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●喧騒の中でも兄と二人。
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「うわぁ」
思わず溜息が出た。紙灯篭の幻想的な灯りに照らされた、門前町。ちょっと脇道に入ってみたら、そこは不思議の国だった……みたいな。
大鳥居を潜ると、すぐ正面に古くて立派な屋台があった。屋台というのは的屋のことではなくて、よその地域では「山車」と呼んだりするもの。木製の四輪車の上に、お囃子や生き人形を乗せる舞台がついている。僕達が着いたときには、祭り絆纏を着た人達が提灯を屋台の軒から外し、火を入れようとしていた。
僕は人込みを見回した。いた! 兄は隣の公園で花壇の縁石に腰掛けて、煙草を吸っていた。
「お兄さん!」
兄はすぐに僕を見たけれど、他の人達に話しかけられ、そっちに気を取られてしまった。代わりにこっちに向かって来たのは、従兄弟の智也だ。
「よぉ、知玄。珍しいじゃねぇか」
子供の頃からの癖で、僕はつい一歩後ずさってしまった。智也の、相変わらずの兄へのリスペクトぶり。兄を真似て髪を脱色し、喋り方や仕草まで真似て、兄の劣化コピーのようだ。でも、兄の髪色はこんな下品な感じの黄色ではないし、頬はだらしなく弛んではいない。背だってこんなちんちくり……いや、身長はほぼ同じでした。
智也は睨みをきかせながら距離を詰めてくる。細い眉と目を憎々しくしかめている。顔のパーツだけなら、残念ながら智也は兄と似ている。僕と兄と智也、三人揃っていて他人から兄弟だと思われるのは、いつも兄と智也だった。
一人っ子の智也は、子供の頃から僕を差し置いて兄の弟になりたがり、大人達や兄の目を盗んでは、僕をいじめた。僕はつい弱気になってしまいそうだ。だけど僕はもう、昔の「コロコロ鈍足黒子豚」ではないですよ!
「どうも、こんばんは」
相手のレベルに下がるのも癪なので、丁寧にご挨拶。すると智也は、
「生意気に女ばっかり引き連れてんじゃねぇよ、知玄の癖によぉ」
あくまでも下卑た応答をしてくる。
「おい、何してんだ!」
兄もこちらに気づいたようだ。兄の目の前で智也に負けるなんて格好悪い。僕はもう言われっ放しになんかならない。言い返してやるぞ、と息を吸い込んだところ、
「きゃー、みんなぁ。来てくれたんだねぇー!」
どこかのんびりとした声がしたと思ったら、真横に弾き飛ばされた。智也の方はカッコ悪く尻餅をついている。
「茜ちゃん!?」
茜ちゃんは真咲姐さん達とかわるがわるハグをしていく。もしかして、僕を助けてくれたのだろうか? なのに僕は、彼女が兄が着ているのと同じ祭半纏を着ているのを見て、心がモヤモヤしてしまう。
「知玄」
振り向けば、そこには兄が立っていた。白い短パンに青い祭半纏を着て、頭には豆しぼりのねじり鉢巻。兄弟なのに、兄の祭装束姿を僕はこの時初めて見た。
「いなせですねぇ、お兄さん」
「よく来たな。お前もチビ達に混ざって屋台引きやれよ。ご褒美に菓子もらってさ。ずっとやってみたかったんだろ」
違う、本当は僕はお兄さんとお祭りに参加したい。でも兄が優しく言ってくれたから、
「はいっ」
と僕は力強く答えた。群衆のさざめきや真咲姐さんに捕まった智也の喚き声が遠ざかる。この時は、僕には兄と二人だけのひとときだった。
思わず溜息が出た。紙灯篭の幻想的な灯りに照らされた、門前町。ちょっと脇道に入ってみたら、そこは不思議の国だった……みたいな。
大鳥居を潜ると、すぐ正面に古くて立派な屋台があった。屋台というのは的屋のことではなくて、よその地域では「山車」と呼んだりするもの。木製の四輪車の上に、お囃子や生き人形を乗せる舞台がついている。僕達が着いたときには、祭り絆纏を着た人達が提灯を屋台の軒から外し、火を入れようとしていた。
僕は人込みを見回した。いた! 兄は隣の公園で花壇の縁石に腰掛けて、煙草を吸っていた。
「お兄さん!」
兄はすぐに僕を見たけれど、他の人達に話しかけられ、そっちに気を取られてしまった。代わりにこっちに向かって来たのは、従兄弟の智也だ。
「よぉ、知玄。珍しいじゃねぇか」
子供の頃からの癖で、僕はつい一歩後ずさってしまった。智也の、相変わらずの兄へのリスペクトぶり。兄を真似て髪を脱色し、喋り方や仕草まで真似て、兄の劣化コピーのようだ。でも、兄の髪色はこんな下品な感じの黄色ではないし、頬はだらしなく弛んではいない。背だってこんなちんちくり……いや、身長はほぼ同じでした。
智也は睨みをきかせながら距離を詰めてくる。細い眉と目を憎々しくしかめている。顔のパーツだけなら、残念ながら智也は兄と似ている。僕と兄と智也、三人揃っていて他人から兄弟だと思われるのは、いつも兄と智也だった。
一人っ子の智也は、子供の頃から僕を差し置いて兄の弟になりたがり、大人達や兄の目を盗んでは、僕をいじめた。僕はつい弱気になってしまいそうだ。だけど僕はもう、昔の「コロコロ鈍足黒子豚」ではないですよ!
「どうも、こんばんは」
相手のレベルに下がるのも癪なので、丁寧にご挨拶。すると智也は、
「生意気に女ばっかり引き連れてんじゃねぇよ、知玄の癖によぉ」
あくまでも下卑た応答をしてくる。
「おい、何してんだ!」
兄もこちらに気づいたようだ。兄の目の前で智也に負けるなんて格好悪い。僕はもう言われっ放しになんかならない。言い返してやるぞ、と息を吸い込んだところ、
「きゃー、みんなぁ。来てくれたんだねぇー!」
どこかのんびりとした声がしたと思ったら、真横に弾き飛ばされた。智也の方はカッコ悪く尻餅をついている。
「茜ちゃん!?」
茜ちゃんは真咲姐さん達とかわるがわるハグをしていく。もしかして、僕を助けてくれたのだろうか? なのに僕は、彼女が兄が着ているのと同じ祭半纏を着ているのを見て、心がモヤモヤしてしまう。
「知玄」
振り向けば、そこには兄が立っていた。白い短パンに青い祭半纏を着て、頭には豆しぼりのねじり鉢巻。兄弟なのに、兄の祭装束姿を僕はこの時初めて見た。
「いなせですねぇ、お兄さん」
「よく来たな。お前もチビ達に混ざって屋台引きやれよ。ご褒美に菓子もらってさ。ずっとやってみたかったんだろ」
違う、本当は僕はお兄さんとお祭りに参加したい。でも兄が優しく言ってくれたから、
「はいっ」
と僕は力強く答えた。群衆のさざめきや真咲姐さんに捕まった智也の喚き声が遠ざかる。この時は、僕には兄と二人だけのひとときだった。
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