にした目で一行を見ていた。
 そんな村人たちの様子を、ギンジはじっと観察していたが……おもむろに口を開く。

「なあ、あんたら山賊って言ってたが……山賊と揉めてんのか?」

 ギンジの問いに。ヨーゼフは頷いた。

「ああ、そうなんじゃ。一年ほど前から、奴らはここにやって来る。ここで採れる、わずかな物や若い女たち……奴らはそれを奪っていく」

 忌々しげな様子で答えるヨーゼフ。その言葉に、ガイが反応した。

「許せねえな。ギンジさん、山賊どもをブッ殺してやろうぜ――」

「やめてくれ。奴らには……娘たちが人質に……」

 ガイの言葉を遮り、ヨーゼフが弱々しく言葉を発する。

「だろうと思ったよ。さっきから若い女の姿がひとりも見えない。これは何かあるな、と思ったが……案の定だ。だが、それだけなのか?」

「何が言いたいのじゃ、ギンジさん?」

「質問に質問で返すなよ。まあいい、質問を変えよう。あんたらはどうしたい? 山賊に支配され、じわじわと苦しめられるか? それとも、痛い思い……いや、死人が出るかもしれないが山賊を追っ払うのと、どっちがいいんだ?」

 ギンジが尋ねる。すると、村人たちはようやく口を開いた。

「そんなこと言われても……」

「分からないよ」

「戦いは怖いし……」

 村人たちは皆で顔を見合わせ、ボソボソ言うだけだ。一向に、はっきりと答える気配がない。
 すると、ガイが苛立ったような表情で進み出る。

「お前ら何なんだ! はっきりしろ! 嫌なものは嫌だって言えないのか!」

 怒鳴りつけると、村人は怯えたような表情になる。

「あ、ああ、嫌だけど。でもなあ……」

「あいつら怖いしな」

「強いしな」

「戦うのは嫌だしな……」

 村人たちは、やっと大きな声で語り始めた。だが、なんとも歯切れの悪い言葉しか聞こえてこない。

「何なんだよ、てめえらは! だったらオレたちが、山賊を追っ払う! それでいいな!」

 しびれを切らしたガイの一言で、村人たちは納得して頷いた……ように見えた。だが、相変わらず覇気のない顔をしている。
 その様を見たヒロユキは、一抹の不安を覚えた。こんな人たちと、一緒に戦えるのだろうか?



「で、山賊はどんな連中なんだ? 強いのか?」

 ギンジは村人たちを値踏みするように、ひとりひとりの顔や体つきをじっくり観察しながら、ヨーゼフに再び尋ねる。

「人数は、二十人ほどじゃな。しかし、山賊たちのボスが恐ろしい奴なんじゃよ。人喰い鬼……オーガーなのじゃ」

「オーガーだと……ヒロユキ、オーガーってのはあれか? 日本でいう鬼みたいな奴か?」

「え、ええ。力はゴリラ並みですが、頭は良くないです。しかし変ですね。何でオーガーが山賊たちのボスになっているのか……オーガーは、人間を食べるはずです。山賊と手を組むとは思えません」

 ヒロユキは首を傾げながら答える。
 これは妙な話なのだ。ヒロユキの記憶によれば、この世界に似ている『異界転生』というゲームにおいて、オーガーと山賊がチームを組んで出現したことは無かったのだ。そもそも、頭の悪いオーガーに山賊を統率することなど不可能なはずだ。にもかかわらず……ヨーゼフの話を信用するなら、山賊のボスをオーガーがやっているという。
 オーガーを手なずけるような猛者が、山賊の中にいるのかもしれない。となると、ある意味そいつの方が脅威になるのではないか……と、ヒロユキがそこまで考えた時だった。

「めんどくせえなあ……ヨーゼフさんよお、山賊はどこにいるんだ? 夜中、寝静まった時に乗り込んで行って全員ブッ殺してやる。その後で若い娘たちを助けりゃ文句ねえだろ」

 残忍な表情で、ヨーゼフに詰め寄って行くガイ。だが、ギンジが制した。

「まあ待て、まずは交渉だ。交渉で決着が付けば、問題ないだろう。なあヨーゼフさん、山賊は今度、いつ来るんだ?」

「おそらく、二、三日内には来るじゃろう」

「だったら、少し待たせてもらうか。山賊退治といこうぜ。うまくいけば、山賊からも情報を聞けるだろうしな」









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