死願島遊戯

板倉恭司

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死願島遊戯

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 井上正樹、北村健人、直島力也、冬月蘭……彼ら四人の人生は、完全に分断されてしまった。正樹と力也は裏の世界の住人となり、健人と蘭は表の世界で生きている。このまま交わることなく、平行線のまま進んでいくかに思えた。



 ところが、ある事件を機に、またしても四人の運命は交錯していく。
 発端は、ヤクザと半グレの間で起きた抗争事件を捜査していた健人と、関係者である力也が偶然の再会を果たしたことだった。
 刑事と半グレ……本来ならば、交わってはいけないはずの両者だった。しかし、驚きと懐かしさと嬉しさが、お互いの立場を忘れさせる。ふたりは再会を喜び、時間を忘れて語り合った。翌日には力也の協力により、健人は事件の容疑者を逮捕する。
 以来、両者は立場を超えて協力し合うようになった。力也は裏社会で築き上げたコネをフルに用い、そこから得た情報を健人に流す。お陰で、健人は若くして数々の事件を解決した。代わりに健人は、刑事という立場を利用し力也に様々な便宜を図った。表社会の健人、裏社会の力也……ふたりは、順調にのし上がっていく。
 力也は、健人が蘭と付き合っていることも知らされていた。だが、敢えて蘭の前には出なかったし、自分のことを秘密にしておくよう頼んでもいた。裏の世界に生きる以上、表の世界で生きる蘭とは関わってはいけない……そう心に決めていたのである。

 ある日、健人は奇妙な噂を聞く。
 広域指定暴力団『銀星会』ナンバー2の息子であり、裏社会の大物でもある安藤敏行。数々の重大事件の容疑者として浮上してはいるものの、これまで刑罰を受けたことがなく起訴されたことすらない。取り調べを受けたことも三回しかなく、証拠不十分で釈放されている。健人自身、この男を逮捕までこぎつけながら、証人が口をつぐんでしまい釈放せざるを得ない……という苦い体験をしている。
 そんな安藤であるが、有り余る財を費やし、とんでもないゲームを開催しているという噂を耳にした。過去に罪を犯した者たちを密かに誘拐し、とある島の地下に作られた迷路の中にデスゲームの参加者として送り込む。

 その迷路の中には、様々な罠が仕掛けられているのだ。しかも、逮捕を免れた殺人犯たちを島に匿っているらしい。その殺人犯たちをハンターと呼び、迷路の中に解き放つ。ハンターには、参加者たちを狩る仕事をさせているのだ。
 以前より、安藤に関しては様々な噂を聞いてはいたが、どれも今ひとつ信憑性に欠けるものだった。このデスゲームの噂にしても、最初はバカバカしいと一蹴していた。
 そんな中、デスゲームに関する有力な情報を得る。かつてゲームに参加しリタイアに成功した者を、力也が偶然に見つけ出したのだ。



 健人は、さっそく捜査を開始する。慎重かつ大胆な捜査、また力也の協力を得られたこともあり、死願島遊戯なるデスゲームの詳しい情報を得る。さらに、過去に参加した経験のある橋山要次と接触し、話を聞くことにも成功した。開催地の場所も、おおよそは把握している。あとは物的証拠さえあれば、安藤を逮捕できるはずだった。
 だが、健人は急ぎすぎた。あちこちで話を聞き回った挙げ句、その存在を安藤に知られてしまう。安藤は、部下に命じて健人を拉致した。さらに、死願島遊戯へと参加させてしまう。

 健人は強靭な肉体と優秀な頭脳、そして驚異的な粘り強さで、ハンターたちの襲撃や危険なトラップを躱していく。全ては、安藤への怒りと蘭への愛ゆえだった。こんなところで死んでたまるか、ここから生きて出られたら蘭にプロポーズする……その思いが、健人を支えていたのである。
 ところが、最後の最後で上松に足をすくわれてしまった。無論、健人の死体は安藤が秘密裏に処理する。彼は誰にも知られることなく死んでしまった……はずだった。
 ここで動いたのが力也だ。健人と連絡が取れなくなったことに不安を覚え、裏社会のルートと築き上げたコネを用いて独自の調査を開始する。やがて、安藤の手下が健人を拉致したことを知った。おそらくは、消されてしまったのだ。

 力也は怒りに燃え、復讐を誓い行動を開始する。だが安藤の身辺を調べてみると、異常なまでの用心深さがわかってきた。
 そもそも、この安藤という男は……かつてもてあそんだ挙げ句に捨てた女に、刃物で刺され半身不随となった経歴の持ち主だ。以来、車椅子生活を余儀なくされている。
 その経験からか、接触する人間を極端に制限していた。普段は島の地下にて生活しており、彼に直接会うことの出来る人間は、わずか数人だという。それも、付き合いが十年を超え心から信頼している者たちばかりである。仕事は全てリモートで行い、女ですら近づかせないのだ。安藤を殺すのは、島を爆撃でもしないかぎり不可能に思われた。
 それでも、力也は諦めていなかった。何年かかろうとも、必ず健人の仇を討つ……心に誓い、復讐の念を隠し安藤に近づいていく。密かに、機会を窺っていた時だった。またしても、運命のいたずらとしかいいようのない出来事が起こる。



 海外に渡っていた井上正樹から、久しぶりに連絡が来た。実のところ、両者はたまにメッセージを送り合っており、時には力也が正樹に送金したり、逆に正樹が力也に情報を流すこともあった。
 だが、今回はそういったビジネス関連のものではない。とんでもない内容である。

「俺は、もう長くないらしい。病院で調べてもらったが、余命一年だそうだ」

 聞けば、正樹は中東の戦場にて、劣化ウラン弾により病に侵されてしまったのだという。医師によれば、余命はあと一年あるかないか……しかも、半年後には寝たきりになる可能性が高いらしいのだ。
 そんな正樹に、力也はためらいながらも今の状況を伝える。と、すぐに返信がきた。

「俺は、あと半年しかまともに動けねえんだ。しかも、一年後には確実に死ぬだろう。だったら、残された命を健人の仇討ちに使わせてくれ。俺が、安藤を殺す。頼むから、そいつの情報をくれ」

 力也は、うんとは言えなかった。一年しかない余命を、復讐のために使っていいのだろうか。正樹は、これまで死と隣り合わせの世界で生きてきた。ならば、残された時間を静かに過ごさせてあげたい。その気持ちを、彼に伝える。
 しかし、正樹は引かなかった。

「おい、ふざけるなよ。健人が殺られたってのに、静かな余生なんか過ごせるか。それにな、もう日本に帰る手続きはしちまったんだ。俺は、ひとりでもやるぞ。安藤敏行を、この手で殺してやる」

 このメッセージを読んだ力也は、心を決めた。正樹という男は、頭はキレるし冷静だが強情な一面がある。一度こうと決めたら、誰が何と言おうと曲げない性格の持ち主だ。しかも、健人を殺されている。絶対に引かないだろう。その上、余命いくばくもないのだ。放っておいたら、何をしでかすかわからない。
 いざとなったら、テロリストのごとく関係する場所や組織に単独でカチ込んで行くだろう。そうなったら、ただの犬死にだ。
 ならば、自分が協力するしかない。正樹の願いを、自分が叶えるのだ。



 力也は必死で考えた。どうすれば、安藤敏行と正樹を対面させることが出来るのだろうか。
 だが、いいアイデアは浮かばなかった。安藤は一度死にかけてから、外出すらしなくなったという。死願島に建設した施設に閉じこもっており、そこから出ることはない。直接会える人間も、数人に限られている。
 あちこちに金をばらまき、時には暴力を用いて調べた結果……ひとつの有力な情報を得る。死願島遊戯にて、完全制覇に成功した者は安藤から賞金を手渡されることになっているらしい。事実、唯一の完全制覇者である上松守に賞金を手渡した際には、自らの手で賞金を渡した……安藤本人が、そう吹聴していたらしい。
 ならば、正樹がゲームに参加しクリアすれば、安藤と直接会うことが出来る。あと半年以内に、正樹に復讐を果たさせるには、この手しかない──

 まず力也は、死願島遊戯のスタッフとなるべく安藤に自らを売り込む。もともと、この両者は知らない仲ではなかった。健人との関係もバレていない。やがて安藤に気に入られ、死願島遊戯のスタッフとなる。
 次に力也は、正樹に計画を打ち明けた。このデスゲームに参加しクリアすれば、安藤と直接会うことが出来る。半年以内に奴を仕留めるには、この方法しかない……と。
 正樹は、迷うことなく頷く。この男は、格闘はもちろん様々な武器の扱いにも長けている。しかも、海外の危険な連中と戦い生き延びていた。日本の犯罪者など、相手にならないだろう。
 あとは、ゲームに正樹を参加させるだけ……のはずだった。が、ここで想定外のトラブルが起きる。



 力也が住んでいるアパートに、冬月蘭がいきなり訪ねて来たのだ。もちろん、力也は自宅の住所を教えた覚えなどない。そもそも、両者は十年以上会っていなかったし、会う気もなかったのだ。
 久しぶりの再会に驚く力也に、蘭はこんなことを言ってきた。

「ねえ、健人は安藤って奴に殺されたの!?」

 愕然となった。なぜ、その名前を……と思う間もなく、蘭はさらに詰め寄る。

「ちょっと! 答えてよ! どうなの!?」

 その顔は、真剣そのものである。さすがの力也も、返す言葉が出てこなかった。

 健人は、自分が殺されるかもしれないことを予測していたのだ。万一に備え、信用できる弁護士に遺書を託していた。その内容はというと、自身が安藤敏行の犯した罪について捜査していることが記されていた。さらに、自分からの連絡が途絶えたら力也を頼れ……とも書かれていたのである。

「健人は死んだの!? ねえ、本当のことを教えてよ!」

 なおも迫る蘭に、力也はどうすべきか迷った。もし計画を明かせば、彼女は黙っていないだろう。必ず、自分も加えろと言ってくるはずだ。それは、一般人の蘭にとってあまりにも危険すぎる。彼女を、危ない目に遭わせたくない……はずだった。
 にもかかわらず、力也は計画を打ち明けた。さらに、蘭にも加わるかどうか尋ねる。
 
「やるよ。その安藤とかいう奴を、あたしが殺す」

 蘭は即答する。その表情からは、冗談で言っているのではないことが伝わってきた。



 次の日から、蘭の生活は一変した。
 ゲームの開始まで、三週間を切っている。残された時間を、体力の養成と技能の習得に費やすことにしたのだ。
 朝はランニングなどの持久力を鍛える有酸素運動を行い、昼は筋力トレーニング。そして夜は、ひたすら射撃の練習に費やした。力也の手助けにより、実弾を用いた射撃をさせたのである。徒手格闘や武器術などの訓練はさせず、拳銃での暗殺のみに絞ったのだ。

 一方の正樹は、来日に手間取ったため力也たちと会うことが出来なかった。本来なら、日本で合流し入念な打ち合わせをするはずだったが、それは叶わなかった。
 結果、迷宮の中で蘭と正樹は再会を果たすこととなる。会った直後に、彼女が流した涙……それは、十五年ぶりの再会ゆえに出たものだった。
 それからの正樹の戦いぶりは、凄まじいものだった。立ちはだかるハンターや、リタイアを狙い襲いかかる参加者を、次々と仕留めていく。だが、安藤の秘蔵っ子とも言えるハンター三又を相手に深手を負わされ、最終的に相討ちとなって果てる。
 残された蘭は悲嘆にくれながらも、最後までやり遂げる。健人の仇でもあった上松をその手で仕留め、ゲームクリアに成功したのだ。

 脱出を果たした蘭を、力也は身体検査と称してカメラのない部屋に連れ込んだ。彼女に乱暴するふりをして黒服たちを追い出すと、まずは疲労回復効果のあるドリンクを飲ませる。そして、正樹が死んだことも伝えた。見事な死に様だったぜ、と。
 泣き崩れる蘭を励まし、スボンの中に拳銃を隠し持たせ、手錠はすぐに外れるよう細工した。彼女に、全てを託したのである。
 その後の蘭は、力也の期待通りの働きをする。至近距離から一発でボディーガードを仕留め、次いで諸悪の根源である安藤も射殺した。さらに竹本を拳銃で脅し、部屋のドアを開けさせる。
 そこに入ってきたのが力也だ。入った直後、蘭と竹本を射殺した……少なくとも、残されていた映像を見る限り、そうとしか思えなかった。

 映像は、そこで途絶えている。黒服たちが何が起きたか気づいた時、力也は姿を消していた。安藤の極端な秘密主義が仇となり、気づくのに手間取ったのだ。その上、室内の映像を監視するのは力也に一任されている。黒服たちが映像を見たのは、全てが終わってから、だいぶ時間が経過した頃だった。
 しかも、部屋には火が放たれており、死体の確認も行えない状態だった。







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