49 / 86
●深酒と危険な香り。
しおりを挟む
『天体観測会中止のお知らせ』
天文サークルの一斉送信メールに起こされた朝、カーテンを開ければ外はしんしんと雪が降り積もっていた。それでも当然ながら、なぎさちゃんの結婚式は中止にはならない。
「これでオッケー。二次会頑張って。新しい彼女ゲットしてきなよ」
母は兄のネクタイを直し、バシッと肩を叩いた。
「うっせーなー。こんな田舎の結婚式だぞ。顔見知りしか来ねえって」
僕は階段を駆け下りる兄に着いていって、玄関先まで見送った。
「気をつけていってらっしゃい」
「おう、いってきます」
いってらっしゃいのキスをしたいけど、すぐそこに兄の友人の車が待っている。雪はまだ止みそうにない。どうか無事帰って来れますようにと、僕は祈るしかない。
「はぁ……」
兄の脱ぎ散らかした服をかき集めて畳む。もしも天体観測会が中止でなかったら、兄は朝まで外に放置されていたのかも。
もうすぐ日付が変わる。三十分ほど前に、兄は帰宅した。一人で立てないほど泥酔した兄の姿に僕は驚いたけれど、兄の仲間達もかなり困惑した様子で、
「悪ぃ、調子に乗って呑ませ過ぎた」
と一言謝ると、兄と兄のコートを僕に押し付け、逃げるように去っていった。
二階に上げる前にトイレに連れていき、胃の中のものを全て吐かせた。それでも部屋中に、強烈な酒気が充満する。
兄が苦しげに呻くので、僕は腰を上げた。すっかり掛け布団を蹴飛ばしている。裸同然の格好で何も掛けずに寝ては、風邪を引いてしまう。寝ている間に具合が悪くなっても苦しくないよう体位を整えてやり、布団をかけ直す。と、兄が僕の手首を掴んだ。
「何、逃げてんだよ」
「逃げてません」
僕は嘘を吐いた。本当は、今すぐこの部屋から出て行きたい。室内に充満しているのは酒気だけじゃない。夕焼け色の桜の匂い、僕を狂わせた兄の匂いが、眩暈がするほどに香っている。だが泥酔者を独りにしておくのは危険だという思いと、早く逃げないとそれはそれで危険だという思いが、せめぎ合う。
何が危険なんだろう? 後で兄に怒られること? 違う。身体の奥底から本能が警告してくるのだ。
強く手を引かれ、兄の上に倒れ込んだ。日常的に自身の体重よりも重い物を持ち運びする兄に、腕力ではかなわない。ましてや今は、酒のせいで理性の箍が外れてしまっている。たちまちベッドに転がされる。足が壁に当たり、鈍い音がした。
「わ、お兄さ……っ」
抗議しようとした口を、兄の唇が荒々しく塞ぐ。その間にも、兄の手は僕の身体をまさぐる。僕の意に反して、身体は昂ってしまう。ちゅ、ちゅ、と湿った音が鼓膜を打つごとに下半身に身体中の血が集まり、痛いほどだ。兄の手が僕の服の中に侵入してそれを見つけ、引っ張り出した。乱暴に数回扱き、導こうとする。腰に回された腕が僕を強く抱き寄せる。
「ダメ、ダメです、お兄さんやめて!」
僕の先端が兄の熱い肉の中に埋まり、すぐに根本まで覆い尽くされる。
「嫌だこんなの! お兄さんだって、こういうの好きじゃないでしょう!?」
早く動けとばかりに兄は腰を突き上げ、駄々っ子のように喚く。
「お前、俺に胸貸してくれるって、言ったじゃん!」
天文サークルの一斉送信メールに起こされた朝、カーテンを開ければ外はしんしんと雪が降り積もっていた。それでも当然ながら、なぎさちゃんの結婚式は中止にはならない。
「これでオッケー。二次会頑張って。新しい彼女ゲットしてきなよ」
母は兄のネクタイを直し、バシッと肩を叩いた。
「うっせーなー。こんな田舎の結婚式だぞ。顔見知りしか来ねえって」
僕は階段を駆け下りる兄に着いていって、玄関先まで見送った。
「気をつけていってらっしゃい」
「おう、いってきます」
いってらっしゃいのキスをしたいけど、すぐそこに兄の友人の車が待っている。雪はまだ止みそうにない。どうか無事帰って来れますようにと、僕は祈るしかない。
「はぁ……」
兄の脱ぎ散らかした服をかき集めて畳む。もしも天体観測会が中止でなかったら、兄は朝まで外に放置されていたのかも。
もうすぐ日付が変わる。三十分ほど前に、兄は帰宅した。一人で立てないほど泥酔した兄の姿に僕は驚いたけれど、兄の仲間達もかなり困惑した様子で、
「悪ぃ、調子に乗って呑ませ過ぎた」
と一言謝ると、兄と兄のコートを僕に押し付け、逃げるように去っていった。
二階に上げる前にトイレに連れていき、胃の中のものを全て吐かせた。それでも部屋中に、強烈な酒気が充満する。
兄が苦しげに呻くので、僕は腰を上げた。すっかり掛け布団を蹴飛ばしている。裸同然の格好で何も掛けずに寝ては、風邪を引いてしまう。寝ている間に具合が悪くなっても苦しくないよう体位を整えてやり、布団をかけ直す。と、兄が僕の手首を掴んだ。
「何、逃げてんだよ」
「逃げてません」
僕は嘘を吐いた。本当は、今すぐこの部屋から出て行きたい。室内に充満しているのは酒気だけじゃない。夕焼け色の桜の匂い、僕を狂わせた兄の匂いが、眩暈がするほどに香っている。だが泥酔者を独りにしておくのは危険だという思いと、早く逃げないとそれはそれで危険だという思いが、せめぎ合う。
何が危険なんだろう? 後で兄に怒られること? 違う。身体の奥底から本能が警告してくるのだ。
強く手を引かれ、兄の上に倒れ込んだ。日常的に自身の体重よりも重い物を持ち運びする兄に、腕力ではかなわない。ましてや今は、酒のせいで理性の箍が外れてしまっている。たちまちベッドに転がされる。足が壁に当たり、鈍い音がした。
「わ、お兄さ……っ」
抗議しようとした口を、兄の唇が荒々しく塞ぐ。その間にも、兄の手は僕の身体をまさぐる。僕の意に反して、身体は昂ってしまう。ちゅ、ちゅ、と湿った音が鼓膜を打つごとに下半身に身体中の血が集まり、痛いほどだ。兄の手が僕の服の中に侵入してそれを見つけ、引っ張り出した。乱暴に数回扱き、導こうとする。腰に回された腕が僕を強く抱き寄せる。
「ダメ、ダメです、お兄さんやめて!」
僕の先端が兄の熱い肉の中に埋まり、すぐに根本まで覆い尽くされる。
「嫌だこんなの! お兄さんだって、こういうの好きじゃないでしょう!?」
早く動けとばかりに兄は腰を突き上げ、駄々っ子のように喚く。
「お前、俺に胸貸してくれるって、言ったじゃん!」
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる