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○たぶんそれが普通。

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 物置の中は埃だらけだ。ちょっと探し物。煙草でも吸いながらやろうかなと思ったけど止めた。ライターを点けたら粉塵爆発が起きそうだ。
「俺の教科書って、まだ残ってる?」
 ってお袋に聞いたら、
「うーん、捨てた覚えないな。あるとしたら、物置き?」
 って言うからここに来た。広い物置きの中は、やべぇくらいごちゃごちゃだ。うっかり“あの時期”の前にこれ見てたら、大変だったよな。あの時期……“発情期”の直前なんかにこの散らかりようを見たら、めちゃめちゃ片付けがしたくなってしまう。Ωの巣作りネスティングの症状の一つだ。その時だけ、やたら綺麗好きになる。Ωによっては窃盗症になるヤツもいるらしく、片付け魔タイプの俺は、まだ恵まれている方かもしれん。
「とにかく、さっさと取りかかろ」
 昼休み中には終わらせないと。親父や知玄とものりに見付かれば、何してるのか説明するのが面倒臭い。
 物の場所は何となーく、種類別に纏まっているっぽい。使っていない学チャリの向こう側に、紙類が積み上がっているのが見える。チャリを脇に避けて、紙束を一つ一つ下ろしていく。埃がもうもうと舞い上がり、咳とくしゃみが出た。
 探し物は案外すぐに見つかった。高校の教科書が、全部まとめて紐で括られている。紐を解いて、一番上にあった国語の教科書を手に取ってみた。新品同様に手垢が着いていないのは、俺のだってことだ。だいたい、国語が一つの教科にまとまっていること自体が、馬鹿学校俺の母校のテキストである証明なのだが。
 束の中から、保健体育と生物の教科書と図版を見つけ出してパラパラめくる。あった。
【第三の性について】
 保健でも生物でも教科書にほんの一行くらいしか書かれていないが、やっぱり習うっちゃ習うんだよな。たった一行のことだし、太線で強調されてもいないから、テストにも出ないんだろう。こんな記述は、当事者でもなければ、スルーしちゃうのが普通だな。
 生物の図版だと少し詳しい。第三の性にはα、β、Ωがあって、ほとんどの人間がβ。αは人口の約0.1%、Ωは約0.02%とある。この国の人口のうち、2万4千人がΩってことだよな。内、男Ωは1万2千人。それを単純に都道府県の数47で割ると、一県につき255人の男Ωがいるはず。各市町村ごとに1人未満。日常生活で遭遇することは、ほぼ無いかもしれん。
 教科書の間に新書が一冊まぎれ込んでいた。『知られざる第三の性――Ωとα――』こんな所にあった。どうりで、俺の部屋のどこにも見付からなかったわけだ。
 知玄のヤツにこれを読めって言うかな。あいつ、自分がαだって知らないっぽいんだ。まあバース性なんか、男Ω以外の奴が知っても何もメリットないっていうしな。とくにαはいっそ死ぬまで知らないままの方がいいかもなんて、俺の運命の番セフレは言っていた。うっかり兄弟で番になったことなんかも知らないなら知らないで……なんて考えつつ新書をめくっていたら、つい熟読してしまい、気付けば親父が外で「アキはどこ行った!?」とキレていた。
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